種を蒔く人

金沢市在住の睡眠障害、躁鬱病、不安障害の専業主婦。小説、エッセイを書いています。

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金沢市在住の睡眠障害、躁鬱病、不安障害の専業主婦。小説、エッセイを書いています。

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種を蒔く人

 種を蒔く人。  それは美しい花の種だけではない。面倒ごとや厄介ごとなどの悩みの種でもある。  工業高校を卒業後、短期大学美術学科を卒業。  漫画家になる夢を諦めて、法律事務員として11年間従事。  その間、不眠症となり、躁鬱病と診断される。  現在は34歳、専業主婦をしているが、今年中には何かしら働きに出る予定。  趣味は、と聞かれると最近非常に困る。鬱状態が酷く、何をしても楽しくない。  酷くなる前は、読書・小説や絵、詩を書く・カフェ巡り・カメラが好きだった。  あ、

    • 愛するということ

      「最近、乾燥しちゃって。でも私、まめじゃないじゃん。だからさ、他人に見せるのが恥ずかしい手になっちゃった」  小さく苦笑いをしながらそういう。そんな君の指先をちらりと見た。  そんな風に思ったことはなかった。日々変わりゆく君の手を、毎日見ているつもりだ。  お香に火を点ける君の指先、お気に入りのふきんで手を拭く君の手、目を覚ますと目の前にある、君の指先。  指先に触れようか迷った瞬間、お香の灰が受け皿にぽとりと落ちた。  君のその手で淹れた、この紅茶が好きだ。  これ、うまい

      • あなたを覚えていなくとも

        「宮田、転校するって!」  廊下から、大げさに息を切らした山川がそういった。  その瞬間、休み時間の弾んだ空気が響めきに飲み込まれる。  二組の宮田はサッカー部の副主将だ。彼は頭の回転がとてもよく、言葉を選ぶのがうまいから凄く顔がいいわけでもないのにモテるし、慕われてる。  マジかよ、嘘でしょ、そんな言葉が行き交う教室で、私はしらけ切っていた。  どうせ半年後の卒業式には、彼の名前が出る事はないだろう。人は忘れる。どんな大げさに伝えた衝撃的なニュースも、人は忘れる。  彼の靴

        • POPPY-SHADOW OF LOVE-

           手のひらに生えたつぼみを今日も見つめる。  つぼみはどうやら、わたし以外見えないようだ。  水をすくうような仕草をすると、それが見える。それが日々育っている。何を栄養としているのか、知る術はない。 「まぁた見て。暇なんかい」  コイツは大阪から転校してきて、それから何かとわたしに絡んでくる。 「暇じゃありません。考え事」  はぁ、お前に考え事? と呆れたように笑みを浮かべ、そしてわたしの机に両腕を組んで、頭を乗せた。  ふわふわの毛、つむじが見えた。いつも見えないところが視

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        種を蒔く人

          飛んでいけ。

           高三の夏休み。  無口で無愛想な彼氏が、祖母の形見で小傷のある鳥が飾りのネックレスを渡そうとした。  そんな大切な物は貰えない、手を振ると、静かに後ろへ回り首にかけた。その日から、お守りの様に着けている。  でも彼は遠い大学に行き、言葉足らずの私達は自然消滅した。  蒸した夏の夜。ふとチャームに触れ、彼を思い出し、そのまま眠り込む。 「あの子はね、本当にいい子よ」  ご老人の首にあのネックレスが着いている。そして私は飛び起きた。  何も言わずに。目に浮かぶ。好みも聞かず、キ

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          持病があることを隠すのをやめた話

           みなさんは持病がおありですか?  きっと超健康体! なにそれ? ってかたも、人間誰でもあるよ……ってかたもいらっしゃることでしょう。  わたしには持病がいくつかあります。  ・睡眠障害  ・躁うつ病  ・不安障害  ・食物&薬アレルギー(ピーマン、青魚、一部の漢方薬)  多分、わかってないだけで、他にもあると思う。メッチャ謎のくしゃみと鼻水が出るときがあるし。  でも、めちゃくちゃ注意しながら生活してるのが、この四つの病気です。  わたしは、特にこの上記の精神的な病気

          持病があることを隠すのをやめた話

          ハンドメイドイベントに参加します。

           結婚を機に中断していた、アクセサリーのハンドメイドを復活させました。  作ったはいいけれど、インスタグラムに載せるくらいで、さて、どうしようかと考えあぐねていたところ、先日参加した、対面販売のZINEイベントを思い出しました。  金沢なら、ハンドメイド即売会はきっとたくさんあるはずだと検索してみたところ、何件かヒットして、まず、わたしの作品とショップ名を覚えてもらおうと、応募してみました。  そして、明日、数年ぶりに人前で、自分が作ったアクセサリーを販売させていただきます。

          ハンドメイドイベントに参加します。

          That's all i could say.

           泡立つ水の中でオレは確実にその顔を見た。  恵理子の柔らかくて、丸い顎が印象的だった。  七歳の夏、オレたちは小さな崖のある、川に行った。たしか、オレを含めて六人ほどで。  そこへ行く前に、父にいわれた。 「間違っても、崖から川に飛び込んだりするなよ」と。  父の顔はいつもより険しく、子供心に本気でいっているのが伝わったので、それだけは守ろうと思っていた。  なにより、オレは泳げなかった。いや、厳密にいうと、落ち着いたプールとかの環境で少しくらいは泳げたけれど、自然の中で

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          ふふふのZINEに参加しています。

           今年も、ふふふのZINEさんに参加させていただいてます。  今回も夢日記ZINE「夢のわたしは主人公」を置かせていただいてます。  ふふふのZINEさんは、美容室のフリースペースを借り、そのスペースに73ものZINEを置いていらっしゃいます。  また、今まで参加されたかたのZINEを閲覧することもできて、とても楽しい空間なんだろうなぁ…!  さて、先日とあるイベントで、新作ZINEの感想をいただくことができました。  そのかた曰く、読み終わって、切なくなった、だそうです

          ふふふのZINEに参加しています。

          テンカウント

           もう、いいのよ。  彼のお母さんはそう、ぽつっと口にした。  彼の骨がこの墓石に入ったその日より、下瞼はたるみ、口元に深い皺が入って、痩せたその顔で、必死に笑みを作ろうとしている。でも、わたしの目には笑顔は見えなかった。  その日から仕事が終わると、高校時代に彼と一緒に乗っていた電車に乗り、数え切れない誰かが座ってくたびれた席に座り、窓に映る自分の顔と、闇に飲み込まれた景色を見ていた。  わたしは指折り数えて待っている。  君と初めて出会った日から、君がなにもいわずに去った

          テンカウント

          zine zine zineマルシェに参加いたします。

           やっと原稿も一段落しましたので、五月二八日(日)に富山駅で行われる、BOOK DAYとやま内イベント・zine zine zineマルシェの新刊について、お知らせなどさせていただきます。 ※出展者名は、あかり、と名乗っております。  新刊「夢のわたしは主人公」を作ることは、このイベントを知るより前から決めていました。  主に通販での販売になるかなぁ、と考えていた矢先、イベント主催者さまからご連絡をいただきました。  今回は特にZINEの中でも、パーソナルZINEを制作して

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          わたしたちを結ぶもの

           ぴかぴかに磨かれたコートに座り、彼はバッシュの紐を結ぶ。いつもは適当、が口癖のくせに丁寧に。  私はこの様子を見るのが好きだ。 「毎日よく飽きないよな」  彼は少し呆れたように笑みを浮かべる。  私たちは高校三年生。彼にとって今年が最後のインターハイ出場のチャンスだ。  私は大きなバックパックを背負っている。私が履くのはスケート靴だ。  毎日、足の甲の部分から紐をぎゅ、ぎゅ、と絞めるから指の皮が剥けたりする。  彼はそんなこと、知らない。でも、いいのだ。 「っし、今日もやる

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          ドタキャンとモチベーション

           いつだってなにかを嫌になるときは他人が絡んでいると思う。  推しを推すモチベーションが急激に低下した。自分でもびっくりだ。  推すモチベーションと推しが好きって言う気持ちはまた別物だとわたしは思っていて、推しのことは苦しいほどに大好きだ。  でも、それを表現する力がごっそり奪われた。  とある映画の応援上映が決まって、チケット発売前に友人を誘った。友人はぜひ行きたい! と言ってくれたので、チケットを取ることにした。  うちわとペンライトの持ち込みも可能だったので、材料を

          ドタキャンとモチベーション

          アゲイン アンド アゲイン

           ワイヤレスイヤホンが今や主流だと言うのに、こいつは未だに有線イヤホンを使っている。なんでかは教えてくれない。  二人で片耳で聞くのも今日が最後だ。俺は県外の大学に進学する。 「なぁ、歌詞知りたいから、いい加減タイトル教えてくんない?」  仕方ないなぁ、贈る言葉じゃないけど、最後に教えてあげる、と言った後、躊躇ったように少し瞳が揺れた。 「Symphonyだよ。クリーン・バンディットってバンド」  ふーん、と相槌を打ちながら和訳を検索していると、スポンとイヤホンが耳から抜けた

          アゲイン アンド アゲイン

          ぺらふぇす2023に参加しています。

           Twitterにて開催中の「ぺらふぇす2023」に参加しています。  こちらはA4用紙1枚で各々が折本やフリーペーパーなどなど、思い思いの形で作品を制作する、という企画です。  郵便用ぺらっとは既に送付済みで、こちらの作品のダウンロードやネットプリントはございません。(特殊な紙と印刷で制作したものなので……)  ちなみにこちらの作品は2023年06月24日に行われる「ふらっとぺらっとpage2」と言うイベントにて展示していただけるので、そちらで読むことができます。  詳しく

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          美術を学んでいたわたしが小説を書くのが面白くなった話。

           昔から本を読むのは好きだった。  保育所を上がり、学校に行き始めてからは国語の教科書を貰うと、一日で読破するくらいには。  でも、それよりも絵を描くのが好きだったわたしの表現手段は絵だった。成人するまでは。  美術系の大学に入って、上手い人がたくさんいたのは勿論だし、その人たちは早くから絵を学んでいて、どうしても埋められない時間や量の差があったし、そこに特に嫉妬はなかった。  ただ、ものすごく苛立ってた、自分に。  頭の中でキャラクターは自由自在に動き回っているのに、この

          美術を学んでいたわたしが小説を書くのが面白くなった話。