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ドタキャンとモチベーション



 いつだってなにかを嫌になるときは他人が絡んでいると思う。
 推しを推すモチベーションが急激に低下した。自分でもびっくりだ。

 推すモチベーションと推しが好きって言う気持ちはまた別物だとわたしは思っていて、推しのことは苦しいほどに大好きだ。
 でも、それを表現する力がごっそり奪われた。

 とある映画の応援上映が決まって、チケット発売前に友人を誘った。友人はぜひ行きたい! と言ってくれたので、チケットを取ることにした。
 うちわとペンライトの持ち込みも可能だったので、材料を購入して、自作した。友人もそれを隣で見ていた。
 毎晩寝る前に楽しむ二人の姿を想像して眠った。

 チケット発売日。
 なんとかチケットは取れた。即完売だったらしいけれど、バンギャル時代とった杵柄が功を奏したようだ。
 指を震わせながら取ったチケット。
 応援上映の日は特別な日だった。推しの日だった。だからテンションもますます上がった。

 当日。友人は実家(会場から車で一時間半ほどかかる場所)にいたけれど、前日に確認した限りでは、十七時半までに着くように行く、とのことだった。
 わたしは忘れ物をしてしまったので、一度家に取りに戻った。念のため連絡しておこうと思い、
「忘れ物したから、一回戻ってる」とLINEをした。既読になったけれど、返事はこなくて、運転しているからかな、と深く考えずに会場に向かった。
 十七時十五分に発券を済ませ、会場のロビーで待っていた。
 十七時十八分、
「もう着いてるよー」と一応到着の報告をした。既読にはならなかった。運転中だもんな、と思った。
 十七時三十五分。彼女は現れない。LINEを見ても既読になっていない。そわそわしてきて、
「間に合いそう……?」と再度LINEをしたところ、しばらくしてLINE電話がきた。
「ごめん、間に合わん……」
 第一声がそれだった。間に合わないと言っても、五分間に合わないのか、三十分なのかわからなくて、そもそも今どこにいるんだろう? と尋ねると、
「(実家)にいる……」と衝撃的なことを言われた。
「あーー……じゃあ、無理だね……。わかった」
 そう言って、一旦電話を切った。すると、一気にLINEが来た。
「ごめん」
「私のことなんか気にせず、(種を蒔く人)ちゃんだけでも楽しんできて!」
「チケットってコインロッカーに入れられないかな?」
 わたしは全部既読無視して、茫然としたまま会場入りした。
 そうじゃないんだよ。
 あなたと楽しみにきたのに、その約束をどんな理由かもわからず、反故にされて、どんな気持ちで、どんな顔して楽しめばいいの?
 もう九分前なのに一番上の階から下の階まで移動してコインロッカーに入れるの? 時間がなさすぎる。
 友人の分まで自腹を切って準備したうちわとペンライトはまったく役に立たなかった。

 会場から出ると、みんなが楽しそうに写真を撮っていた。あーあ、わたしもこうなるはずだったんだよな……そう思っていたら、友人がいた。わたしは一言も話せそうになかった。
 隙を見て、友人から逃げるように建物の中から出た。外に出ると怒りと悲しさが涙となって溢れて、夫に電話した。
「すぐ迎えにきてほしい」
 夫はすぐに迎えにきてくれた。その車内で、
「話したい」とLINEが来た。わたしは今、話すと今後修復不可能になるくらい汚い言葉を浴びせそうだったので、
「ごめん、今は無理だわ」とだけ送った。
 それでも鳴り止まないLINEの音。自宅に到着して、いろいろ見てたけど、遅刻の理由とか、本来自分から言うべきことはまったく書かれてなくて、それにも怒りを刺激された。
 それでも、道端で泣きながら夫に電話していたときよりは状況判断はできてたので、LINEを返すことにした。

・遅刻した理由は?→寝坊です
・寝坊して起きた時点で連絡できたよね? わたしから連絡しなければ、来れないと言わなかったのはなぜ?→すぐに向かわなきゃと思って混乱してた

 この質問の後、彼女は長文を送ってきたのだけれど、要約すると、
「私は誠意を尽くしたつもり。でも、(種を蒔く人)ちゃんは遅刻して行けない私の悲しさを理解してくれないし、一緒に悲しんでくれないんだね」と言うものだった。
 ……アンタ、いつからそんな自己中な人間になったん??
 まず、ドタキャンされて、自分は一ミリも悪くないのに傷ついて、その上まだわたしを傷つけるんですか。
 これは文章じゃ埒があかないと思い、LINE電話をした。
「あのさぁ、わたし今すっごい腹立ってるんよ。その状況でさ、やり取りしたら、わたし絶対○○ちゃんを傷つけると思って、今は無理ってゆうたんよ」
「……それでもいいから話したかった」
「今はそれでもいいと思うかもしれん。でも、あとで冷静になったときに、あそこまで言わなくてもええやん! とか絶対思うんよ、人って。わたしも経験あるし」
「……」
「なんか勘違いしとると思うんやけど、わたしはメッチャ怒ってるけど、だからって絶縁や! とか、そんな短絡的なこと考えてない。だからこそ、言葉を選べる状態になるまで話したくないってことやってん。もう、この話これで終わりね!」
 そう言って、電話を切って、その日は寝た。

 次の日の朝。
 そう言えば、チケット代の話すら出てこなかったな、と思った。
 ドタキャンも自分から言い出さないのに、チケット代のことも自分から言わないのか、と呆れながらLINEで、
「チケット代の精算だけお願いします」と送ったところ、
「もちろんです!」と返事がきた。なにがもちろんです、だよ。そう思ってるなら自分から言えよ、とまたイラッときたので、しばらく放置した。

 それから一週間以上が経った。それでもやっぱりなんか悲しい。
 常に怒ってるってことはなくなったけど、推しの日に推しを全力で応援して、友人と楽しい時間を過ごす可能性が潰えてしまった、もう二度と来ないその日を思うとモヤモヤしてしまう。
 作品が悪いわけじゃないのに、多分わたしの脳が意図せずに悪いイメージに繋がってしまうものから遠ざけようとしているのかもしれない。その日から小説が書けなくなった。ちょっと書いて、胸がずぅんと重くなって、別のことをする、そういうことの繰り返し。

 わたしの心が狭すぎるんだろうか。
 前日に来れないと言われれば、夫と行ってたと思う。
 自分から言ってくれたら、怒りはするけど、その日のうちに話せたかもしれない。
 中学から付き合ってきた仲だと思っていたから、謝るしかないところに人格否定みたいな自己中な言葉を言われて、ああ、今まで心の奥底で私をそんなふうに思ってたのね、と言う落胆。

 いつだって、なにかから離れるとき、わたしは他人の言動に傷つけられて、嫌になる。
 金曜日、彼女に会いに行く。心に分厚い鉄板を敷かなきゃいけないんだろうな。できるかな。

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