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あなたを覚えていなくとも

「宮田、転校するって!」
 廊下から、大げさに息を切らした山川がそういった。
 その瞬間、休み時間の弾んだ空気が響めきに飲み込まれる。
 二組の宮田はサッカー部の副主将だ。彼は頭の回転がとてもよく、言葉を選ぶのがうまいから凄く顔がいいわけでもないのにモテるし、慕われてる。
 マジかよ、嘘でしょ、そんな言葉が行き交う教室で、私はしらけ切っていた。
 どうせ半年後の卒業式には、彼の名前が出る事はないだろう。人は忘れる。どんな大げさに伝えた衝撃的なニュースも、人は忘れる。
 彼の靴箱の前でその光景をゆっくりと思い返し、胸元の造花を外して、置いた。
「卒業、おめでとう」
 空気はまだ冷たくて、造花を持っていた指先がじん、と痺れた。


 ひさしぶりにXでの企画、毎月300字小説企画に参加させていただきました。
 ざっと書いたときには400字以上あって、とにかくいろんなところを削ったので、伝えたいことが伝わるのか不安ではありますが……。
 お読みくださり、ありがとうございます。

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