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谷郁雄の詩のノート31

日曜日に地元の商店街を散歩していたら、駄菓子屋が目にとまった。そのお店は道端で営業していて、20才くらいの女の子が店番をしていた。なつかしい駄菓子がたくさん並べられ、光の中でカラフルに輝いていた。店番の子の首からぶらさがる名札には「あき」という名前が。あきさん曰く「この駄菓子屋は大学生が経営してます」。大学生、なかなかやるじゃないか。ぼくはタバコを模したココアシガレットという砂糖菓子を買った。子どもの頃にこのおかしを口にくわえて、父の真似してタバコを吸う遊びをしたのが、なつかしい。おかしを受け取り50円玉をあきさんの手のひらにぽとり。夏の終わりの幸せなひと時。家に帰って妻とおかしのタバコを吹かそう。あきさんのことを詩に書きました。秋が早く来ますように。(詩集「詩を読みたくなる日」も読んでいただけると嬉しいです)


「別れ上手」

人の死にも
慣れていく
木の葉が一枚
落ちる寂しさ

あなたに
出会えて
よかったと

伝える機会も
ないうちに

また一人
いなくなる


「東くん」

幾何学を
いくなんがくと読んで
クラス全員を
爆笑させた
東くん

いま頃
どこで
何してるかな

きみは
無知の力で
みんなを笑わせ
つかのま
人生の重さを
忘れさせてくれたね

クラスが
ばらばらになり
だんだん
無口になっていく日々に


「あきさん」

駄菓子屋の
店番をしていた
女の子の名前は
あきさん

ぼくの母と
同じ名前
秋生まれ
なのかもしれない

子どもの頃に
好きだった
タバコを模した
おかしを買った
五十円也

あきさんと
少しばかり
立話をして
夏の終わりの
陽が照りつける商店街を
明日に向かって
一人で歩いた

もっと
輝かしい人生を
夢見たこともあったけど
この人生も
そう悪くはないと
思えるほどには
齢を重ねた

©Ikuo  Tani  2023


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