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たなしー、キタ!! その壱

「田中さん、ちょっとこのお店に行って状況を聞いてきてほしいんだけど。」
顧客訪問の件で、上司にこう切り出された。

ざっくり話を聞くと、売上の大きい顧客店舗の一つで、ある思わしくない状況があり、現場部門からウチのチームへ訪問要請が上がってきたらしい。

はっきりとは言わないものの、言いたい事はなんとなく伝わってくる。
おそらく顧客の方で人が入れ替わって、情報伝達が上手くいかなくなっているのだ。
そこを直接行ってやんわり伝えてきてよ田中さん、ってまぁそんなところだ。
そんなにしょっちゅうではないけれど、たまにある、そんな類のこと。
はいはいと心の中で呟きながら得意先へと向かった。

結論から言うと、その予想は全く当たっていなかった。
お店に入った瞬間から「これは違うな」と感じ、そこで働く方の表情や醸す雰囲気に、予想との違和感を感じた。さらに「見る人が見れば判る」類の物的証拠もちゃんとあった。
証拠品は先方の了承を得て、報告用の画像として写真を撮らせてもらった。

今回は他部門からの要請を受けての訪問の為、いつも以上に迅速に報告をする必要がある。該当店舗の訪問後、すぐに近くのドトールで画像付き報告メールを作成する。

報告メールの内容は、大方の予想を裏切る、拍子抜けする内容だ。
ふと、いたずら心が湧き起った。

最低限意味が伝わる位まで崩して、面白おかしく書いてやろう。

所属チームの上司は、こういう点はとても緩い。
すでに任務は遂行している訳だし、心置きなく面白がってくれるだろう。
メール送信先に入っている他の管理職の顔を一人ずつ思い浮かべ、ギリギリ大丈夫なラインを考えながら文面を作成する。

「ぎりぎり」を超えて「きわきわ」だな、と思ったのをとても良く覚えている。肝心の文面はほとんど覚えていないけれど。
件名は「○○店が××なワケ」と、ちょっとキュレーション風にしてみた。

次の日は、週1の定例チームミーティング。
各自のマイニュースを予めメール共有した上で、発表するコーナー。
私の次、愛ちゃんが堰を切ったように興奮気味に話し始めた。

「もう田中さんのこういうメールって本当に面白くって、グノシーみたいだなって思って。昨日も報告のメールが来た時『たなしーキタ!!』って」

なんと、メールに名前がついていたとは。しかも、その名もたなしー
今から4年前、書きたい気持ちはまだ誰にも言っていないのに。

予想外の展開に呆然とする私を尻目に、ノリノリな上司とイケイケな愛ちゃんで大盛り上がり。ワケの分からない内に、ミーティングは終了した。

***
noteを始めるにあたり、まず名前を考えた。
結婚して名字が変わったことで名前の平凡さに輪がかかり、結果として同姓同名がたんまり居ることが分かっていた。要らぬ混乱を引き起こさないよう、本名とは別の名前で、と決めていた。

やっぱり…たなしー
頭をよぎったのは、「シリアスな内容の時に、その名前違和感あるでしょ」という、当然と言えば当然のことだった。

うーん…考え込む私の中で、もう一度あの場面が再生される。

たなしー、キタ(゚∀゚)!!

小さな子供がたからものを見つけた時のような、驚きと興奮。素直な喜び。
あれには勝てない、他のどの名前も。圧勝、そう思った。

たなしー。そのちょっとふざけた感じも含めて引き受けよう。
この名前で始めよう。

私は、noteのアカウント作成に取り掛かった。

その弐、につづく…

※グノシーへのリンクはあえて貼っていません。はっきりとは分からないのですが、当時(4年前)とサイトの方向性が変わったような気がして、この中での参照先としては成立し難いと感じたためです。ご了承ください。

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