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鞍馬寺でお腹いっぱい

「風邪ひいたので、学校休みます。」

駅のコンコースの端で学校に電話する。

「分かりました。お大事に。」

へへ、今日もやってやったぜ。ほくそ笑む。

駅のトイレで、私服に着替える。

向かう先は、鞍馬寺だ。

高校3年生。

目的は、験担ぎ。
 
大事な部活の大会がいくつも控えている。
 
その度に、僕は鞍馬寺を訪れた。
 
精一杯、練習した。
 
何とか報われたい思いで、最後に登る。


鞍馬寺は、中心部から割と距離がある。
 
街の中心、三条京阪から片道45分。
 
出町柳から叡山電車という
レトロな電車に乗って30分くらい。
 
何度か京都に旅行に行くなら
一度は訪れてほしい場所。特別な場所だから。
 
電車で森を抜けいった先、鞍馬が最寄り駅だ。
 
駅を出て、階段を上がると大きな境内が出迎える。
 
境内を入り左手には小屋があり
参拝料と鞍馬寺のマップを貰うことが出来る。
 
何故だろう?

入口で、僕は必ず緊張をする。
 
マップを手に取った瞬間にいよいよ
修行が始まるような感覚に陥るのだ。

いざ、行かん。心地よい緊張と共に歩む。
 
鞍馬寺は、楽して、拝める場所ではない。
 
ハイキングコースでも有名な場所。
 
山道を練り歩き、ぐるぐると回り、
何段も石の階段を登り続け、到着する。
 
ケーブルカーも存在するのだが
僕は絶対に選びたくなかった。
 
歩いて、歩いて
到達する事に意味があると思ったから。
 
まあ、現代っ子だ。
 
イヤホンをつけて、よく街を練り歩く。
だが、鞍馬寺ではイヤホンをつけたくない。
 
鳥の鳴き声。森が奏でる清らかな声。
木々を踏みしめるサクサク音。
 
このスリーピースで十分だから。
 
少しだけ、胸の奥が熱くなってきたぐらいで
本殿に到着する。景色はいつも絶景。
 
ただ、景色は山なのだ。
 
僕は、目の前の景色を楽しむというより
景色を見ることで、これだけ山奥に
自身が存在していることを噛み締める。
 
景色を眺めて、後ろを振り返る。

大きな本殿が目に入ると
同時に綺麗な紋に目を奪われる。
 
石畳の上に刻まれる紋のようなもの。
パワースポットらしい。

真ん中に立てば、今にでも光が降ってきそうな。

そう思えば、既に仁王立ちをしていた。
そして、真っ直ぐ、山の景色を眺める。
 
「神よ、僕に力を。上手くいきますように。」
 
今考えると、少し他力本願のようで
笑ってしまうが、幼き僕はそう思っていた。
 
また、当時の僕は勝つことに興味がない。
 
G Kの自身が、試合で失敗しないように祈っている。
 
ただ、上手くいって欲しい事には変わらない。
 
情けない感情であるが、僕はそんなものだ。
 
ただ、情けない目標であっても、自身を信じて、
どんな手段でも最後まで取ろうとする事、
大事だと思う。目に見えない力であっても。
 
本殿に別れを告げて、下山をする。

木の根道を通る。

実は、もう一つの印象深いスポットなのだ。
 
杉林の根っこが地上から大きくはみ出ている。
 
自身の生命の塊をまざまざと地下から露出している。
 
ただ、そんな力強さを目にしながら
寂しい匂いを感じてしまうような場所。
 
薄暗く、静寂で。
 
源義経と天狗が稽古した場所だと
言い伝えが残っている。

僕の稽古は、十分だったろうか?

そう思いながら、空を見上げる。
 
杉の木々で、空が見え辛い。見ることを辞めた。
 
空に憧れを持つ必要なんてなかったのだ。
地面に力強く、根を張って生きる姿。

誰かに憧れず、堂々と自分らしく、プレーしよう。

僕にだって、鍛えた足腰があるじゃないか。

気高く美しい杉の木達とお別れしたところで
鞍馬寺との時間に終わりを告げた。
 
下山口に降り立ち、貴船駅まで、また歩く。
 
学校の友人から電話が掛かってくる。
 
「おい、また学校サボるやんけ。どこおる。」
 
「鞍馬寺にいたわ。」
 
「ひゃっははははは。何回そこいくねん。
 意味わからん。なんで好きなん?」
 
「癒しがボリューミーやねん。」

「やっぱ、意味がわからん。」

「分からんでええで。」
 
大会の為とは、言いたくなかった。

ただ、ボリューミーなのは事実。
 
鞍馬寺は一度登ると、二度以上美味しい。
 
境内、石畳、本殿、絶景、木の根道。
 
鞍馬寺にしかない見所と感動が
ぎっしり詰まっているのだ。

下山した頃には、お腹いっぱい。
 
電話を切って、背伸び。また、歩く。
 
まだ、時間があるな。どこに行こうか。
 
サボる時は、骨の髄までサボり尽くす。

神様は、何を思っていたのだろう。

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