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不治の病

 2013年、エジプトにある考古学の研究所では、新しく発見された古文書の解読が行われていた。

 その古文書は、保存の状態や様式から紀元前二千年ほどのもので、エジプトでの記録ということまでは分かっていたが、劣化がひどく、また文字もその世代で広く使われていたものとは異なっていたために解読が困難を極めていた。

 研究所では、様々な観点からその文書を解析し、ついにそれが当時の医療用カルテであると突き止めた。特殊な文字列の原因は、専門用語が多用されているためだった。

 解読を進めていくと、様々な病やケガの中で、最も感染者の多い伝染病の記録がその大多数を占めていることが分かった。その流行り病について、カルテのメモには、以下の通りに、症状と病名が書かれていた。

『病にかかった者は、まず髪の毛が徐々に白くなっていく。人によっては、抜け落ちてしまうこともある。』

『またしばらくすると、皮膚がたるんでくる。顔だけでなく、手や足、全身にその症状は転移する。』

『病状が悪化すると、少しずつ力が弱っていく。そのうち、モノを持ち上げたり、歩いたりすることすらままならなくなり、最後にはピクリとも動けなくなってしまう。』

『我々はこの病を、一人目の感染者の名前にちなんで「オイ」と名付けることにする。』

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