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【性別適合手術と妻へのプロポーズ4】男性として生きることを決意した私が最初に選んだ仕事

このnoteでは、LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。自己紹介はこちらからご覧ください。
自分は男性だと思いながらも、一体何者かわからずに生きてきた私。戸籍も男性として生きていくと決め、私はついに性別適合手術を受けることを決意します。現在につながる男性ホルモン注射による治療や性別適合手術、妻とのストーリーを綴ります。(本シリーズはこちらから)

短大を卒業して、乳児院、児童発達支援センターで女性保育士として働いてきた私は、27歳の時、GID(Gender Identity Disorder 性同一性障害)外来の診断を受け、自分がトランスジェンダーであることを理解しました。

私は、できるだけ早く乳腺切除手術、そして子宮・卵巣を摘出する性別適合手術をしたいと考えました。心が男性である私にとって、乳房は自分の外見には本来あってほしくないものでしたし、子宮と卵巣も早く取り除いて生理を終わらせたいと思っていました。

そして、手術を前に、男性ホルモンによる治療を開始しました。ホルモン療法開始後、1か月後には生理が止まりました。そして、徐々に体毛が濃くなり、体格の男性化が進んでいきました。

手術費用として200万円の貯金を目標にしていましたが、この金額は私にとって大きな壁でした。というのも、ホルモン療法を開始した直後、私は児童発達支援センターを退職しました。

将来、性別適合手術が終わったら、戸籍も「長女」から「長男」へと変更しますから、女性として雇われた私は、男性として雇い直してもらうことが必要になります。私は、児童発達支援センターの園長先生に、GID外来を受診したこと、将来的には性別適合手術を受けようと考えていること、そしてホルモン療法を開始したことを打ち明けました。

母親のように、いえ、母親以上に私のことをいつも気にしてくれて、いろいろな相談に乗ってくれた園長先生は、「田崎さんのことをよく知らない人、性同一性障害について知識がない人の中には、あなたを受け入れられず、心ない態度をとる人がいるかもしれない。ここで働きながら性別を変えるよりも、職場を変えた方がスムーズなのではないだろうか」と言いました。

私自身、ホルモン療法によって次第に外見が男性らしくなっていく中で、同じ職場で働き続けることを心の底から求めていたかと言われると、そういうわけでもありませんでした。また、「保育士は女の仕事だ」「自分は男になるのだから男らしい仕事に変わった方が良い」というジェンダーバイアスもありました。そうしたことから、私は、退職を決意したのです。

そんな私が、保育士の次に選んだ仕事が、運送会社のトラック運転手でした。当時の私には、保育士よりも男らしい仕事に見えましたし、何より、うまくいけば月収100万円も夢ではないと聞き、心が躍りました。

私が持っていた運転免許はオートマ限定でしたので、さっそく教習所に行き、中型車8トン限定免許を取りました。

トラック運転手をしていた頃の私

運送会社では、最初は社長の横乗り、つまり先輩の隣で運転や荷積みを学びました。しかし、1日目が終わったときの感想は、「こんなこと自分にできるわけがない!」でした。社長は丁寧に教えてくれるのですが、大きなトラックを操ったり、荷物に合わせた多彩な荷積みの仕方を覚えたりすることが、自分にできる気がしなかったのです。

実際、一人で乗るようになると、トラブルの連続でした。切り返しがうまくできず、右往左往して集荷や配送が遅れたり、荷物を引き取りに行った先で荷主の乗用車にトラックをぶつけたり。時間通りに……と思うほど焦り、トラブルが起こりました。あげく、狭い道からトラックが出せなくなり、パニック状態になった私は、壁にトラックをぶつけ、破壊してしまいました。狭い道での出来事でしたから、停車することもできないため、そのまま車を大きな通りまで走らせたのですが、周囲の人には「逃げた!」と見えてしまったのです。

もちろん、社長にはものすごく怒られました。私は心から謝罪し、「トラックの運転手は自分には向いていないと思います」と社長に言いました。私が性別適合手術のためにお金を貯めなければいけないことを知っている社長は、「確かに大変な失敗だったけど、ここで辞めてしまったら、今後、何をしても逃げることになるんじゃないのか」とまで言って、私を引きとめてくれました。本当にありがたい言葉だと思いました。でも、この仕事は私には無理だと思いました。

すっかり自信を失った私でしたが、手術のためには、いえ、それ以前に、生活のためには仕事をしなければいけません。ハローワークにも相談に行きました。「性別移行したいのだけれど、どのように職探しをすればよいでしょうか」とアドバイスを求めたところ、相談員から「女性なのに男性として雇うのは難しい」「就職では不利になるから性別移行のことは面接では言わない方がいい」と言われたこともあります。まだまだトランスジェンダーについての理解、人権意識が乏しい時代だったのです。

ただ、私は、性別移行の意志をきちんと伝えて就職しようと思っていました。男性の心と女性の身体を持って生まれたけれど、これからは男性として生きるつもりだ。身体もできるだけ男性に近づけようとしていると。そのことを正直に打ち明けて、それで就職先が見つからなければ仕方ない。自分の中に折れない芯ができていました。

次回は、トランスジェンダーであることを面接で明かしたところ「へー! そんな人がいるんだ!」と驚かれた就職活動、そして男性として採用してもらえた次の職場での出来事についてお話しします。

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