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炭酸水サコ
2020年7月1日 22:07
事実は小説よりも奇なり。 イギリスの詩人バイロンによって生み出された言葉だ。様々な人間が共感し、時代を超え、国を超え、はるばるこの極東の2020まで生き永らえている言葉の一つだ。 しかし、一度考えてみて欲しい。現実では起こりえないことが、小説の中にはいくらでも起こりうる。つまり、小説の中では、奇なることなど存在しない。何が起きても不思議なことなどないのだ。 人を殺めようが、好きなあの
2020年6月30日 22:23
北ヨーロッパのバルト海沿岸に位置するフィンランドという国は、世界一豊かな水と、広大な美しい森を擁する自然の楽園だ。冬には毎夜、幻想を体現するオーロラが煌めき、夏には沈まぬ太陽が白夜と名を変え、文字通り白んだ光を灯す。 こうした特徴的な四季を巡らせるこの国には、様々な伝承がなされている。世界で唯一正式に認められたサンタクロース。神から授かったともいわれる200以上の活用を持つ言語。森の奥には小
2020年6月29日 22:15
日本人は、シャイである。これは、世界的に認められる我々の民族性だろう。もちろん、時代が移り変わり、社会性を備えた個体も数多く存在しているが、どうやら私は生粋のジパング生まれらしい。 大層な前置きをしたが、何が言いたいかというと、服を買いに行くのが苦手なのである。髪を切りに行くのもなかなかのハードルだが、これは寝たふりでもしていれば、いつの間にか終わっている。しかし、こと服屋においては、いくら
2020年6月28日 18:32
チャーリー・J・ケンディ(10)―――飼い犬のレディが逃げ出し、それを追いかけていた。トビー・レディック(8)―――初めてひとりで街に出たが、道に迷ってしまった。ジェンナ・ハンフリー(12)―――妹のヘイゼルと喧嘩をして、母に説教をされていた。ビリー・ホームズ(14)―――前日の夜遅くまで聖書の勉強をしていたために寝坊した。ウォルター・B・ライリー(16)―――弟が高熱を
2020年6月27日 23:26
フランスに住む資産家の男の楽しみは、週に一度、彼の豪邸にやってくる古物商から珍しい品を買うことだった。 その日も、馴染みの古物商がやってきて、広大な庭の青々とした芝生の上に、厚手の絨毯を敷き、一定の間隔で商品がひとつひとつ丁寧に並べられていった。年季の入っていそうなテーブルや、きらきらとした装飾の施された箪笥、玉座のように見える椅子に、何者かの絵画、煌々と光を反射する食器類など、その品ぞろえ
2020年6月26日 19:23
2019年、9月頃から今年の2月にかけて、オーストラリアで、大規模な森林火災が発生し、多くの被害が出たのは記憶に新しい。中でも印象深いのは、コアラの大量死だ。火事の影響でオーストラリア東部に生息していたコアラは、5分の2にまで、その数が減ったという。 コアラの好物と言えば、ユーカリの葉っぱであるというのは、ご存知の方も多いだろう。のんびりと木にしがみつき、葉をもさもさと食べる姿は、実に愛らし
2020年6月25日 19:27
連続殺人鬼に次いで爆弾魔か。いったいどうなってんだ、この街は。名探偵でも住んでるのか?だとしたら、さっさと容疑者を全員集めて、真犯人を指さして欲しいもんだ。「ぅあっぢぃっっ!!」…何やってんだ、小林。「えー、野上さんじゃないスか、コーヒー淹れてくれって言ったのー」ああ、そうだな。火傷をしろとは言ってない。「うわっ、ヒドッ。そんなんだから捜査本部から外されるんスよー」うるせぇ
2020年6月24日 18:39
生きている限り、何が起こるかは分かりません。どれだけ注意を払おうが、事件事故に巻き込まれる可能性がゼロになることはありません。未来を予知するなどもってのほかです。この世で最も信頼できる予言と言われる、明日の天気予報ですら、その精度はまちまちです。 そのため、人々はさまざまな保険を利用しています。医療保険は、病気やケガの際に診察代や治療代が一部保障され、火災保険では、盗難や文字通り火災の際に家
2020年6月23日 22:37
毎年、この時期は交通網の悲鳴が聞こえてくる。新幹線や飛行機は、片道切符が普段の往復切符の値段を超えるし、高速道路は軒並み渋滞だ。同情する。私の実家は、自宅から十数駅だし、おばあちゃんの家もそこから車で10分程度。帰省ラッシュには縁がない。 大学に進学するとき、それだけ近ければ実家から通えるじゃないか、という家族の反対を押し切って、今の家を借りた。別に実家が嫌いなわけではないし、家族との仲も悪
2020年6月22日 20:20
月曜日の昼下がり、街外れの精肉店に一人の老人が訪れた。ボロボロの衣服を身にまとい、かすかに異臭を放っている。やせ細った体に、蒼白な顔面は、今にも倒れそうな病人そのものであった。 入店してから、何を探すでもなくうろつく老人に、店主は呼び掛けた。「いらっしゃい。今日は何をお探しで?」「ああ…いや…。そうだ、少し聞きたいことがあるんだが…」老人はしゃがれた声で答えた。はげかけた頭部とは
2020年6月21日 18:38
2013年、エジプトにある考古学の研究所では、新しく発見された古文書の解読が行われていた。 その古文書は、保存の状態や様式から紀元前二千年ほどのもので、エジプトでの記録ということまでは分かっていたが、劣化がひどく、また文字もその世代で広く使われていたものとは異なっていたために解読が困難を極めていた。 研究所では、様々な観点からその文書を解析し、ついにそれが当時の医療用カルテであると突き止
2020年6月20日 21:44
夫は、完璧な人間でした。 学生の頃からテストはいつも満点で、誰にでもあるような小さなミスをしたところを見たことがありません。忘れ物などもってのほかで、仮に何かトラブルがあったとしても、立ちどころに解決してしまうんです。 何か質問をすれば、常に最善の回答が得られるので、周りからの信頼も厚かったです。それで、あたしもその一人です。告白するときは、まるで私が告白するのを知っていて、待っていたと
2020年6月19日 22:36
やってしまった。こんなさびれた工場で働いている以上、こういう事故は少なからず覚悟していたが、まさか自分が当事者になるとは。 出勤して、担当の製造ラインにつく。向かって左側に積み上げられた鉄板を1枚ずつ目の前の機械にセットし、レバーを引き下げる。一旦レバーを上げ、変形した鉄板を調整し、再度レバーを引く。そうして成形された鉄の部品を右のコンベアに流す。それだけの作業だ。 その日もいつも通りに
2020年6月18日 17:08
とある日の深夜、青年は女の笑い声で目が覚めた。小さなその声は、どこからともなく聞こえてきたが、どこかで宴会でもしているのだろうと気に留めず、彼はまた眠りについた。 あくる日、またも深夜に目が覚めた。女の笑い声である。昨日よりもほんの少し大きな声で笑っている。まったく、週末だからって連日よくやるな、と呆れながら、彼は布団に深くもぐりこんだ。 また別の日、女の笑い声が青年をたたき起こした。夕