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「食うために働くな、働くために食え」

私が番組ADになったばかりの頃、D(ディレクター)から実際に言われた言葉だ。

言われた当初は「これぞ職人、かっこいい!」と感動したことを鮮明に覚えているが、今振り返るとつくづく、ブラック企業の渦中にいるときは色んな感覚がマヒしていることを思い知る。

その当時は寝る時間はおろか、忙しい時(年末年始特番など)ではごはんを食べる時間さえないような勤務が続くことも珍しくなかった。

最寄りのコンビニやマクドナルドに駆け込んで、「身体と脳みそを動かすために」適当なものを頬張る生活。食事は楽しむものではなく、身体を動かすために摂取するエネルギーでしかなかった。マクドナルドのセットのサラダが最高にヘルシーだと思っていた時代があったほどだ。

グルメ系の企画を担当すると、実際に店舗を訪れてリサーチと称して看板メニューを何品かいただく。1日に訪れる店舗は平均で5件。フードファイターでもなんでもないごく普通の女子が1人で巡回するのだ。味やこだわりを知るために食べているはずなのに、後半4~5軒目からは満腹感が勝ってなんの味もしない食事をせざるを得なかったことが忘れられない。


こんな具合で、肌荒れや目のクマによりじわじわと体調を悪くしている自覚はあっても、仕事を覚えていく毎日がそれを上回るほど楽しかったものだから、私にとって働き方改革とは絵空事、というよりもまったくもって他人事だった。

健康診断の際に「大腸がん陽性、精密検査を」と通知が届いて初めて、真っ白になった頭からなんとか冷静さを取り戻して食事と生活リズムを見直そうと決心した日が忘れられない。ちなみに、精密検査の結果 悪性腫瘍は見つからず、ストレスによって出血したのだろうというなんともブラックな結果を告げられた。がんと見間違われるほどに、私の身体は限界を訴えていたのだろう。

20代で大腸がんになることはまずありませんからひとまず安心してと病院の先生に慰められた たった半年後に、阪神タイガースの選手が20代で大腸がんであることを公表したのだから、大病とは一見他人事のようで明日は我が身だと思い知ったことを覚えている。


結婚を機に退職し、ゆっくりとキッチンに立つ時間ができた。料理サイトやSNSに日々様々な簡単レシピが更新されていくおかげで、料理らしい料理を作ったことがなかった私でも見よう見まねで健康に気遣った料理を作ることができている。


今日、久しぶりに夫が飲み会だったため、本当に久しぶりにコンビニのお弁当を食べた。味はきちんと美味しいはずなのに、どういうわけか映像編集機の前に座って胃に流し込むように“食事”をしていた頃の自分が脳裏によみがえる。美味しいだとかマズいといった味の感想よりも、食べている間は終始当時の自分への同情の気持ちでいっぱいになりながら複雑な気持ちで食べきった。こんなことなら娘を連れてゆっくり外食したほうが美味しく夕飯どきを過ごせたかもしれない。


身を粉にして働いた経験はいつか自分に活きてくる、と当時は自分に言い聞かせていたが、一度粉になった身を修復するのはなかなか時間がかかるものだ。メンタル面は特にね、と当時の私をねぎらいたい。

決して自炊が好きなわけではないのだが、もうしばらくはコンビニのお弁当と距離を置こうと、そっと空になったお弁当の蓋を閉じた。

健康も美容もすべては食事から。娘の食事はもちろん、自分たちの食生活にも気を遣って過ごしたい。

2020/10/12 こさい たろ

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