見出し画像

【365日のわたしたち。】 2022年3月21日(月)

「ファックション!」

隣の席の人のくしゃみが、教室中に鳴り響いた。


「...すみません」

隣の人は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で謝り、持参の箱ティッシュから数枚ティッシュを引っ張り出し、マスクを少しずらして鼻をかみ始めた。


その姿を横目で見ながら、大変そうだな、と同情する。

私は花粉症ではないから、彼の苦しみはまったく想像がつかないけれど、こんな風に授業中に悪目立ちするのだけはごめんだなぁ。


そう頭の片隅で考えながら、板書をノートに書き移していると、消しゴムに手の甲が当たり、ポンっと吹っ飛んでいった。


消しゴムはポンポヨンと不規則にジャンプしながら、隣の席の椅子の下に落ち着いてしまった。


すると、それに気がついた彼は、

サッとティッシュを取って、ティッシュを介して消しゴムを掴みあげた。


「はい、どうぞ。」

そう言って渡された私は、ポカーンと何も言えずに差し出されるままに消しゴムを受け取った。


そんな私を見て、ハッとしたように

「いや、違くて。鼻水かんでる手で拾われたくないかなって。別に消しゴムが汚いとかじゃなくてね。」

そう言いながら慌てていた。


「あ、いえ。全然大丈夫です。ありがとうございます。」

そう言って冷静を装って、また黒板の方へ向き直った。



隣で「ふぅー...」とため息をつく音が聞こえた。




私の鼓動は、なんだかさっきより少しスピードを上げていた。





来週もこの席に座ろう、と決めた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?