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アーティスト100人と小学4年生100人が画用紙1枚に未来を描く

この1年間で一番の授業だったと思う。
100人の小学4年生が100人のアーティストとペアを作り、自分で作った人生設計を基にしながら「未来の自分に向けて」というテーマで自分の想いをアーティストの力も借りながら絵で表現した。

子ども達はこの1年間で総合的な学習の時間を中心に1000人の大人と出会い、多くの人との出会いからたくさんのことを吸収して、本当に素晴らしい人生設計を作り切った。


しかし、自分の人生設計は自分で評価することはできない。だからこそ、自分ではないと誰かに伝えることや、自分の人生設計を基に絵にする過程で、大人が自分の人生をどう思っているか感じ、そのことで自分の人生設計の価値を感じ、自己肯定感が高まっていって欲しい。また、アートという点数化されない表現方法の中で、同じ画用紙1枚に人生設計を表現することで、言語能力による差を感じることなく、人生は100種100通りあることを感じて欲しい。そんな想いでこの授業は形になった。


正直、本当にアーティストが100人も集まるのか不安で仕方なくて、この二週間は十分に眠ることさえ出来なかった。寝ても覚めても本当に実現できるのか、できなかったら子ども達になんて言おうか。そんなことばかり考えていた。

だからこそ、朝の家庭科室にアーティストが100人以上集まってくれた時には、胸の中が感謝の気持ちで一杯になった。アートに何のゆかりもない僕が、この企画を実現できたのはたくさんの友と同志が力を貸してくれたからだ。本当にありがとう。



家庭科室ではまず打ち合わせが行われた。事前の打ち合わせでは、各クラスの担任から事前にクラスの特性やマッチング方法について共有させてもらった。これまで全体の打ち合わせは僕だけですることが多かったが、これまでの経験を踏まえて、各クラスごとに伝えておきたいが違うことやマッチングに際して必要な配慮等を担任が大人と事前に打ち合わせがしたいという点からこのように変えた。また、これまで以上に大人の方にマインドセットしてもらうための説明を丁寧にした。一人の大人として子どもの前に立つということはどう意味があるのか、僅かな時間の中で子どもと100%向き合うために大人と対話を優先しないこと、スマートフォンと距離をおいてほしいということ、子ども達が憧れる存在としていて欲しいことを伝えた。

たぶん、この時間が重要だったんだと思う。ただのお手伝いの人というマインドから、子どもの未来を共に作る存在としてのマインドに変わっていったことで、参加した大人の熱量も変わっていった。

そして授業が始まると、これまでの歴史を感じた。単発ではなく、この1年間の積み重ねがあったからこそ見えた景色がそこにはあった。

まず、100人の大人と子ども達をそれぞれのクラスでマッチングした。うちのクラスでは、初めて会う大人への緊張度によって対応を少し変えてている。大人と1対1があまり得意では子もいて、どうしても体の性別が同性の方が緊張しない子たちは体の性別が同じ人となるようにした。そこからお互いに自己紹介をした。ここで、まず子ども達の成長を感じる。1000人の大人と出会ってきたからこそ、初対面の大人にも緊張しないで関われるだけの社会性があった。自分から話しかける子も増え、100組の子たちが自己紹介を担任のアシスト無しにやり切った時点で、子どもの成長に泣きそうになった。

そして、そこから子ども達が自分の人生設計を伝える時間になった。大人の人達が素直に子どもの人生設計に驚いていたり、感動していたり、その大人を見て、自分の人生設計が誇らしく思えている様子も見られた。間違いなくそこには、子ども達が1000人の大人と出会い、真剣に悩み自分たちで作った人生設計への熱量があった。



そこから体育館に移動して、自分の人生設計を基に、絵の作成に取り掛かった。テーマは「未来の自分に向けて」これから人生設計の未来を歩んでいく時に子ども達を時に勇気づけたり、悩んでいるときに今の気持ちを思い出したり、イメージをはっきりさせたりするための1枚だ。大人との出会いの中で楽しみながら思ったものを作るのがゴールではない。正解も不正解もない中で、二人で思ってもみないものができる楽しさを味わう時間だ。これまでの人生設計作りはどうしても言語能力が高い子が活躍しやすかった。だからこそ、言語能力ではないアートの力で、子供たちの新しい一面が発揮されるといいなと思っていた。



わずか1時間足らずの間に、100枚の絵が出来上がった。子ども達が1000人の大人と出会い、真剣に悩み自分たちで作った人生設計があったからこそ絵という形にできるだけの想いがあった。アーティストの画材を借り、やり方を教えてもらいながら自分の想いを形にする子もいれば、自分のやりたいやり方で進めていき、アーティストにアドバイスをもらったり手伝ってもらったりしながら作成する子もいた。2学期にプロジェクトで自分の半径50㎝の人を幸せにするために動いてきたからこそ、自分で判断して大人も巻き込んで絵を完成させる行動力があった。



とはいえ、いくら子どもに力があると言っても限界がある。今回の結果に繋がったのは大人の寄り添う力とアートのもつ力の2つがあってこそだったと思う。アートのもつ力は本当に大きい。手を動かしながら自然と対話が生まれ、大人と子どもの関係性が近しいものに変わっていくのが見れた。また、作成していく中で、自分の新しい一面に気付いた子もいて、これまでの言語によるアプローチをやり切ってきたからこそ、まだそんな一面があるのかと僕たち教員も驚かされた。言語に縛られる学びはどこまでいっても正解があるように思える。今回の学びの中でもそういった様子が見られなかった訳ではない。友達の描いたものを見て、それが正解に見えてしまった子もいた。しかし、そんな時にアーティストがそばにいることで、描きたいものは何か二人で考えられたことが大きい。価値観が多種多様なアーティストとのアート作成になったからこそ、できるあがるものが本当にばらばらで、こんなにもフラットに作ることができるのかと学ばせてもらった。



本当に生き生きと対話し、活動している子ども達を見ることができて、嬉しい気持ちになったし、あの表情が見れただけでやってよかったと思えた笑顔はたくさんあった。

そこから大人と子どもで教室でご飯を食べた。食を通して繋がる部分があることも知っていたからこそ、どうして同じ空間で食べることに拘った。子供の給食を見る大人が「いいな〜」って目で訴えてくるのが面白かった。

昼休みは体育館も使って体を大人も子供も動かした。僕はこの瞬間が1番好きだったりする。遊びを通して大人が無邪気になるのも、子供が大人と真剣にぶつかるのも、どっちも見ることができて好きだ。たぶんこれが日常的になったら大人と子供が関わる機会を無理に作る必要なんて無くなるんだろうなって思っていた。

そして、5時間目になり各クラスで自分たちが作った絵を紹介し合って褒め合った。非言語的な活動で見えてきたことを立ち止まって言語的な活動にすることで、どうしてこの活動をしたのか自分の中で意味付けをしっかりして欲しかったのだ。

そして、絵を互いに紹介した後は100枚の絵を自由に見る時間にした。100枚の人生の絵が広がっていて、本当に比べようがなかった。僕たちが言葉でいくら伝えても響かない人生は100種100通りあることを体感することができていた。本当にあの光景が見たくてこの授業に挑戦したとはいえ、いざ目にしてみると不思議な感情が溢れかえっていた。

最後にペアを組んだ大人から子ども達に向けて熱いメッセージを伝えてもらった。この瞬間はいつ見ても熱くてたまらなく好きだ。子どもに真剣に向き合って、熱い想いを伝えてる大人も、それを真剣に受け取ろうとする子どもも素敵だ。

本当に教員人生でも指折りに素敵な時間だった。

これまでの子ども達の成長がところどころに見れた。子ども達が1000人の大人と出会い、真剣に悩み自分たちで作った人生設計があったからこそ絵という形にできるだけの想いがあった。1000人の大人と出会ってきたからこそ、初対面の大人にも緊張しないで関われるだけの社会性があった。プロジェクトで自分の半径50㎝の人を幸せにするために動いてきたからこそ、自分で判断して大人も巻き込んで絵を完成させる行動力があった。

単発でこの授業をやっても意味がないのだ。この1年間の積み上げがあったからこそできたことだった。

本当に今回この企画に参加してくださった皆さん。そしてこれまでこの実践に関わってくださった皆さん、本当にありがとうございました。

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