「量子コンピューター」が世界を変える
column vol.503
AI時代の主役を担う「量子コンピューター」ですが、米調査会社IDCは世界の量子コンピューター市場が2027年に86億ドル(約9800億円)に成長するとの予測をまとめたそうです。
〈ニュースイッチ / 2021年12月3日〉
20年の市場は4億1200万ドル(約470億円)とみられ、ネットワークによる量子コンピューティングサービスの提供も含めて27年には20倍強にまで急拡大する見通しがあります。
さらに、21年から6年間の複合年間成長率(CAGR)は50.9%になるとのことです。
IDCは21年が「量子コンピューター産業にとって転換の年」と指摘。
政府系機関や民間投資会社、企業の研究開発などによる量子コンピューター分野への投資額は、27年末までに164億ドル(約1兆8700億円)近くに達すると予想されています。
と、一方的に話し始めてしまいましたが…、そもそも「量子コンピューターって何?」という方もいらっしゃいますので、簡単に説明しますね。
量子コンピューターって何?
「量子コンピューター」とは、量子力学の重ね合わせの原理を活用して計算を行う技術で、素因数分解や量子化学計算などの問題を高速に解けることができます。
…と、なかなか難しい話なので…、まずは
「重ね合わせ」「計算を高速で解ける」
この2つだけ頭に留めていただければ幸いです。
「重ね合わせ」について説明すると、古典コンピューター(今使っているパソコンなど)は、情報の基本単位であるビットについて「0」か「1」で表されます。
電圧をオン・オフで切り替えて「0」か「1」どちらか一方が表示されていて、並列で表示することはできません。
一方、量子コンピューターはこの並列状態が存在します。
コインで喩えると分かりやすいのですが、古典コンピューターは裏か表か切り替える感じ。
量子コンピューターはコインが高速で回転する感じですね。
当然、高速で回転している間は、「0」か「1」は判断できませんし、同時に見えるかもしれませんし、2つの重ね合わせにより、その他の数字に見える可能性もあります。
この「重ね合わせ」により、今まで古典コンピューターで行っていた計算が爆速で処理されることになり、例えば、暗号資産などのハッキングが容易にしやすくなることが予想されています。
(もちろん、暗号資産側もその対策は講じるでしょうが)
そして、この量子コンピューターはAI時代を急速に進化させようとしています。
「AI」が「人間」の頭脳を超える
量子コンピューターが世界にもたらす一番大きなイベントが「シンギュラリティ 」でしょう。
シンギュラリティとは技術的特異点という意味で、技術哲学・科学哲学・未来学などにおけるAIの進歩の概念。
人工知能自身の自己フィードバックで改良・高度化された技術や知能が、「人類に代わって文明の進歩の主役」になる時点を指します。
ちなみに、人類の知能をAIが超えるのが2029年、そしてシンギュラリティ (AIが人類に代わって文明の進歩の主役になる)が2045年と言われています。
ここでよく取り沙汰される話題が、量子コンピューターによりAIのディープラーニングが人間のはるか予想を超えて行われ、そしていつしか暴走し、人間を支配。
もしくはそれ以上に恐ろしい事態を巻き起こしてしまうのではないかという悲観論です。
まさにターミネーターの世界です…(汗)
しかし、英ハダースフィールド大学の計算機科学の上級講師マウロ・ヴァラティ博士よると、ランダム性を持つという最近の量子力学が正しいとすれば、知能の向上が頭打ちするので、AIの暴走は起こらないと指摘しています。
〈SlofiA / 2020年2月8日〉
果たしてどちらが正しいのか…、手に汗握る展開です…(汗)
「量子コンピューター」は一般化するのか?
そんな近未来のキーアイテムとなりそうな量子コンピューターですが、果たして古典コンピューターのように一般化されるのでしょうか?
古典コンピューターも20世紀半ばに開発されたばかりの頃は、当時最高峰の技術とされており、一般化することなど誰も予想できずにいました。
一方、量子コンピューターはどうなのでしょうか?
〈ZD Net JAPAN / 2021年12月1日〉
原理的には、利用可能な計算能力を指数関数的に増加させることができるため、古典コンピューターでは妥当な時間内に解決できない問題の答えを見つけることを期待されています。
例えば、新素材の非常に高精度なシミュレーションや、気候変動の正確な予測などですね。
ですから、現在の使い慣れたコンピューターに取って代わるという予測も現実的であるとは言えます。
しかし、シカゴ大学コンピューターサイエンス学部助教授のビル・フェファーマンさんは、量子コンピューティングは、全ての問題で汎用的に高速化を実現できるわけではないと語っています。
その証拠に、トランザクションデータの処理(商品の購入や売り上げ予測の確認など)や、データベースアプリケーションなどについては、古典コンピューターの方がはるかにうまく実行できるそうです。
また、電子メール、音声通話やビデオ通話、ソーシャルメディアのスクロールは全て、既存のスマートフォンやノートPCで問題なく機能するのとのこと。
量子コンピューターが優れているのは化学や物理学の計算という特定のケースであり、恐らく100年後の世界も古典コンピューターが主流なのではないかとも言われています。
とはいえ、人間の知恵により、さまざまな分野での転用が見られる可能性もあるので、正解はまだ未来にならないと分からないですね。
いずれにせよ、冒頭でも述べたように量子コンピューターへの力の入れようは世界的に見られます。
コロナ前の世界はAIへの関心が高かったように、コロナ後の世界はより話題の中心になっていくことが予想されます。
今後もこの辺の話には常にアンテナを張っておきたいところです。
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