「趣味」とは「地図」であるというお話─三井ガーデンホテルズを巡って
「趣味はなんですか?」
こう聞かれてすんなりと答えられる人は案外少ないのではないかと思う。
趣味って何? どこからが趣味なの?
「映画が趣味です」というとき、映画をどれくらい観ていたら趣味なのか?
「たまに映画見るよ」くらいで「映画が趣味」って言っちゃっていいのか、それとも毎日1本見ていないと「映画が趣味」とは言えないのか?
この定義はあまりにも曖昧である。
どうしてこのような議論が今行われる必要があるのか?
それは、「オタク」と呼ばれる/自称する人の数が近年増加傾向にあるからである。
マイナビティーンズラボによれば、「自身が何かしらのオタクと思っている10代女子は全体の86%となって」いるという(注1)。
しかし一方で、岡田斗司夫の『オタクはもう死んでいる』が度々引用されるように、「オタク」という語のカジュアル化が起こっているのもまた事実だ。
私自身、「ディズニーランド」が好きないわゆる「ディズニーオタク」だ。上の記事では『本来であれば、サブカルチャー好きを指す言葉である「オタク」というワードが対象とする範囲が、今の若者たちの間ではディズニーやももクロといったメジャーなカルチャーにまで使われるようになってきている』ことにも言及されていて、若干肩身が狭い。
近年、筆者が特にハマっているのは、東京ディズニーリゾートの「ホテル」である。
ディズニーのホテルといえば、葛西臨海公園駅から舞浜駅へ向かう途中に見える金ピカの「東京ディズニーランド・ホテル」や予約戦争の熾烈な「東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ」などがイメージされる。しかし、私が言っているのは、ディズニーキャラクターがデザインされた極彩色の巨大ホテルのことではない。
東京ディズニーリゾートのいわゆる“ディズニーホテル”には四種類ある。
ひとつは、東京ディズニーリゾートを所有する株式会社オリエンタルランドとその子会社が運営する「ディズニーホテル」。これらはディズニーの名を冠した「ディズニーキャラクターとディズニー映画のホテル」という風合いである。
ふたつめは、東京ディズニーリゾート内に位置していて様々なホテル会社が営業する「オフィシャルホテル」。東京都内および全国に展開する有名ホテルの、東京ディズニーリゾートの敷地内に建てられた特別版である。
「パートナーホテル」は東京ディズニーリゾートとの繋がりが更に薄い。新浦安エリアにあり、つまりリゾートの外にある。ディズニーリゾートの周囲に存在しているディズニーの認可を受けたホテルという感じだ。「辛うじて無料シャトルバスは出てるけどもうほぼ関係ねえじゃん」みたいなホテルのことである。
(ちなみに最後のもう一種類は「グッドネイバーホテル」。「良き隣人ホテル」なので、東京都内や千葉県内の認可ホテルだ。「パートナーホテル」から地域の制限をさらに外したようなものと理解すると……荒い理解だが差し支えはない)。
こうした様々なホテルが存在する中、私の好みなのは「三井ガーデンホテルプラナ東京ベイ」である。このホテルは「パートナーホテル」に位置している。
ベッドは4台、部屋は水色や黄緑色で彩られている。圧倒的にファミリー向けの明るく楽しいホテルだが、私のような会話のできないクソ陰キャボッチにも優しくしてくれる。宿泊費は比較的安価にもかかわらず大浴場(無料)と朝食ブッフェ(別料金)とナチュラルローソンの恩恵に肖ることができ、東京ディズニーリゾートまでは無料のシャトルバスで10〜15分程度と好立地だ。
私はこれまで、ディズニーテーマパークから三井ガーデンホテルズを知り、その後東京都内(時に都外)の各施設を度々利用してきた。
そしてその中で私は、三井ガーデンホテルズの丁寧なブランド作りのファンになっていた。
今回のnoteでは、テーマパークとホテルの視点から「趣味とは何か」という問いを考えたい。
ディズニーランドとホテルの関係性についてその重要性を確認した後で、三井ガーデンホテルズの各ホテルについて平易な解説を行う。その後、これらのホテルを分析した後で、その先に「趣味とは何か」という究極の命題に対する一つの解を提案する。
「ディズニーランド」と「ホテル」
1955年にウォルト・ディズニーがオープンした「ディズニーランド」はどのように誕生したのか?
最も有名なエピソードは以下のようなものである。
ディズニーランドは「子供しか楽しめないものを、子供も大人も楽しめるようにした」ところにその革新性があったと言えた。
ディズニー初のホテル「ディズニーランド・ホテル」の場合はその反対だった。「大人しか楽しめないものを、子供向けにも提供した」ことにその新規性があったというのだ。
Disney+にて独占配信されている『ディズニーパークの裏側~進化し続けるアトラクション~』の中では、「“家族連れで楽しめるホテル”は当時まだない概念でした」(4:46)と説明されている。曰く、その1950年代、ホテルとは専らビジネスマン向けのものであって、家族で宿泊することなどあり得なかったのだそうだ。
「子供向けのものが大人に寄り添う」ことで生まれたディズニーランド、「大人向けのものが子どもに寄り添う」ことで生まれた「ディズニーランド・ホテル」。その両者が道を挟んで隣り合っていたことが、「子供も大人も」というテーマを成功に導いたのではなかろうか。
1955年にオープンしたディズニーランドは、1983年に東京ディズニーランドとして日本にやってくる。
東京ディズニーランドを運営するのは、株式会社オリエンタルランド。「千葉県浦安市、東京湾の埋立地を有効利用する」ための会社として設立されており、「ディズニーランドを日本に誘致しよう」と働きかけたのも正に彼らであった。
この会社創設時の初期メンバーであり、現在は会長を務める加賀見俊夫(かがみん)氏は、舞浜地域におけるホテル開発に特別な思い入れがある。
東京ディズニーランドがオープンした1983年時点でオリエンタルランドの社長を務めた髙橋政智氏にとって「ホテルとは、単に泊まる場所ではなく、とことん楽しむ場所だった」のだという。彼は「ホテルとイクスピアリは独自開発せよ!」と加賀見氏に発破をかけていたらしい。また、加賀見氏自身もホテルのバトラー(執事)サービスに自論を持っていた。
三井ガーデンホテルにいこう(宣伝)
1989年、株式会社三井不動産ホテルマネジメントは「三井ガーデンホテル」を広島県、千葉県、京都府の三か所からスタートさせた。
現在は国内に32の三井ガーデンホテルが存在し、「三井ガーデンホテル横浜みなとみらいプレミア」が2023年5月16日にオープンすれば33となる。
また、台湾の台北にあるものを含めれば34と数えられるらしい。たくさんあって、全部訪れるのにはどれくらいかかるのかわからない……。
ここでは(何の脈絡もなく)三井ガーデンホテルズのたのしいホテルステイの話をただただすることとする。
三井ガーデンホテルプラナ東京ベイ
2007年6月にオープンしたこのホテルが、TamifuruDの大好きなホーム。
「三井ガーデンホテルズ」の中でも特設サイトを持っており、他と扱いが全く異なることが伺える。
三井ガーデンホテルプラナ東京ベイの「プラナ」は「生命・息吹」を表す語で、元はサンスクリット語で「呼吸」という意味。南の島をテーマとしたリゾートホテルの風合いを醸し出している。
「南の島のリゾート」というテーマは具体的に次のような場所で見られる。
例えば、部屋は赤、青、緑、オレンジと様々な色をテーマに持ち、これらはフルーツや水辺、草原、大樹をモチーフとしており、明るく活力的な印象を抱かせる。「南の島の楽園」をテーマとするレストラン「プラナスタイル」は、ハワイ諸島のカルチャーに彩られている。
また、ホテルロビーにはナチュラルローソンが併設されている。ナチュラルローソンのシンボルマークは『「自然の恵み」「実り」「収穫」「大地の香り」といったイメージをモチーフとして、「人々が理想とする本当の意味での生活の豊かさ」をデザイン』しているのだそうだ(脚注2)。偶然であろうが、自然の息吹をデザインに取り入れたこのホテルのテーマにぴったりである。
三井ガーデンホテルプラナ東京ベイの最大の特質といえば、「ファミリー向け」という路線にある。
例えば、部屋の大きさを例に取ってみよう。多くの三井ガーデンホテルでは1部屋に対して1台のベッドが設置されていて、一部の部屋が2台目を用意している。それに対して、プラナ東京ベイにはベッドが1台のみという部屋はなく、4台設置されている部屋が低価格で提供されている。低層階には常設のベッドを6台設置しているような部屋まであるようである。
また、ハワイの雰囲気をまとったレストランでは朝食ブッフェ(MGHは「ビュッフェ」と書くが、どう考えても「ブッフェ」の方が言いやすい)を実施しており、「ロコモコ丼」「ハンバーガー」「アサイーボール」「パンケーキ」を用意(勿論、和食や洋食の通常のメニューも手堅く用意されている)。併設されたキッズコーナーは他のカウンターよりも一段低く、子供もブッフェを体験できる。
ホテルは東京ディズニーリゾート・パートナーホテルとして、パークへの無料シャトルバスを用意している。
また、最上階の7階には大浴場が用意されており、東京湾の夜景を眺めながらディズニーパークで遊んだ旅の疲れを癒すことができる。朝方であれば、日の出を拝むことも可能。
ホテルのすべての要素が東京ディズニーリゾートと地続きになっており、その点で正に「リゾートホテル」としての性格を持ち合わせているのだ。
三井ガーデンホテル京橋
JR東京駅の目の前(八重洲中央口から徒歩5分)という圧倒的な立地に存在するリッチなホテル。
三井ガーデンホテルプラナ東京ベイに宿泊しようとしたら割高であったため、1日東京ディズニーシーで遊んだ後に舞浜駅から東京駅まで移動し、ここで寝泊まりして翌朝直ぐにパークへ向かう……という楽しみかたを1度だけしたことがある。
八重洲サイドに位置しているため、京葉線への乗車がうまく行く。京葉線ホームへの連絡通路が、八重洲サイドの東側にあるのだ。
モダンなアプローチの中に小粋な江戸のテイストが加わった、シンプルで楽しいインテリアが特徴である。
ただし、シンプル故に大浴場はなく、ロビーもこじんまりとしている。立地は圧倒的に良いが、観光で使うにはやや狭いと思われる。東京ディズニーリゾート帰りはあの日私だけだったであろう。このホテルは比較的ビジネス向きのホテルなのである。
厳密にはこのホテルがそうなのではなく……もともと三井ガーデンホテルズ自体がファミリーホテルではないのに、プラナ東京ベイが独自の色を出しているだけである。
三井ガーデンホテル京都三条
昨年のゴールデンウィーク、私は京都にいた。
旅行ではない。ただ適当な日数、日常生活を物理的に離れてボケボケしてやろうという魂胆である。
三井ガーデンホテル京都三条には、そんな過ごし方にぴったりのゆったりした時間が流れていた。
私が関東に住んでいるから、京都のことになると門外漢……というのはある。
和のテイストをたっぷり感じるロビー、シンプルな作りの部屋。朝食のページのトップを飾るのは「だし茶漬け」。ブッフェ(ビュッフェ)形式で楽しめる、これまた落ち着いた味の和風の朝食。もちろん洋食も用意されている。
大浴場はこぢんまりとしており「公衆浴場」のようだが、窓の向こうに作られた庭園を見ながらひっそり寛げる。
三条は、いわゆる「京都駅」から遠からず近すぎずの見事な位置にあり、アクセスの良さと同時に静謐も保っている。
わからん、京都市内の町ってそもそもそうなのかも。
三井ガーデンホテル汐留イタリア街
イタリア街は、イタリアのような広場中心の街づくりが行われた一角で、現代の高層ビルが立ち並ぶ最中にあって独特の空気を醸し出している。
三井ガーデンホテル汐留イタリア街は、イタリアの古き良き街並みとその文化に、意匠の大部分を捧げたホテルだ。室内にはイタリア出身の数学者・レオナルド・フィボナッチが発見した黄金比がデザインされている。また、共用部は黒いタイルの上にゴールドのセリフ体フォントが光る重厚な作りである。エレベーターホールにはイタリア都市を空から見下ろした地図がデザインされている。もちろん大浴場もある。
ホテルのロビーを一歩出ると、そこには石畳のイタリア街が並び、建物の角にはカフェへの入り口が開けている。このホテルに宿泊すれば、まるでイタリアで過ごしているかのような体験が可能である。
三井ガーデンホテル上野
三井ガーデンホテル上野は、上野公園周辺の博物館や美術館がテーマとなっている。
……が、実態は圧倒的パンダ。パンダルームでは、アメニティ、内装、手土産にいたるまでパンダがデザインされている。なんでや、中国から借りてるだけなのに。
ホテル内は、木々のざわめきを感じる妖精たちによって飾られている。水色から緑色、そして穏やかなブラウンがベースとなっていて、総じて森の中で過ごすような柔らかな雰囲気を感じられる。
パンダによる一点突破のため、全体的に作りの窮屈さが目立つ。
私が宿泊したルームは清潔だったが、三井ガーデンホテルズの他の部屋は基本的に“すごく清潔”だったので、若干の不安を覚える。大浴場はないので、否が応でも各部屋備え付けのお風呂を使うことになる。大浴場があるホテルの場合、シャワーカーテンやタオルの取り扱い、壁に腕をぶつけないか……などの心配ごとが減って大変よろしい。何より、広々としたお風呂は日頃のストレスにも旅の疲れにも効果覿面なのである。なぜないのか理解できない。なぜだ。なぜなんだ……。
三井ガーデンホテル京橋もそうだが、駅前に立地優先で建てた狭苦しいホテルはとにかくコンパクトで必要最小限。一方で、三井ガーデンホテルプラナ東京ベイをはじめとした大型の施設では、ホテルステイそれ自体が体験として成立するよう、広々とした設計になっている。やっぱ東京は狭いんだなあ。
三井ガーデンホテル豊洲プレミア
圧倒的に良い。
ここまで宿泊してきた三井ガーデンホテルズとは一線を画する「プレミア」の名を冠したホテルである。2022年10月、「豊洲ベイサイドクロス」より改名して、「プレミア」になった。
水の滴る地下階からエレベーターで移動すると、天空をイメージしたロビーから都が一望できる。各階は海と空をモチーフにしたデザインが見られ、見事に演出されている。波のよって返す様子が廊下のカーペットにも描かれており、硝子細工が水滴のように輝いている。
大浴場は天井のひらけた外湯が併設されており、外の空気を感じながら心ゆくまで楽しめる。BGMもついており、神聖な沐浴をしている気分。
そう、三井ガーデンホテルズでは非常に珍しいBGMが流れるタイプだ。実は三井ガーデンホテルプラナ東京ベイでも、日本語吹替版のディズニーソングが流れている。豊洲プレミアの場合、大浴場だけでなく廊下、エレベーターでも、アクアリウムのようなひんやりとしたマリンバの音楽で心を落ち着かせることができる。
朝食会場はロビーと同じ階にあり、動き始める東京の街を空から眺めながら、ハーフブッフェを楽しむことができる。和食か洋食をメインに据え、「もう片方も勿論ご用意!」と具体的なことを言わず茶を濁すことの多い三井ガーデンホテルズの朝食だが、ここでは魚介類を中心に据えて豊洲市場のある街を感じさせる。
ところで旧名称の「豊洲ベイサイドクロス」とは、「豊洲ベイサイドクロスタワー」という商業施設の名称である。この施設の地下階がホテルの入り口になっており、33階から最上階の36階がロビーと客室を兼ねているのだ。したがって、馴染みの食事を「豊洲ベイサイドクロスタワー」で購入した後、持ち帰ってホテルの室内で楽しめる。
三井ガーデンホテルプラナ東京ベイの場合、ホテル内で軽食や必需品を購入しようとすると、ナチュラルローソンというコンビニエンスストアが一択である。バスで15分かけて東京ディズニーリゾートの商業施設「イクスピアリ」に行けば、好きな食事を楽しめるが……やはり、豊洲プレミアの利便性には敵わないのではなかろうか。
総じて、ホテルステイの楽しさを存分に味わえる作りになっていると言えるだろう。
圧倒的に良い。
ホテルズを見る、ホテルを見る
さて、ここまで長々と語ってきた三井ガーデンホテルズ。これらの特徴を比較してみよう。
例えば、「プラナ東京ベイ」と「京橋」にはどのような違いがあるのか。大浴場の有無、部屋の大きさ、客層、立地、扱っているテーマ、リゾートホテルとしての機能があるか否かなど様々である。
「汐留イタリア街」は……と比較していってもよいのだが、これではキリがない。
ホテルを比較する際に参考になる「評価軸」はないものだろうか?
三井ガーデンホテルズのホームページで右上のメニューを開くと、各ページへのリンクが現れる。これを使ってみよう。
先ず、一番上には「コンセプト」だ。これはホテル全体のコンセプトであって、”Stay in the Garden"「これからの豊かさと潤いを「ガーデン」という想いに込めて。」とある。
この“GARDEN”は、ホテルが重要視する複数のテーマの頭文字になっているのだが……。この話はまた今度。今回はあくまで、個別の各ホテル同士の差異を考えたいのだった。
それ以降を見てみると、三井ガーデンホテルズは以下の要素を立項している。
先ず、「ホテル一覧」からは、各ホテルに宛て書きされた場面設定を見られる。
これは、カードゲームのフレーバーテキストのようなものである。フレーバーテキストとは、カードゲームの各カードに書かれているゲームルール〈ではない部分〉のことだ。カードゲームでは、カードに描かれたキャラクターの背景、舞台の説明、道具の設定などが書かれることが多い。三井ガーデンホテルズは、各ホテルを訪れることで得られる体験やシチュエーションをここに書いているのだ。
別の言い方をすればこれは「マンションポエム」の類だ。マンションポエムとは、大山顕氏が命名した、マンション広告のキャッチコピーのこと。「人生に、南麻布という贈り物。」(三井不動産レジデンシャル「パークホームズ南麻布ザレジデンス」)など、大振りでドラマチックな書き方をされることが多い。
京橋は「東京駅からはじめる一日 粋な江戸文化を昇華したインテリアに思わず笑みがこぼれる」。上野は「上野の森でアートに触れ、アメ横で人情に出逢う アクセスを活かして東京を遊び尽くす」。三井ガーデンホテルプラナ東京ベイは「終わらない夢の続きを、大切なひととご一緒に」だ。流石のプラナ東京ベイ、王者の風格である。
次の「朝食」は「楽しみになる朝食」だ。
各ホテルはレストランを併設し、特別で気合の入った朝食を用意している。
ここにも朝食の正しく「フレーバーテキスト」がある。プラナ東京ベイは「キッズコーナーにこども達も大喜び」な「ファミリーで楽しむモーニングビュッフェ」なのだそうだ。豊洲プレミアは「豊洲市場のごちそう素材で仕上げる 選べるメインディッシュ+ハーフビュッフェ」である。京都三条では「おばんざいビュッフェではじまる 京の朝の幸せ」をフィーチャーしている。
プラナ東京ベイと豊洲プレミアの朝食ページを比較する。先に述べたように、プラナ東京ベイでは「ロコモコ丼」「ハワイアンバーガー」「アサイーボール」「焼き立てパンケーキ」「ハニートースト」「パンプディング」をアピールポイントに挙げている。このハニートーストとパンプディングがめっちゃ美味しいので、これを食べるために一泊してほしいくらいである。メニューは全体的に、南の島を想起させるハワイアンフードや、東京ディズニーリゾートと近しい創作スイーツに溢れていると言えるだろう。キッズコーナーも設けられており、小学生前後の子どもが自分で好きな食べ物を選んで親にねだる光景が目に浮かんでくる。ディズニーランドなら、小学生未満の子どもであってもミュージカルシアターやコース料理の高級レストランを楽しめる。ディズニーパークが持つ教育的意義を、図らずやプラナ東京ベイも共有していたのだ。
さて、プラナ東京ベイで初めてのブッフェを経験した子どもは、やがて成長して大人になり、恋人や新しい家族と共に豊洲プレミアを訪れるだろう。このホテルで提供されている朝食は、ブッフェスタイルの食事にメインディッシュ一皿をつけられる、ハーフブッフェ(ビュッフェ)スタイルである。「選べるメインディッシュ3種」は「本日のお魚のアクアパッツァ」「サフランのフラグランツァ」そして静岡県産しらすに彩られた「窯焼きpizzaピザ・ペントハウス」である。これらの後に、こだわりの強い卵料理やイタリアンフードが続いている。
「大浴場」は「心と身体を癒す大浴場」である。このページには、大浴場を併設するホテルが一覧で表示されている。
京都三条の大浴場はその見出しに「京の風情とひとつになる庭園浴場」とある。一方、豊洲プレミアでは「地上約165m天空の湯で、都心の空を旅する」という。また、あまり細かく記載されてはいないが、汐留イタリア街の大浴場が落ち着いた雰囲気で統一されており、プラナ東京ベイのものが東京ディズニーリゾートでの疲れを癒すのに一役買っていることは言うまでもないだろう。
辛うじてお気づきの方もいらっしゃるだろうが……大浴場があるか否かは私のようなゲストにとって大きな宿泊理由になる。
「客室」と「アート&デザイン」は、同じ距離にある。「地域性あふれた心安らぐ客室」と「好奇心を満たすアート&デザイン」は、それぞれ私的空間と公共空間において、そのホテルが位置する地域の歴史や文化を象徴しているからだ。
先に触れた通り、京橋では「粋な江戸文化」をフィーチャーしたデザインを、汐留イタリア街では黄金比を、上野ではパンダ(!!!)を客室デザインとして取り込んでいる。そして、それぞれのホテルは共用部の内装にもこのテーマを持ち込んでいるのである。
他にも、豊洲プレミアは地下1階のテーマを海中、36階を天空と定め、エレベータを使用して空高くへ昇り、雲や結晶をイメージした客室の中で寛ぐというストーリーが描かれている。プラナ東京ベイには東京ディズニーリゾートのイメージがそのまま引き継がれている。「終わらない夢の続きを、大切なひととご一緒に」、の世界である。
「眺望」は「旅の記憶を彩る眺望」である……が、実際のところどうだろうなと思っている。
もちろん、オーシャンビューの大浴場を併設しているプラナ東京ベイや、東京23区を36階から一望できる豊洲プレミアなど、眺望を活かしたホテルがあることは事実である。しかし、果たして京橋や上野に泊まって同じことが言えるかな?
終わりなき旅
こうしてそれぞれの項目を比較していくと、三井ガーデンホテルズの各ホテルは各々が異なったホテルでありながら、実は複数のパラメータの操作でしかないことに気がつくだろう。
このことにより、私の頭の中に──読者諸氏の中にも──三井ガーデンホテルズのマップが完成したはずなのである。
上のマッピングは、ウェブサイトの記載と筆者自身の宿泊経験をもとに作成したものだ。“Price”の軸はホテルの価格帯を示している。“Experience”は、そのホテルが寝泊まり以外の「おたのしみ要素」をどのくらい含んでいるか強引に推し量ったものである。
各ホテルの中で最も安価なのは京都三条(15,930円)であった。「土地柄をデザインにうまく取り込んでいる」「大浴場がある」などの点で汐留イタリア街は同じラインである。ただし、京都三条と比較すると若干値を張り、19,600円となっている。
ここから先は20,000円台の領域である。上野は最高値の31,350円であったが、これはアクセスの良さからくるものだろう。パンダルームが確約されるプランでは35,810円となる。嘘やん?!
京橋は25,650円。こちらも立地がよくリッチに振り切っているが、大浴場や目立った眺望の良さもなく、「楽しみになる朝食」を逃すとホテルステイを楽しむ施設というよりも宿泊施設という趣が強くなる。
プラナ東京ベイと豊洲プレミアはその立地を活かした多様な体験を用意している。具体的には眺望と大浴場、平均的に広々とした客室がそれである。また、プラナ東京ベイは東京ディズニーリゾート・パートナーホテルとして無料シャトルバスを用意しており、うまく相互に補完し合っている。それにもかかわらず、プラナ東京ベイは22,040円、豊洲プレミアは28,900円という価格帯である。
こうしたマップが完成することで、何が変わっていくのか。
我々は、次に三井ガーデンホテルズを訪れたとき、これまでに訪れた数々のホテルからなるマップの中に位置付けることが可能だ。
例えば、まだ話題に出ていない「三井ガーデンホテル日本橋プレミア」はどうだろうか?
まず、「楽しみになる朝食」であるが、旅館業を営む「浅田」料亭の日本橋店が、このホテルのレストランを兼ねている。レストランは大きな窓がついた小部屋に僅か数席が設置されており、落ち着いて食事を楽しめる(私は閉店間際に行ったので落ち着いてなかったが)。「旅の朝をあでやかに彩る、加賀伝統の味」がテーマであり、加賀野菜を使用した20種の和惣菜、出汁巻き卵、そして温製料理の小箱がアピールポイントとなっている。
これは京都三条で提供している「からだも心もととのう、京の朝ごはん」に近しいものだが、こちらはお茶漬けが主力となっていた。豊洲プレミアでは、魚介を活かしたメインディッシュにブッフェを組み合わせたハーフブッフェ(ビュッフェ)を提供していた。しかし日本橋プレミアでは、滋味あふれる小鉢のバリエーションがブッフェというセルフサービス形式の食事の楽しさを更に加速させる。プレミアの称号を得たどちらのホテルも豊かな体験を用意しているが、軸は全く異なるものである。
「浅田屋」の日本橋店舗として、三井ガーデンホテルの他のレストランとは差別化された独自色の強いラインナップになっていた。
ホテルの公式ウェブサイトを見ると「かつて水運で栄えた日本橋を象徴する「水」」がテーマであると書いてある。しかし、実際のところ、そのテーマは「シンプリシティ」=質素さ、素朴さにあると感じた。
室内やロビーをはじめ、ホテル内は黒色や灰色の無地が占めており、アクセントカラーとしてささやかに加えられた鮮やかな色が目立っていた。建材の質感や日本古来の模様が映えるように造られており、派手なデザインは抑えられていた。
また、豊洲プレミアが綿密なテーマとストーリーを設計して大浴場までデザインしたように、日本橋プレミアの大浴場も個性が際立っていた。これは他のホテルに見られない傾向であって、例えばプラナ東京ベイを見てみると、テーマである「五感を刺激するアーバンリゾート」が大浴場にまで活かされているとは言えなかった。汐留イタリア街の大浴場も、落ち着いた色合いで揃えるところに留まっている。日本橋プレミアの大浴場はその先にあって、大浴場は切妻屋根の天井に木々の香りが漂っていた。山小屋の露天風呂を訪れたような感覚を覚えるのだ。
ディズニーランドのアトラクションでは、注目するべき見せ物の反対側に非常口や消化器を設置して、後者を隠す事が多い。しかし、日本橋プレミアのようにシンプリシティを突き詰めていくと、ゲストの視点は散逸してしまう。したがってホテルは全ての箇所に気を配る必要があり、その結果としてホテルは圧倒的に清潔に保たれていた(しかしそれ故の落ち着かなさもあった)。
ホテルの向かいには同じく三井不動産グループが経営する「コレド室町」がある。また、いわゆる丸の内エリア、銀座、秋葉原といったエリアも近く、気軽にアクセスできる。三井ガーデンホテル京橋もびっくりの利便性である。
ホテルの面する道路は広く、またロビーのベランダは草木に彩られていて、窓の外も開放感がある。正に”Stay in the Garden"の感覚を起こさせる。
日本橋プレミアの価格帯は25,270円と、だいたい京橋に並ぶ。JR東京駅に近い京橋には敵わないけれどたしかに立地はいいし、体験という意味では、大浴場にもレストランにもひと工夫あって、ロビーの居心地も良い。
先ほどのマップに加えるならば、豊洲プレミアとプラナ東京ベイの中間あたりだろうか。
「趣味」とは何か
ここまで、三井ガーデンホテルズの各ホテルを、さまざまな評価軸と宿泊経験をもとに比較してきた。また、これらをもとにしてマップを作成し、その中に筆者が最も最近宿泊した「三井ガーデンホテル日本橋プレミア」を書き入れた。
このように、複数回同じブランド(コンテンツでも、ジャンルでもよい)の異なる商品に触れる中で我々は、頭の中に自分なりのマップを作ることができる。そして、こうしたマップが存在すれば、このマップの上に新たにピンを刺すという方法で新たな商品を受け入れることができるのである。
そして、私はこれこそ、何かを「趣味」としてモノにするということだと思う。
つまり、「趣味」であるとは「頭の中にマップを持っている」ということなのである。
冒頭の問いに戻ってみよう。「『映画が趣味です』というとき、映画をどれくらい観ていたら趣味なのか? 『たまに映画見るよ』くらいで『映画が趣味』って言っちゃっていいのか、それとも毎日1本見ていないと『映画が趣味』とは言えないのか?」
結論、ある映画を一本見た際に、「この映画はあの映画と比べてこうだ」とか「この映画はあの映画と近い、共通点がある」とか言えるようになること(そしてその行為を楽しめること)が、多くの人の思い描いている「趣味」の実態なのではないかと思う。
ここで注意するべき点は幾つかある。
一つは、これはあくまで「評論行為」ではないということだ。評論では物事の善悪・優劣について論じることを目的としている(『精選版 日本国語大辞典』)。しかし内実、趣味としてのマッピング行為は「好きなものを楽しむ際に、必要に応じて好きなものの中から選び出せる」くらいの意味合いでしかないと思われる。
丁度、お腹が空いているときはサラダよりも炭水化物を食べたくなるのと同じようなものだ。「今日は元気だから気合いを入れてホラー映画が観られる」とか「食事をしながら気軽にポップコーンムービーが観られる」と気づいて、適切な映画をセレクトできる能力があることを指している。
「いいオタク」であることは、「いい評論家」であることよりもむしろ、「いいソムリエ」であることに近いと思う。作品を吟味し、優劣をつけることなく、シチュエーションに合わせて最適な作品を選択できる能力のことである。むろん、「いいオタク」であることと「いいソムリエ」であることは違う。オタクは自らのために選び、ソムリエはお客のために選ぶからだ。無論、両立することはあるのだけれど。
もう一つは、マッピング行為を通じて我々は、マップに与えられる軸を増やし、統合し、あるいは分解していくことが求められる。これが趣味の深化につながる。
先ほど作成した三井ガーデンホテルズの表だが、それぞれの軸には色々な値が入りうる。「価格」と「テーマ」で分ける場合、汐留イタリア街、上野、豊洲プレミアといったホテルが総合演出に優れており、他方でプラナ東京ベイや京橋、京都三条はあまり「アート&デザイン」の主張が強くない。「ローカル性」で分けた場合には、同じ「テーマ」の軸を扱っていても分類が異なる。プラナ東京ベイや汐留イタリア街、上野などのホテルは、その土地に存在する施設や建造物をモチーフに密接に取り込んでいる。一方で京橋や日本橋プレミアは、比較的平易なテーマを扱っているように見える。
私の場合、三井ガーデンホテルズの中でホテルを選ぶ際に基準にすることは、一に「大浴場があるか否か」、二に「立地がどうか」である。大浴場があることを前提に、行き先に合わせて適切な立地を選ぶ。ホテルはその地域の文化と多少なりとも関わったデザインになっているから、周囲に存在する施設との噛み合わせも考える。
こうして、比較検討できる軸を増やしていくことで我々は自身の中に「趣味のマップ」を作り出すことができるようになる。そして、軸が増えることは即ち好きな対象の「見る目を養う」ことに直結しているのだ。
最後に、こうした意味合いでの「趣味」を成立させるためには……さまざまな好きの対象に触れる必要があるということだ。
プラナ東京ベイだけに宿泊していては、三井ガーデンホテルズの幅広いブランド戦略に気が付かなかった。ディズニー映画だけを観ていては、ハリウッドの作品の多様性や刺激的な演出、見慣れた役者の意外な一面に気が付かなかった。「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」「プーさんのハニーハント」「モンスターズ・インク“ライド&ゴーシーク!”」と、キャラクター名を冠したアトラクションだけを見ていた私が初めて「海底2万マイル」に乗船したとき、私の中で「東京ディズニーリゾート」の定義が根底から覆ってしまったのである。
行く末を見守り、見守られる
ここまで、三井ガーデンホテルズを通じて「趣味とは何か」に迫ってきた。
そして、趣味とは「頭の中にマップを作ること」であり、あくまでマップを作ることは好きを追い求める過程に過ぎないこと、そしてこの軸を増やすことが趣味の深化につながる可能性を見てきた。
冒頭に紹介した『若者の間に「エセオタク」が激増しているワケ』の中では、『「時間や労力をかけずにオタクぶれる」こと。これこそが、エセオタクにとって最も重要なことである』と言われている。「コスパ」=コストパフォーマンスおよび「タイパ」=タイムパフォーマンスの世界に生きる現代人は往々にして、コストと時間を費やして「趣味」を「深化」することを避けてしまう(敢えて括弧付きにする)。彼らにとって、オタクになることは過程でなく目的だからだ。それは彼らの自由だが……私は個人的に、勿体ないなあと思う。
また、オタクの方はオタクの方で問題がある。
2023年、東京ディズニーランドは40周年を迎えた。40年の歴史があるディズニーパークには、さまざまな世代のファンがいて、それぞれ自身が一番通っていた時期を「全盛期」と見做している。特にディズニーパークには学生のファンも多い。
過去のファンは往々にして、現在のディズニーパークを批判しがちである。黄金期を過ぎた錆だらけの遊園地だと思っている。
正直、現在のディズニーパークが過去に比べて“手を抜いている”ことは明らかだ。陶器の皿が紙皿になり、無料でショーを鑑賞できたエリアが有料になり、抽選になった。ショーの出演者数が激減し、パレードの山車やショーのバージ(船)は装飾が減った。アトラクションの設計は窮屈になり、施設の位置する舞台にそぐわないものも増えた。ウォルト・ディズニーが自ら手がけたアトラクションをリニューアルし、いい加減にキャラクターを追加した。
もちろん、その言葉はご尤もなのである。しかし、新たに登場した施設をマップの中に位置付け、それがどんな外れ値であっても、これらを基準にまたマップを再編しなければならないと思う。これを乗り越えた先に、更なる「好き」があると信じるほかないからである。東京ディズニーシーに2011年から2016年の間にオープンした「タートル・トーク」「トイ・ストーリー・マニア!」「ニモ&フレンズ・シーライダー」はファンから受け入れられなかった。しかし、2019年の「ソアリン:ファンタスティック・フライト」は世界中のディズニーファンが羨む傑作と評されている。
我々にできることといえばせいぜい、行く末を見守ることだけなのである。
今回の記事は何も、あなたの「好き」を「趣味ではない」と断罪するためのものではない。寧ろ、あなたの「好き」が新たな世界への扉を開くという、そういう提案なのである。
冒頭の話に戻ろう。東京ディズニーリゾートを通じて私は、世界中の文化や学問に触れ、さまざまな書籍やその著者に触れてきた。そのおかげで、毎日見る世界は大きく変わってきた。電車に乗って大学に行くまでの道中、私はさまざまな知識に支えられて新たな発見を繰り返している。
東京ディズニーシーの「ロストリバーデルタ」は1930年代の中央アメリカが舞台である。このエリアのアトラクションやエリアの物語に触れるうち、私は、メキシコ地域のマリアッチはもちろん、ペルーの民族音楽ややカリブ海に浮かぶキューバの島で発祥したソン、アルゼンチンタンゴなどに出会うことになった。「タワー・オブ・テラー」で引用されているのは、アルフレッド・ヒッチコックが手がけたサスペンス映画や、彼の作品から派生してイタリアで流行したジャッロ映画などである。
ディズニーの物語の中に多数存在する組織、企業、そして学会からインスピレーションを受け「ロゴマーク」と「ブランド」の世界に足を踏み入れた私は、赤瀬達三氏の著作『駅をデザインする』(ちくま新書)と出会った。彼は日本国内の鉄道に初めてサインシステムを導入し、地下鉄を色と円形で表すことを決めた人物である。駅の出口表示がJRでも都営地下鉄でも東京メトロでも黄色の背景に黒字で描かれているのは、彼の設計したサインシステムが標準化されたからである。
この記事を書き上げることができたのも元はといえば、東京ディズニーリゾートを出発して「三井ガーデンホテルズ」のブランドに辿り着いたからである。
私は、そして我々は、自らの「趣味」に見守られていると言えよう。
「趣味」が、あなたを今いる場所から連れ出してくれる。そして同時に、元いた場所にも帰してくれる──まるで地図のように。
この記事を通じてそのことが伝われば、文章を書くという私の「趣味」も報われるというものである。