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【児童発達支援センターB園⑨】DAIKIを育てたお母さんのこと<後編>

このnoteでは、女の子として生まれ、「ちいちゃん」と呼ばれて育ってきたかつての自分。男性として生き、「たっくん」と呼ばれ、福祉の専門家として働いている今の自分。LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。(自己紹介もぜひご覧ください)
前回に引き続き、児童発達支援センターB園で出会ったDAIKIのことをお話しさせてください。今回も、DAIKIとDAIKIのお母さんにご協力いただきました。
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前回に続き、自閉症があるDAIKIを育ててきたお母さんについてお話しします。

B園に来てから、お母さんはDAIKIのよいところにも目を向けることができるようになります。自閉症という障害だけでなく、子どもの持つ可能性も含めて、DAIKIの現実を正視できるようになったのです。

それまで「トラブルになるから何もさせたくない」と考えていたお母さんは、DAIKIをいろいろなことにチャレンジさせるようになります。

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DAIKIは、特別支援学校ではなく、地域の小学校に入学しました。

お母さんは、特別支援学校か、地域の小学校か、とても悩んだそうです。就学前健診の時、ほかの子どもたちは親から離れて独りで健診を受けているのに、DAIKIは母親が手伝わないと列にも並べない。やはり地域の小学校では難しいのだろうか……。

内科検診で順番を待っているとDAIKIの名前が呼ばれました。それまで座っていた椅子から立ち上がり、服を脱ぎ、別の列に並ばなければなりません。ふと、お母さんは、「何も言わないで見ていよう」と思いました。

DAIKIは、しばらくじっとしていました。が、ほかの子どもの様子を見て、自分も同じように服を脱ぎ、列に並び直したのです。DAIKIの可能性を目にしたお母さんは、そのときに、地域の小学校へDAIKIを通わせようと決めたそうです。

お母さんはDAIKIを小学校に通わせるにあたって、小学校の先生に「DAIKIについて」という手紙を書きました。自閉症という障害について理解してもらった上で、DAIKIを受け容れてもらおうとしたのです。

さらに、お母さんは、小学校に頼んで、DAIKIと同じクラスの子どもたちにも、DAIKIについて説明する時間をつくってもらいました。DAIKIはみんなと同じことができないときがあるけど、できることもたくさんある。みんなと同じように、少しずつできることが増えていくよ、と。「お薬飲んでるの?」「治るの?」など子どもたちの率直な質問に、お母さんは1つひとつ丁寧に答えていったそうです。

スイミングやラグビーといった習い事を始めるとき、そして学童保育に通い始める時も、お母さんは「DAIKIはこういう子どもです」と周囲に説明してきました。

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(DAIKIのお花屋さん。贈る人のことを思い、いつも丁寧に花を選ぶ。)

今、DAIKIのお母さんは、我が子を「手のかかる子だった」「いろいろな人に苦労をかけた」と振り返ります。そしてこう言います。「私が知らないところでたくさんの人に迷惑をかけたし、私が知らないところで同じくらいたくさんの人に助けてもらった。だから、今のDAIKIがあるのだ」と。

そもそも、子どもは、障害があってもなくても、周りに迷惑をかけながら育つものです。「大変じゃない子ども」なんていません。そして、子どもが悪いことをしてしまったときに親が謝るのは、障害の有無は関係なく、当たり前のことです。

ただ、障害のある子どもの方が、周囲との摩擦が起きやすく、問題行動が発生しやすいだけです。だから、B園の保育士は、自閉症があり、多動性のあるDAIKIが、どんな環境であれば、ほかの子どもを叩いたりせずに、自分を伸び伸びと表現することができるのかを考え、支援しました。

私は、障害のある子どもの親が、ほかの親よりもたくさん、「ごめんなさい」を言わなければいけない社会を変えたいと思います。周囲の理解と支援で、障害のある子もその子らしく生きていける社会、障害のある子どもの親が謝り続けなくていい社会にしたいと思います。

DAIKIのお母さんは、「今は、毎日が豊かで楽しい。きっとDAIKIのおかげだと思う」と言います。お母さんの子育ての目標は、DAIKIを、周囲から手をかけられすぎなくても生きていける子に育てることです。必要なときに必要なことを支えてもらいながら自立する、そんな生き方が当たり前の社会を私も目指しています。

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【DAIKIのnoteはコチラ!】

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【前シーズン「A乳児院」の物語も是非ご覧ください】

※私が「障害」を「障がい」と記さない理由は、こちらをご覧ください。


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