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#価値観

『nyx 第五号』

『nyx 第五号』

〈聖なるもの〉とは何か『nyx第五号』通読.第一特集の聖なるものがお目当て.
〈聖なるもの〉という概念は,神秘的なものや超越的なもの,あるいは言語化不可能なものを,内容を十分に分別することなく投げ入れる「ゴミ箱概念」(p.8)として便利に利用されている節がある.
それに対して〈聖なるもの〉と何か,その可能性と限界について様々な方が議論している.

佐々木雄大氏は〈聖なるもの〉がなぜそのように使われ

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カトリーヌ・マラブー著『新たなる傷つきし者――フロイトから神経学へ、現代の心的外傷を考える』

カトリーヌ・マラブー著『新たなる傷つきし者――フロイトから神経学へ、現代の心的外傷を考える』

<可塑性>というキーワードを展開し,<可傷性>や<不安定性>を提示するジュディス・バトラーとも近いテーマを取り扱っている哲学者カトリーヌ・マラブーの著書.この<可塑性>を取り巻く概念が興味深い.

「新しい傷つきし者」とはまず,「新しい傷つきし者」を彼女は次のように定義している.

(…)さまざまな脳疾患や脳損傷の被害者のことである。頭部の外傷、腫瘍、脳炎、髄膜脳炎等々の神経変性疾患の患者、パーキ

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柳宗悦の「直観」美を見いだす力

柳宗悦の「直観」美を見いだす力

日本民藝館の特別展「柳宗悦の「直観」美を見いだす力」で配布される,柳宗悦が晩年病床で書いた『直観について』というA3両面刷りほどの短い文章が熱い.

直観はものを、「そのままの相」で「そのままに観る」こと

であり,

それ故見ることにも、見られる相手にも囚われず、又自らにすら囚われない自在さに入ってこそ、初めて直観が可能になる。

直観の根のない知識ほど、美に向って力の弱いものはない。かくして直

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國分功一郎著『中動態の世界』

國分功一郎著『中動態の世界』

議論を明確にするために何ごとも二項対立関係に還元しがちな世の中ですが、その只中において中動態の存在を詳らかにする名著です。生きるのが大変だと思う人には一種のカウンセリングみたいになるかもしれません(出版も医学書院です)。

『中動態の世界 意志と責任の考古学』國分功一郎著

ふだん当たり前のように認識している能動―受動という関係性だが(特に英語を学習するときはこれがベースになるといっても過言ではな

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