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【エッセイ】 口の中での裸一貫の舞

「日本人はミディアムレアが好きだよね。」

出張を共にしているアメリカ人の同僚が
ステーキを注文した後、話し始めた。彼はミディアムだった。

僕は何となくミディアムレアで注文。

「アメリカ人はどうなの?」
「ウェルダンかミディアムかな。レアとは言わない。」

お国柄で好みはバラバラでいいじゃないと思ったので、他のお話をした。

出張から帰ってきた後、先週の土曜日に麻婆豆腐を作った。

中華にご飯は外せないのだ。炊飯器を開ける。

少しだけパサパサとした白粒達が顔を出す。

炊き立ての香りを吸引しながら、
これこれ、硬いのが好みなんだよね。と思った。

柔らか目のご飯が好きな人も理解は出来る。ご高齢の方々など。

ただ、硬めか柔らか目の二択であれば、硬めがマジョリティらしい。


ごはんは硬めがマジョリティ


麻婆豆腐を硬めのご飯と一緒に食べていると、
また新たな疑問が湧いてきた。

ラーメンを、麺は柔らかめで。と注文する人を見たことないぞ。

ニンニク多め、味濃いめ、麺は柔らかめで。

試しに声に出して、早口で注文してみた。

ニンニク多め、味濃いめ、麺はやわらかあめで

柔らかめ がとても言いづらかった。特にかの部分。

この時、硬めが柔らかめに圧勝をすると、確信した。

下記がデータである。もはや硬めはふつうをも超える存在に近い。

青色が硬め党だ。お分かりだろうか?ふつうより議席を獲得しつつある。


麻婆豆腐を掬うスプーンを持つ手が止まってしまった。

何故、日本人はご飯は硬めで、麺も硬めが好みなんだろう?

間髪を入れない間に、脳内に最後の一品が並べられた。

なぜ、ミディアムレアなんだ・・・・。硬くないじゃないか。

硬めの白米・ラーメン硬め・ミディアムレアのステーキ、
食べ合わせはガン無視、疑問のフルコースだ。

日本人が上記の選択を好む理由は何なんだろうか?

考えが浮かんできた。


理由は、日本人の食事の流儀。素材の味を楽しむことではないかと。

ステーキ。ウェルダンにすると、肉汁であったり、中の水分が抜け落ちるので、本来の味からほど遠い気がする。ミディアムレアの肉をナイフで切ると、少し血まな臭さも含まれた、肉汁がジュワッと出てくる。僕達はお肉を食べています!そんな気分を肉汁が演出してくるのだ。だから、ミディアムレアか。

米は逆だ。硬いという事は、中に水分が含まれていないということだ。
京都の名店 米料亭 八代目儀兵衛はご飯が炊けた後、直ぐにほぐすことで、水分が飛び、本来の甘みが出てくると言っていた。あながち、炊く段階で水の量を減らすことで、素材の味が際立つのは間違いではないようだ。

ラーメン。一蘭のバリカタなんては、粉の味がする。どストレートに素材の味。つけ麺でも初めに麺だけを食べて小麦本来の味をお楽しみ下さいと机に貼られているじゃないか。

入念に焼いたり、茹でたりするのは、衛生面の配慮からでもある気がする。日本は卵を生で食べられる。刺身も気軽に食べられる。そんな衛生面で他国より恵まれてきたからこそ、素材の味を楽しんでこれたのかも知れない。

歴史を遡れば、ほとんどの香辛料は全て海外から輸入された。と感じる。
輸入される前は、精進料理のような薄口が、お口の中の大衆を占めていた。

それ即ち、素材の味が、口の中を舞台に裸一貫で、
エイさっさ、エイさっさと踊っていたのだ。
お江戸よりはるか前の時代から、舞は受け継がれてきた。
今もその名残が残り、僕達は裸一貫の舞を求めてしまうのだ。

妄想に満足したので、麻婆豆腐をまた食べ始めた。
なんか、いつもより辛く感じた。


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