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谷郁雄の詩のノート27

梅雨も半ばになりました。降ったり晴れたりの日々ですが、体調を崩している人も少なくないことでしょう。くれぐれもご自愛ください。小さな巣の家で元気に鳴いていた子ツバメたちは巣立ちの時期を迎え、いまはすいすい空を旋回しています。まるで小さなブーメランみたいに。年々厳しさを増す東京の夏。日常がちょっとした冒険のようになってきました。(詩集「詩を読みたくなる日」も読んでいただけると嬉しいです)


「ふせん」

街に
人が
あふれている

みんな
頭や
顔や
おしりや
手足に

ふせんを
くっつけている

その人のことを
忘れたくない
誰かが
ペタンと
くっつけておいた

カラフルな
ふせんが
葉っぱみたいに
風にそよいで


「罠」

雑草を
結び合わせて
輪っかを作る

それから
すました顔で
友達を呼ぶ
いいもの見つけたから
こっちにおいでよ!

友達は
期待に
目を輝かせ
駆けてくる

途中で
草の輪っかに
足をとられて
バタンと倒れる
チクショーと叫んで
幸せな一日が終わる

落とし穴の
作り方は
また
別の日に


「時間」

苦しい日
ぼくは
時間の背中を押す

早く
一日が
過ぎてほしくて

楽しい日
時間が
ぼくの背中を押す

笑顔の
ぼくに
嫉妬して


「詩は」

言葉は
釣りの
道具じゃない

人の心を
釣り上げる
釣針じゃない

言葉は
(詩は)
釣られる魚の
悲しみに
寄り添う道具

©Ikuo  Tani  2023


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