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新しいテーブルと、柚子の砂糖漬け

『灯台守の話』を読んでからというもの後ろ髪引かれる思いで、すこしでも近しい空気感のものを読みたい…と、静かさと海辺の気配を感じる、堀江敏幸さんの『河岸忘日抄』を手にとる。

いつだって憧れていたのは、日々なにかに怒ったり笑ったり泣いたり、人間味のつよい、生きているかんじのする人だ。

抑揚のすくない、凡庸な自分がいやになることも学生の頃は多かった。

でも、堀江さんの本を読むと、自分で自分を肯定せずとも、希望など持たなくとも、ただそこにいて漂うような、そんな生き方もあるよなぁと思うのだった。

この流れのまま、ほんとうは『波止場日記』を読みたかったのだけど、本屋で値段を見てあきらめる。いつか良きタイミングがめぐってくるまで寝かせておこう。

それはそうと、SANBON RADIOを見て、たまらなく『USO』がほしくなる。でも、いやでも、と引っ越しを控えてめずらしく節約思考なので躊躇していて、そんな最中に『河岸忘日抄』の中で出会った文書に、これはやっぱり買うしかないなぁという気を起こされたのだった。

問題は、嘘かまことかという以前に、ひとり語りがかならずしもそのひとの人生を描き得ないという、考えてみればじつにあたりまえの事実のほうにある。一人称で統一された語りは、虚構のなかでのみその真実を維持しうる。なにをどう語ろうと、時間の順序をどう替えようと、それがひとつの流れのなかで息づいていると読み手もしくは聞き手が感じるならば、それは正真正銘の「ほんとう」に、記録や事実とは関係のない語りの地平での「ほんとう」になる。

-堀江敏幸『河岸忘日抄』引用

節約思考などと言ったけれど、なんのことはない、すでに今月大きな買い物をしてしまったからで、そのアンティークダイニングが今日届いた。

古い食卓テーブルをリメイクしてつくられたレトロな雰囲気に一目惚れして、これなら長いこと大事につかうから!とぴー太にお願いしたものだ。うれしい。似合う椅子もはやくほしくて、しばらくはアンティークショップめぐりが日課になりそう。

うれしくてテーブルの上で何かしたくて、この間伊根で買ってきた柚子をつかって、柚子の砂糖漬けを仕込んだ。

あたたかい湯をそそいで飲めば、心地よい冬の夜を過ごせそう。

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