平成から令和へ観光のアップデート。地域経済分析システムRESASによる事例分析等について

平成から令和へ。2019年のゴールデンウィーク期間中に新元号「令和」への改元を迎え、新時代への期待も高まる。授業がある学生、仕事があるビジネスパーソンもいるだろうが、10連休となる人も多いだろう。大型連休となるゴールデンウィーク(GW)は、観光スポットでイベントが企画されることも多い。日帰りでのお出かけや旅行をする人もいるだろう。

平成27(2015)年6月30日閣議決定「まち・ひと・しごと創生基本方針2015-ローカル・アベノミクスの実現に向けて-」では、日本版DMOを核とする観光地域づくり・ブランドづくりの推進等が明記されている。当記事では、その日本版DMOの役割や、観光と地域づくりについて述べられてる。

当文中では、GWを前に、観光と地域づくり、地域経済分析システムRESASによる事例分析、MaaS(Mobility as a Service)などについて考えてみることとしたい。

1. 日本版DMOと観光地マーケティング

日本版DMOとは何か。DMOは、Destination Management/Marketing Organizationの略であり、データに基づく観光戦略の策定や地域の関係者との調整・仕組みづくりを実施する観光地域づくりの舵取り役をする法人である。そして地域資源を活用して、「稼げる」観光地域づくりを推進することで、より大きいインパクトを実現するものである。

観光地マーケティングで思い浮かべるものに、たとえば、ゆるキャラがあるだろう。特に、熊本県のゆるキャラであるくまモンの知名度や人気は非常に高い。2013年12月に日本銀行熊本支店から公表されたレポート「くまモンの経済効果」では、2011年11月から2013年10月までのくまモンの経済効果は1,000億円を超えるとされている。ゾゾスーツ(ZOZOSUIT)なども話題となったオンラインショッピングサイトの運営で有名なZOZOの2018年3月期の売上高が984億円である。くまモンの経済効果は、非常に大きいことが分かるだろう。

一方、滋賀県彦根市のゆるキャラであるひこにゃんはリストラの危機にあることが報道された。その後、クラウドファンディングなどで活動資金を集め、活動を続けられることも話題となったようである(「ひこにゃん13歳バースデー 活動継続にファン一安心」)。

観光地マーケティングにおけるゆるキャラは、ブルーオーシャンではなくレッドオーシャンだろう。ブルーオーシャンとは競争のない未開拓市場であり、競合相手が少ない。一方、レッドオーシャンは競争の激しい既存市場である。ブルーオーシャンとレッドオーシャンのイメージ図を作成すると下図のようなものだろう。

ちょっと分かりにくいかもしれないが、あくまでイメージ図だ。なんとなく雰囲気が分かればよいだろう。

ブルーオーシャンとレッドオーシャンのイメージ図から分かることは(分からないかもしれないが)、ブルーオーシャンの方が楽しそうだということだろう(違うかもしれない)。

観光地マーケティングについて、各地域が同じ取組を実施するのではなく、地域資源を活用した差別化を行うことも重要だろう。「稼げる」地域づくりのために、日本版DMOが果たす役割は大きいだろう。

続いて、高知県須崎市のゆるキャラによる滞在人口数への影響、宮城県石巻市のポケモンGOのイベントによる滞在人口数への影響などを、地域経済分析システムRESASを使って分析することとしたい。

2. 高知県須崎市のゆるキャラしんじょう君の事例

高知県須崎市のゆるキャラは、しんじょう君である。しんじょう君は、ニホンカワウソおよび須崎市の名物である鍋焼きラーメンをモチーフにしたマスコットキャラクターである。

しんじょう君は、2016年11月6日にゆるキャラグランプリ2016で優勝した。

ゆるキャラグランプリ2016の前後(2014年9月~2018年8月)における、高知県須崎市の休日14時の滞在人口を、地域経済分析システムRESASを使って調べてみた(下図参照)。

グラフから分かることは、県内からの滞在人口への影響はあまりみられないが、県外からの滞在人口への影響は正の効果があったと考えることもできる。

県外からの滞在人口の平均は、(1)2014年11月~2015年10月が1,053人、(2)2015年11月~2016年10月が1,047人、(3)2016年11月~2017年10月が1,261人となっている。

ゆるキャラによる高知県須崎市の知名度の向上等の効果は長期的には減衰すると考えられるが、短期的には県外からの滞在人口の増加につながっている。

高知県須崎市を県内の人口がほぼ同規模の他市(土佐市、香南市、香美市)と比較すると、飲食店の売上は他市より多いが、15歳から65歳人口1人当たり商工費の割合は低くなっている。高知県須崎市には鍋焼きラーメンで有名な橋本食堂などの飲食店があるが、商工費の増加によるキャッシュレスの推進などを実施してもよいかもしれない。

次に、宮城県石巻市で実施されたポケモンGOのイベントの事例について、確認してみることとする。

3. 宮城県石巻市のポケモンGOのイベントの事例

2016年7月6日に米国等でリリースされたスマートフォンゲーム『ポケモンGO』はARを活用したゲームとしても注目を集め、大ブームとなった。日本国内では米国等のリリースから約2週間後の7月22日にリリースされた。レアポケモンが出現するスポットは聖地と呼ばれ、多くのトレーナーがポケモンGOの聖地に訪れた。

宮城県では東日本大震災の復興を目指し、ポケモンGOと連動したイベントを2016年11月11日から11月21日まで開催した。

同イベントの拠点となった石巻市の休日14時の滞在人口(2014年9月~2018年8月)を、地域経済分析システムRESASを使って調べてみた(下図参照)。

県外からの滞在人口は、(1)2014年11月が4,622人、(2)2015年11月が4,183人、(3)2016年11月が5,585人、(4)2017年11月が3,868人となっている。

これらの数字をみると、復興支援としての同イベントの開催は成功と考えられるだろう。引き続き、東日本大震災の復興支援等を続けていくことは大切である。

4. 愛媛県の人気お笑いコンビ「和牛」による観光PR動画の事例

愛媛県は人気お笑いコンビ「和牛」が出演する観光PR動画を制作し、YouTubeでの公開を始めたことが、2019年2月に話題となった。

ここで、人気お笑いコンビ「和牛」のインタレストについて、Googleトレンドを使って調べてみた(下図参照)。

人気お笑いコンビ「和牛」のインタレストは、観光PR動画を制作した愛媛県にある松山市で最も高くなっている。、次いで、神奈川県茅ケ崎市、奈良県奈良市、大阪府豊中市、大阪府東大阪市の順となっている。

観光PR動画の制作に留まらず、県外からの観光客の増加につながる取組を実施することも重要だろう。

5. MaaS(Mobility as a Service)について

MaaSと呼ばれる新たなモビリティサービスの概念がある。MaaSはMobility as a Serviceの略で、出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスに一つのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく、利用者にとっての一元的なサービスとして捉えるものである。

MaaSは移動サービスの統合の程度に応じて、次の4段階に分けられている。

レベル1:情報の統合(複数モードの交通提案、価格情報)
レベル2:予約、決済の統合(1トリップの検索、予約、支払)
レベル3:サービス提供の統合(公共交通に加えてレンタカー等も統合)
レベル4:政策の統合(データ分析による政策)

ドイツにおけるMaaSの事例では、ダイムラーの子会社であるmoovelが統合モビリティサービス「moovel」アプリを提供している。moovelを使えば、ユーザーは公共交通機関の航空券のほか、カーシェアリングやレンタルバイクなどの他のモビリティオプションの予約や支払いが可能となる。

日本国内では、東急電鉄およびJR東日本等が、静岡県の伊豆エリアにおいて「観光型MaaS」の実証実験を実施することとなっている。

先日、デザインコンサルタント会社IDEOが開発協力した乗り換えアプリがリリースされたことも話題となったJR東日本。

将来的にはスマートフォンひとつで、シームレスな旅が実現することも予想される。

6. まとめ

平成28(2016)年、観光先進国への新たな国づくりに向けて策定された『明日の日本を支える観光ビジョン』では、2020年の訪日外国人旅行者数を4000万人とする目標が明記されている。

現在のインバウンド観光の問題は、ゴールデンルートと呼ばれる地域に訪問者が偏在していることなどが挙げられる。それぞれの観光地は他の地域と同様の取組を実施するのではなく、地域の独自性や差別化を図り、地域のブランドを長期にわたって築き上げていくことも重要だろう。

これまでの時代は同じようであることで安心感が得られた時代でもある。これからの時代は、観光地も人もモノも価値観等も、異なってもよいことが支えになることも予想される。

新時代と共にブルーオーシャンを切り拓くことで、私たちのこれからの旅に無限の青空が広がると考える。

そして、きっと未来を輝かしく変えることができる。


【参考文献】
「RESAS-地域経済分析システム」ホームページ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?