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生産ライン

 やってしまった。こんなさびれた工場で働いている以上、こういう事故は少なからず覚悟していたが、まさか自分が当事者になるとは。

 出勤して、担当の製造ラインにつく。向かって左側に積み上げられた鉄板を1枚ずつ目の前の機械にセットし、レバーを引き下げる。一旦レバーを上げ、変形した鉄板を調整し、再度レバーを引く。そうして成形された鉄の部品を右のコンベアに流す。それだけの作業だ。

 その日もいつも通りに出勤し、作業をこなしていたが、昼休憩に入る少し前、工場長に呼ばれ、作業を中断した。事務所から戻ると、野良猫が2匹、自分の製造ラインに侵入していた。一匹はプレス機の中に、一匹はレバーにぶら下がっていた。とっさに、手を伸ばすと、猫が飛び退き、同時に、プレス機が―――。

 気づいたときには、この病院のベッドの上だった。ショックで気を失い、見慣れた指先は5本ではなく4本になっていた。しばらくは、まともに働けそうにないし、慣れるまでは時間がかかりそうだ。

 ひとしきり説明を聞き終え、気晴らしにトイレまでの廊下を歩いていると、一人の少女が歩み寄ってきた。

「おじさん、指無くなっちゃったの?かわいそう、、、私が治してあげるからね!」

それだけ言い残し、また廊下の角に消えていった。

 翌日、目が覚めると、右手に違和感があった。包帯を取ってみると、なんとなくなったはずの小指が、元通りになっていた。あれは夢だったのか?と困惑していると、病室に例の少女が入り込んできて言った。

「よかったね!これからどんどん生えてくるよ!」

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