アダム・スミスと美しい調和

ビューティフル・ハーモニー(美しい調和)は、アダム・スミスの時代も想像させる。アダム・スミスの時代は、市場が経済を支配する時代であった。

通常、個人は公共の利益を促進しようと意図しているわけでもないし、自分が社会の利益をどれだけ増進しているのかを知っているわけでもない。意図しているのは、自分自身の安全と利得だけである。だが、こうすることによって、かれは、見えざる手に導かれて、自分では意図していなかった目的を促進することになる。自分自身の利益を追求することによって、かれは実際にそうしようと思ったときよりもかえって有効に、社会の利益を促進することになる場合がしばしばある。
(アダム・スミス『国富論』1776年、第四編第二章より引用)

アダム・スミスが「見えざる手(Invisible Hand)」と呼んでいるのは、市場経済における価格メカニズムである。市場は、見えざる手による価格変化を通して分権的に生産と消費を調和させる仕組みである。

令和の時代は、ヒト、モノ、企業や国などが美しい調和を奏でることが期待される。美しい調和を奏でる旋律となるものは、多様性、個人の尊重や自己の研鑽などが考えられる。また、個人や組織内外のつながりもあるだろう。

市場における交換のメカニズムが社会の利益を促進したように、私たちが毎日、懸命に働くこと、勉強すること、遊ぶことなどにより、社会の利益は促進される。しかし、公共の利益を促進しようと意図しているわけでもないだろう。それは、自分自身の生活や利益を守るためだけかもしれない。さらに、自分自身のアイデアなどを他人に与えたり、他人から知恵やアイデアなどを借りることも増やしていこう。ゼロサム的な思考からノンゼロサム的な思考に変化することで、社会の利益を増進しようと意図しなくても、結果的に社会の利益の総和は増えるかもしれない。

他人との比較、妬みや嫉みを可能な限りやめて(実際には難しいかもしれないが)、自己の研鑽に励む。自己と他者を尊重し、多様性を認める。自分自身がちょっとがんばるだけで、社会の利益は総和は増加し、自己と他者の幸せも増えているかもしれない。win-winを増やしていくことで、美しい調和は自然に達成される。

当記事では、アイデアのキャッチボールや組み合わせによる進化、ボールを投げることの大切さなどが述べられている。

当文中では、マネジメント理論やこれからの働き方などについて考えてみることとしたい。

1. マネジメント理論について

マネジメント研究の主な歴史を確認すると、(1)マネジメント論前史(アダム・スミス)、(2)古典的アプローチ(フレデリック・テイラー、アンリ・ファヨールなど)、(3)行動アプローチ(ホーソン研究など)、(4)条件適合アプローチ(ウッドワードの研究、ローレンスとローシュの研究研究など)、に分類することができる(下図参照)。

ここでは、マネジメント論前史のアダム・スミスの考え方から順に見ていくこととする。

 1-1 アダム・スミスの考え方について

アダム・スミスは『国富論』(1776年)において、実際のピン工場におけるピン製造の効率化を例に挙げ、分業による生産性の大幅な向上を説明している。スミスが観察した工場では、10人の作業員が分業を行うことで、1日に4万8000本のピンを製造していた。この高い生産性の要因としてスミスは、分業による作業員の専門性の向上、ある作業から別の作業に移る際の時間の節約、各作業を容易にする機械が発明されやすくなる、などを挙げている。

スミスの分業について分かりやすく説明するため、野球を例に挙げて考えてみよう(下図参照)。

日本のプロ野球にはシーズンで最も優れた先発完投型の本格派投手に対して授与される「沢村賞」がある。沢村賞の選考基準には、完投試合数、投球回数や防御率等がある。現在の分業化された日本のプロ野球では、沢村賞の選考基準をすべて達成することは、かなり困難である。日本ハムファイターズに在籍していた大谷翔平選手は沢村賞の最終選考に残ったことがあるが、完投試合数等から同賞の受賞はできなかった。

それでは、スミスの分業でプロ野球を考えるとは、どのようなものだろうか。すなわち、プロ野球の分業化とは、先発完投型投手による試合から、先発投手、中継ぎ投手、抑え投手の継投による試合への変化だろう。

平成のプロ野球で有名なリリーフ投手の組み合わせに、阪神タイガースのJFK(ジェフ・ウィリアムス投手、藤川球児投手、久保田智之投手の3人の頭文字)が存在する。阪神タイガースがリードしている試合でJFKの継投リレーがなされることは、相手チームによるその後の逆転の可能性が低くなる。まさしく勝利の方程式である。これは、分業による生産性の向上だろう。

スミスの分業は、専門性の向上や生産性の向上をもたらした。しかし、現在はメジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスで活躍する大谷翔平選手を考えると、分業が必ず生産性を向上させるかどうかは議論があるだろう。大谷翔平選手の活躍は私たちを楽しませてくれると同時に、生産性について考えるきっかけにもなる。

次に、フレデリック・テイラーの科学的管理法(テイラーリズム)などの古典的アプローチについて確認してみることとする。

 1-2 古典的アプローチについて

20世紀の初頭、フレデリック・テイラーは自身が工場監督者あるいはコンサルタントとしての現場の実践に基づいて、現場作業員の作業能率向上のための方法を提示した。すなわち、科学的管理法(テイラーリズム)と呼ばれるものであり、生産性を科学的・客観的に向上させるための4条件などである(下図参照)。

初めに、科学的管理法(テイラーリズム)の4つの条件について確認することとする。

まず4つの条件とは、第一に職務の細分化・専門化、第二に作業の標準化と職務内容の明確化・特定化、第三に計画者と実行者の分離、第四に目標達成度に合わせた差別的出来高給の導入である。

次に、その4つの条件の内容を確認することとする。

(1)職務の細分化・専門化とは、作業工程を細分化し、多くの人に割り振ることにより、作業員各人の担当職務に対する専門性は向上し、生産性を高めることができるというものである。(2)作業の標準化と職務内容の明確化・特定化とは、one best wayである方法を特定し、これを標準化して一般の作業員の職務内容とすることで、個人の職務内容を明確化・特定化するものである。(3)計画者と実行者の分離とは、計画者は計画に職務を特化すること、実行者は実行に職務を特化することで、専門性が高まり、生産性が向上するというものである。(4)目標達成度に合わせた差別的出来高給の導入とは、同一作業に対して2種類の異なる賃率を支給する差別的出来高給を導入するものである。具体的には、労働者の標準作業量・課業を定め、その達成度に応じて高賃率および低賃率を支払うとするものである。

科学的管理法(テイラーリズム)や、フォード社が科学的管理法を応用した生産システムであるフォーディズムは、20世紀初頭に大量生産・大量消費型の社会へと発展させることにつながった。一方で、科学的管理法は従業員の感情や職場の人間関係が生産性に与える影響を考慮しておらず、非人間的であるとの批判もあった。

現代はデジタル等により監視されやすい社会でもある。それは、働くことについても同様である。プラットフォーム企業として有名なGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字)のひとつであるGoogleでは、「パワーナップ」と呼ばれる昼寝を導入し、仕事のパフォーマンスを向上させるための取り組みがある。これからの科学的管理法(テイラーリズム)を考える場合、科学的管理法のデジタル版、すなわち「デジタル・テイラーリズム」の懸念を考える必要もあるだろう。

次に、アンリ・ファヨールの管理機能論について確認することする。

フランスの経営者であるアンリ・ファヨールは、自身の経験から編み出した経営管理の方法をまとめた『産業ならび一般の管理』を1916年に出版。同書では、経営管理に必要な要素として、5つの経営機能と14の管理の一般原則を挙げている(下図参照)。

5つの経営機能と14の管理の一般原則には、従業員の意欲や満足感などが含まれており、人間の捉え方は科学的管理法よりも幅広い。しかし、経営機能論である管理機能論は、従業員側の視点には焦点が当てられておらず、経営者・管理者からの視点が前提となっている。

続いて、行動アプローチであるホーソン研究について確認することとする。

 1-3 行動アプローチについて

ホーソン研究は、1927年から1932年にウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で実施された。当時の米国は、人は経済的報酬のために働く、生産性の低下の要因は、疲労など身体的環境、照明・温度など物理的環境、報酬などにあるという科学的管理法に基づく考え方が、マネジメント論の中心であった。このような中、身体的環境や報酬などによって生産性にどのような影響が出るかを調べる目的で開始されたのが、ホーソン研究である。ホーソン研究では、第1段階から第4段階まで行われた(下図参照)。

ホーソン研究の結果、従業員の心理や職場の人間関係が生産性に大きな影響を与えることが明らかになり、それ以前のマネジメントが考慮しなかった人間の社会的側面・心理的側面に焦点を当てる研究が普及していくことになる。具体的には、モチベーション・リーダーシップ論などをはじめとする新人間関係論(ネオ・ヒューマン・リレーションズ)と呼ばれるものである。

続いて、条件適合アプローチについて確認することとする。

 1-4 条件適合アプローチについて

すべての組織(状況)に適応できる正しいやり方とする普遍理論から、効果的なマネジメントは状況によって異なるとし、条件要因との関係から、効果的なマネジメントのあり方を追求しようというのが条件適合アプローチである。

条件適合アプローチは、システムズ理論に影響を受けているとされる。システムズ理論では、人体はいくつかの部分(下位システム)から成り立っており、部分は相互に影響を与えあう。人体は部分からなる全体(1つの全体システム)であり、同時に人体は外部の影響(上位システム)の影響を受ける。さらに人間は外部からの影響を受けるだけでなく、外部環境にも影響を与え、人間と外部環境の関係は相互作用となる。企業も同様に、環境という上位システムがあり、目的・構造・組織・技術・文化面などさまざまな下位システムを有している。システムズ理論に従えば、特定の企業で効果的なマネジメントを追求しようと思えば、上位システム(環境)や下位システム(目的・構造・組織・技術・文化面など)の特色と適したものでものでなければならないということになる(Bertalanffy,1968)。

条件適合アプローチでは、環境要因に適した組織構造を作り出すためのマネジメントスタイルや組織文化、人間関係が存在することが、企業の高業績となることを示している。

 1-5 マネジメント理論のまとめ

これまでにマネジメント論前史、古典的アプローチ、行動アプローチ、状況適合アプローチによるマネジメント理論をみてきた。これらのマネジメント理論も、仕事を行う上で参考になるだろう。

しかし、実際に仕事を行う上で、私たちが気になることは何だろうか。たとえば、チームで仕事を行っているとき、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じるかもしれない。「失敗をしてしまったが、上司に報告することが躊躇われる」、「質問をしたが、他のメンバーに馬鹿にされるかもしれない」などもあるだろう。失敗などをしても、このチームなら大丈夫だという安心感は重要だ。このような安心感は「心理的安全性」と呼ばれ、チームの効果性に影響を与える。すなわち、上司などが常に上機嫌でいることなどは、チームに好影響を与える(「「効果的なチームとは何か」を知る」)。

また、揚げ足取りなどの意図的におとしめるような行動は、心理的安全性を低下させる。減点主義で評価するのではなく加点主義で評価することにより、揚げ足取りなどの行動を減らす効果も考えられるかもしれない。

さらに、チームメンバーの多様性を認めることも重要だろう。たとえば、サッカーの試合を考えてみる。FCバルセロナで活躍するリオネル・メッシ選手はバロンドールと呼ばれるヨーロッパ年間最優秀選手賞を5回受賞しているスーパースターだ。しかし、メッシ選手にも得意なプレー、苦手なプレーは存在する。メッシ選手がディフェンダーとしてプレーしても、活躍することは難しいだろう。

また、サッカーは90分の試合時間の中で戦略を立てる。試合の状況は時間によって変化する。攻撃をしている時間帯もあれば、守りの時間帯もある。状況は流動的だ。さらに試合の状況に応じて、選手交代などのマネジメントを行う。イエローカードやレッドカード、負傷による交代、スーパーサブの投入などもあるだろう。

ビジネスの環境も流動的だ。内部環境や外部環境の変化は速い。これから働く上では、介護の問題なども考えられる。また、子どもを持つ親は、働きながら育児をすることも大変だ。多様性を認めながら、流動性や柔軟性が高いチームを構築することにより、調和を達成することは重要だろう。

2. これからの働き方について考えてみる

 2-1 労働力の概念等について

まず、労働力の主な分類を挙げると、ブルーカラー、ホワイトカラー、グレーカラー等に分けることができる(下図参照)。

ブルーカラーとは、主に製造業等の生産現場で生産工程や現場作業に従事する労働者を指す。ホワイトカラーとは、広くは事務系の職種一般を指し、企業の管理部門で企画あるいは管理業務などの事務に従事する労働者のことをいう。グレーカラーとは、ホワイトカラーとブルーカラーの中間の職種を指し、技術的な労働者のことをいう。

米国の未来学者であるアルビン・トフラー氏は、著書『第三の波』の中で、第一次から第三次までの大変革の波について述べている。すなわち、第一の波は農業革命、第二の波は産業革命、第三の波は情報革命による脱工業社会である。また、ジェレミー・リフキン氏は、著書『第三次産業革命—原発後の次代へ、経済・政治・教育をどう変えていくか』の中で、コンピューター、ICTによる生産の自動化や効率化、インターネット技術の発達などを第三次産業革命としている。さらに現在では、第四次産業革命と呼ばれる、人工知能(AI)やロボット、デジタル技術の時代の到来も叫ばれている。

これらの変革は、労働力の概念を新しいものに変えることも考えられる(産業革命の歴史の概要については下図参照)。

たとえば、Deloitteは、人と機械が協働する新たなハイブリッド型の労働力を「ノーカラーワークフォース」と呼び、機械の活用が進み、人と機械が協働することにより生産性が向上する取り組みが加速するものと考えている。

オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は、2017年の論文「スキルの未来」で「近未来の雇用市場で必要とされるスキルとは何か?」というテーマについて述べているが、産業の変革の波は、労働者に求められるスキルを変化させていくだろう。

20世紀、経営学者のピーター・ドラッカー氏はナレッジワーカーというモデルを提示し、知識が価値創造の源泉である知識時代の到来が社会にもたらす衝撃を指摘したが、新しいことを学ぶための「自己の研鑽」は、ますます重要になることも予想されるだろう。

 2-2 働き方の現状等について

次に、日本の労働の現状について確認することする。

OECDのデータ(2019年5月現在)をもとに、2000年以降の就業者の一人当たり平均年間総実労働時間(以下、年間労働時間)の推移を表したものが下図である。

日本の就業者の年間労働時間は、2000年に1821時間だったものが、2017年には1710時間となっている。米国(2017年)の1780時間、イタリア(2017年)の1723時間とほぼ同じ水準となっている。また、英国(2017年)は1543時間、フランス(2017年)は1514時間となっており、日本や米国等の1700時間台の年間労働時間の水準より短くなっている。

日本の就業者の年間労働時間は2000時間を超えていた頃から減少を続けているが、現在の長時間労働の要因となっているものは何だろうか。

たとえば、日本的雇用慣行である年功賃金制度は、勤続年数に応じて自動的に給料が上がり、結果や成果よりも、企業に対するコミットメント、忠誠心といったインプットが評価される仕組みとなっている。企業内データを使った研究では、労働時間の長さと昇進する確率には正の相関があることも実証されている(Kato, Kawaguchi and Owan 2013)。

また、長時間労働の要因として、労働の固定費が挙げられることもある。労働の固定費とは、労働時間に関わりなく生じる雇用者一人当たりの費用であり、採用費用、解雇費用、人的投資(教育訓練)費用などが該当する。そして、労働の固定費が大きいと、雇用者を1人増やす際の費用が大きくなるため、雇用者数を抑えて労働時間を長くすることが企業にとって合理的となる。たとえば、景気後退などの負のショックが生じた際、雇用を維持し、代わりに残業調整という形で労働時間削減によって人件費調整を進める。こうした人件費調整のため、平時から残業を確保しておくことを「残業の糊代説」という。

このような長時間労働に関する理論もあるが、私たちが働く上で、長時間労働になっていると感じる理由は何だろうか。

たとえば、同僚の影響を受けて必要以上に長く働くようになる、負の外部性もあるだろう。このような周囲の影響を受けて働き方を変えることを「ピア効果」と呼ぶ。上記で述べたように、労働時間の長さと昇進する確率には正の相関があることから、人的資源管理のあり方を改善していくことも方法だろう。また、非効率な長時間労働が生じる要因として、上司と部下のコミュニケーションがよくとれていない場合もあるだろう。コミュニケーションにより暗黙知を形式知化するためなどにも、職場の雰囲気は重要である。

自分が知らない知を探索して、自分が知っている知と組み合わせる「知の探索」や、さらにそれを深掘りしていく「知の深化」は、生産性を向上させる。この「知の探索」と「知の深化」のためには、個人レベルと組織レベルのつながりが重要だ。アイデアのキャッチボールなどにより、「知の探索」や「知の深化」は進むだろう。

また、モノを考える際、フレームワークを知っておくと役に立つ。鳥の目でみるマクロの視点や、虫の目でみるミクロの視点を行き来する。雑談などのアイデアのキャッチボールをする場合にも、新しい発見があるかもしれない。

続いて、生産性を向上させるかもしれないフレームワークについて、簡単に確認することとする。長時間労働の改善にも、ちょっとは役に立つだろう。

3. 意思決定のためのフレームワークの例

ロジカルシンキングには様々なフレームワークがある。たとえば、MECEと呼ばれるフレームワークがある。MECEとは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの頭文字であり、「モレなくダブりなく」ある物事を切り分けた状態のことをいう。MECEで考えるためには、どのような切り口を設定するかが重要である。切り口の設定の方法として、(1)要素分解、(2)因数分解、(3)時系列・ステップ分け、(4)対象概念、などに分ける方法がある。要素分解する場合には、たとえば3C分析と呼ばれる顧客分析(Customer)、競合分析(Competitor)、自社分析(Company)の3つのCにより分解する方法もある。因数分解する場合には、たとえば売上高をトラフィック×コンバージョン率×客単価×リピート率などに分解できる。時系列にステップを分ける場合には、広告代理店の電通が提唱するAISASなど、消費者の購買行動に関する心理プロセスなどが活用できる。AISASは、注意(Attention)→関心(Interest)→検索(Search)→行動(Action)→共有(Share)の順に意思決定が行われるとするものである。

続いて、鳥の目で見るためのフレームワークとして、米国の経営学者であるフィリップ・コトラー氏が提唱した「PEST分析」、マイケル・ポーター教授が提唱した「5フォース分析」、ジェイ B. バーニー教授が提唱した「リソース・ベースト・ビュー」(RBV)について確認することとする。

まず、PEST分析であるが、主に経営戦略の策定、マーケティングを実施する際に使用し、自社を取り巻く外部環境(マクロ環境)を把握・予想するための手法である(下図参照)。

PEST分析では、以下の視点から分析することになる。

・政治(Political)
法規制や判例、税制、政府や関連団体の動向等
・経済(Economic)
景気、価格変動(インフレ・デフレ)、為替や金利等
・社会(Social)
人口動態、世論や社会的意識、環境等
・技術(Technological)
技術革新や普及、特許等

コトラー氏は、著書『コトラーの戦略的マーケティング』の中で、「調査せずに市場参入を試みるのは、目が見えないのに市場参入しようとするもの」であると述べている。世の中の変化やトレンドを知るためにも、フレームワークを知っていることは役に立つかもしれない。

次に、マイケル・ポーター教授が提唱した「5フォース分析」について確認することとする。

ポーター教授は、「競争戦略とは業界に働く5つの競争要因からうまく自社を守り、自社に有利になるように競争要因を動かせる位置を業界内に見つけること」としている(下図参照)。

その5つの競争要因(5フォース)とは、以下のものである。

(1)業界内の競争
市場における企業間の競争状況。業界の収益性に影響を与える要素で、その業界における同業他社との競争の激しさを指す。
(2)新規参入の脅威
既存の市場・業界に新たな企業が参入することで、競争が激化する脅威。
(3)代替品の脅威
既存の製品・サービスの市場が、顧客にとって同様のニーズを満たす既存の製品・サービス以外のものによって奪われる脅威。
(4)売り手の交渉力
部品や原材料などの納入業者からの要求の強さ。
(5)買い手の交渉力

顧客が売り手に対して価格値下げや品質の向上などを要求する力の強さ。

5フォース分析は、5つの競争要因から事業環境を分析し、戦略策定等に活用することができる。

さらに、ジェイ B. バーニー教授が提唱した「リソース・ベースト・ビュー」(RBV)と呼ばれる考え方もある。RBVは、企業ごとの経営資源の異質性および経営資源の固着性により企業の強み、弱みを分析するモデルである。経営資源には、財務資本、物的資本、人的資本、組織資本がある。そのうち、人的資本には、人材育成訓練、個々のマネージャーや従業員が保有する経験、判断、知性、人間関係、洞察力などが含まれる。さらに、組織資本には、企業内部のグループ間での非公式な関係、自社と外部の他企業との関係などがある。

RBVに基づけば、自己の研鑽、知の共有によるシェアやつながりによる調和などは、生産性を改善させると考えることもできるだろう。

4. まとめ

米国の組織心理学者でもあるアダム・グラント氏は、利他的な与える人のことを「ギバー」と呼んでいる。そして、助け合いは、ギバーのように振る舞う人々を増やすためにも重要であると述べている。

これから私たちが働く上で、これまでより少しだけでも利他的に振る舞うとよいかもしれない。また、これまでより少しだけ自己の研鑽をするとよいかもしれない。すると、社会の利益を増進しようと意図しなくても、結果的に社会の利益の総和は増えるかもしれない。

そして、これが現代における「美しい調和」ではないだろうか。

人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つように。一人ひとりが明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。

見事に咲き誇る梅の花のように。


【参考文献】
岩井克人(2006)『二十一世紀の資本主義論』ちくま学芸文庫
須田敏子(2019)『マネジメント研究への招待』中央経済社
Deloitte(2018)「労働力の新しい概念:ノーカラーワークフォース」
「【未来予測】10年後に「売れるスキル」「廃れるスキル」」(NewsPicks編集部、2019年4月8日)
OECD Database "Average annual hours actually worked per woker" 2019年5月現在
小野浩(2016)「日本の労働時間はなぜ減らないのか?—長時間労働の社会学的考察」『日本労働研究雑誌』2016年12月号
山本勲(2016)「女性活躍推進と労働時間削減の可能性:経済学研究にもとづく考察」RIETI Discussion Paper Series 16-J-019、独立行政法人経済産業研究所
「MECEとは?【特選!グロービス学び放題】」(GLOBIS知見録)
梅澤高明(2013)『最強のシナリオプランニング:変化に対する感度と柔軟性を高める「未来の可視化」』東洋経済新報社
フィリップ・コトラー(2000)『コトラーの戦略的マーケティング:いかに市場を創造し、攻略し、支配するか』木村達也訳、ダイヤモンド社
「MBA用語集」(グロービス経営大学院HP)
ジェイ B. バーニー(2003)『企業戦略論【競争優位の構築と持続】(上)』岡田正大訳、ダイヤモンド社
「内閣総理大臣談話」(首相官邸HP)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?