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tajifusen
【365日のわたしたち。】 2022年3月22日(火)
雨に濡れた傘を、傘袋にしまうのが嫌いだった。
それまで冷たい雨から守ってくれていたくせに、指先が冷たく濡れるのを感じると、最後の最後で裏切りを受けたような気持ちになる。
こんなこと、きっと誰に言っても「わがままだなぁ」と笑われて終わるのだろうと、誰にも話したことはなかった。
わがままに聞こえるかもしれないけれど、
もし胸の奥に「ココロ」というものがカタチあるのだとしたら、
その「ココロ」が、声も上げずにただ涙を一雫こぼすような気持ちになるのだ。
彼にはそんな気持ちを認めてほしかった。
共感して欲しいわけでもなく、
代わりにやってほしかったわけでもなくて、
ただそういう気持ちがあるということを知っていてほしかった。
これこそ、わがままなのだろう。
ある雨の日、冗談めかして私は彼に伝えた。
傘に当たる雨の音にかき消されそうな私の話を、彼は静かに聞いていた。
時折、「うん」と相槌を打った。
店に入る時、
傘を畳む私をしばらく見つめて、彼は両手を差し出してきた。
「どっちがいい?」
タオルハンカチが握られた手、そして彼の温かそうな大きな手。
私は迷わず、彼の手を掴んだ。
彼の手は、私と同じ、指先は少し濡れて冷たかった。
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