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まんまと泳がされちまった!【夜空を泳ぐチョコレートグラミー/町田そのこ】

この本とは何となく縁があったように思います。

初めて見たのはいつのことだったか。
たしかそれは就活で1人遠方を訪れたときのことでした。

あまりにも早く着きすぎて大きな駅の土産物屋やら隣接のショッピングモールやらをうろうろしてもうやることがなくなった先に行き着いた、駅の小さな本屋さん。

そういうところってぱっと買って移動中に読む用にか、文庫本がたくさん売っていました。

その中でこの連作短編集『夜空を泳ぐチョコレートグラミー』を見つけました。表紙の絵と色合いがなんともかわいかったのです。

ただ、そこでは相当惹かれたものの他の本も迷いまくった末に何も買わずにでてきました。

その後面接をすませて、今度はその付近最大級の本屋さんに行き、そこでもあの本を探して、見つけました。

また、そこでも買わず。

その次はもう数ヶ月後、また別のよく行く本屋さんで。
またまたそこでも買わず。

さらに帰省中に行った大きな本屋さんでも手に取るも買わず。

このあたりで買ったのが『ほんとはかわいくないフィンランド』。私のまた本を読み始めるきっっかけになった一冊。

これを機にたががはずれたように本を買い始めると、そこで思い浮かぶのはやはりあの本。

こうしてようやく私は『夜空に浮かぶチョコレートグラミー』を読むことになったのでした。

何度も買うか迷って買わない本というのは今までもいくつかあるけれど、ここまで私の頭から離れてはすぐにしぶとく帰ってくる本はなかなかありません。

これはもう私の負け!降参!うちにいらっしゃい、ということになりました。

これを読み終えて、それぞれの話もよかったけどなんといっても恐れ入ったのはその話の重なり方とかその見せ方の美しいのなんの。

短編集ながらそのそれぞれの話や登場人物がさりげなく重なっています。

こう聞くと別によくありそうなやり方のように思うかもしれません。読んでみないとわからないと行ってしまえばそこまでですが、何とか言葉にしてみますと、匂わせなんです。

その人物があのときのあの人と同じだとか、この町はあそこと同じだとか、匂わせてくるんです。

でも、気付かなくてもいいんです。

気付かなくても話はわかるし充分におもしろい。けれどようやく名前とかが出てき始めるとうわあそういうことか!そことそこがつながるか!と素直に関心してしまいます。

ちなみに私は最後の話を少し日にちを空けて読んでしまったので、つながりに気付きませんでした。

最後についている解説を読んでようやくそのつながりに気付くと1人でぐわあとか言って笑ってしまいました。

私の中の短編集というものの概念を限りなく広げた作品でした。

物語の率直な印象は、息苦しい人ばっかでてくるというのが正直なところですが、身近でない世界をのぞくのが本の楽しみ方の1つですよね。

人の汚いところとか苦しいところとか生きづらさとかそんな話ばかりなのに、それぞれの話をつなげる巧妙なトリックはミステリー小説を読んでいたかのようで。
そのギャップにやられます。

暇な一日はこの一冊とともに過ごしてみるのはいかがでしょうか。

本日もよい一日を!


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