アナログ市場に見る「残存者利益」
column vol.836
DXが世の中で進行する中、「アナログブーム」が盛り上がっています。
そのブームを牽引する1つが、「音楽」ではないでしょうか?
最近、表参道で「Analog Market」が行われたことが記憶に新しいところ。
これは、音響機器のオーディオテクニカ創業60周年記念イベントとして行われました。
〈共同通信 / 2022年11月4日〉
「もっと、アナログになっていく」
イベントが行われたのは、11月4日(金)~6日(日)の3日間。
3つのエリアで実施されました。
青山ファーマーズマーケット(国連大学前広場)で開催された【Area1/Shopping & Workshop】は、アナログな「蚤の市」。
野生爆弾のくっきー!さんなど、さまざまなジャンルのクリエーターやブランドが40近くのブースを出展。
レコードを中心に、骨董・アンティーク、古着、アート、インテリア、観葉植物、オーガニックフードなど、つくり手の魂のこもった品が並びました。
渋谷区神宮前の「BA-TSU ART GALLERY」で行われた【Area2】では、オーディオテクニカの60年の歩みと代表的な製品を展示。
60周年記念モデル5製品の試聴が楽しめました。
例えば、ワイヤレスヘッドホン「ATH-WB2022」は、ウッドモデルでありながらワイヤレス。
世界初の完全バランス音声出力システムを採用し、ワイヤレス/USBデジタル接続の両方で96kHz/24bitのハイレゾ音源に対応しています。
つまり、アナログなのにハイテク。
新旧の魅力が重なり合った優れものです。
そして、最後の【Area3/Gallery】は南青山のSTUMP BASEで実施。
ここは「アナログ」なクリエーターたちによるサウンド&アートインスタレーションを楽しむ場所でした。
アナログ・シンセサイザーの名機「ROLAND System 100M」と、熊本県八代産の天然い草を使用した伝統的な製法の畳に現代のテクノロジーを融合させたサウンドシステム「TTM-V20」。
これらに実際の古民家から発掘された古道具をアレンジし、ここでも“新旧良いとこどり”を味わえました。
総じて、中高年には懐かしく、若者には新鮮なアナログ感性を楽しめる3日間となりました。
大復活の「レコード」需要
兎にも角にも音楽の世界のアナログを牽引するのが、レコードでしょう。
このことは皆さん周知の通りだと思いますが、アメリカでは、2020年にレコードの売り上げがCDを逆転したことをご存知でしょうか?
〈TBS NEWS DIG / 2022年11月6日〉
去年の売り上げは10億ドル(約1500億円)とCDの売り上げの約1.7倍になったです。
日本でもレコードの売り上げは右肩上がりで、去年は前年比約2倍の190万枚、売り上げも約40億円に達しています。
当然、レコードを聴くためのツールにも光が差しています。
例えば、レコード針。
創業82年の「ナガオカ」は、一時は最盛期の10分の1まで売上が縮小しましたが、接合針と呼ばれるレコード針で世界シェアの約9割を誇っています。
レコード盤を大量に作る上で必要な「ラッカー盤」でも長野県宮田村にある会社「パブリックレコード」に注目が集まっています。
なぜなら、日本で、いやいや世界で唯一のラッカー盤製造会社だからです。
つまり、世界でのシェア100%です…!
ここで頭に浮かぶのは「残存者利益」です。
残存者利益とは、過当競争や収縮傾向にある市場において、競争相手が撤退したあと、生き残った企業のみが市場を独占することで得られる利益のこと。
レコードが最近ブームとはいえ、私がレコードを聞いていてのは35年以上前。
CD、MD、そしてストリーミングという歴史の流れの中で、なかなかレコード関連の仕事を続けるというのは並大抵ではありません。
しかし、いくら周りが撤退しても続ければ勝ち。
予測不能なVUCA時代はとかく変化を求められますが、「不変」で勝者になるケーススタディとして非常に勉強になります。
我が社に眠る「宝」を探せ
仮に一度は撤退しても、もしかしてあなたの会社の倉庫には再ブレイクの卵が潜んでいるかもしれません。
音楽繋がりで面白いと思った事例が、文房具にあります。
最近、温かみのある「ファンシーさ」がウリのレトロ文具が流行っていますが、こちらのメッセージカードケースはただのケースではないのです。
これはかつてカセットテープのケースをつくっていた金型を再利用して製造されたもの。
この商品を生み出した株式会社エポックケミカルは樹脂製品メーカーであり、昭和時代には実際にカセットテープケースを生産していた歴史があります。
つまり、まさに社内の倉庫に眠っていたお宝を、再び使用し、レトロ文具として令和の人々の心を掴んだのです。
残念ながら金型は経年劣化でかなり傷んでいたため、今後このケースを量産するのは難しそうとのことですが、「もしかしたら、自社にも現代に蘇る過去の遺産があるかもしれない」と期待が膨らむ好事例なのではないでしょうか?
というように、変化するだけが生き残るための手段ではないことを、このアナログブームが教えてくれています。
そしてアナログブームがブームで終わらず、文化に変わった時、「残存者利益」は確固たるものになるでしょう。
しかし、再三繰り返しますが、残存者利益は簡単に得られるものではありませんし、もしかしたら変化するよりもリスクが伴うものかもしれません。
変化も不変も、どちらも明確な意志と勇気、そして忍耐強さが求められます。
経営の本質に触れるビジネスヒントでした。
さて、本日もこちらのnoteを書き上げたので、任務は終了です。
この後はシティポップでも聴きながら、静かな夜を過ごしたいと思います。
それでは、また明日。
次回の記事もぜひよろしくお願いいたします!
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