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想定外のアンケート

 中本の手元には無数の事業開発相談が届く。その中の一つにアンケートの添削がある。今回は読み手が混乱する、また聞き手の元に届いた結果が想定外となってしまうアンケート設計について共有していこうと思う。もちろん、その事業内容は公開できないのでラーメンで説明を加えていこう。

出来ますか?

 まずはこの設問に目を通してみて欲しい。

➀ 家系ラーメンを食べてみたいですか?
Yes / No

② 家系ラーメンを食べに行くことが出来ますか?
Yes / No

③ ②の回答理由をお答えください。
自由記述

混乱其の一

 ②の設問が厄介なのだ。日本語してアンケートが成立していない。「食べに行くことが出来ますか?」と聞かれれば、どう答えていいか人は分からず混乱してしまうのだ。

 例えばダイエット中であれば、「ダイエットが終わった後に食べに行くことが出来る」という回答になるし、学生が手持ち資金が少ない場合、「バイト代が入った暁には食べに行くことが出来る」という回答も想定できる。もしかするとド田舎に住んでいて近くに家系ラーメンがないけれども、新幹線や飛行機で遠出することで「食べに行くことが出来る」という人もいるかもしれない。

「○○することが出来ますか?」という質問は読み手を混乱させるワードの一つと言えるだろう。

理由は?

 次はこの設問に目を通してみて欲しい。

➀ 家系ラーメンを何度食べたことがありますか?
自由記述

② 食べた理由をお答えください。
自由記述

混乱其の二

 またもや②の設問が厄介だ。食べた理由を聞くことに何の意味もない。人によっては「お腹が空いていたから」で終わってしまうだろうし、人によっては「家系のファンだから」で完結してしまう。そもそも「どうして何度も食べたのか?」という意味合いなのか、一度でも食べた理由なのか?という意図も分からない。

 加え、人は何か製品やサービスを消費する「前」と「後」では感情が異なることで有名だ。例えば iPadのスタイリッシュなデザインに惚れて衝動買いをしてしまっていたとしても、それを手にした後では「思考の整理にペンを用いて図式化していこうと思っていたから」「ビジネスの現場でデータ共有が加速すると思われたから」なんて風に、意図も簡単に自分の記憶を書き換えてしまう

「○○した理由は?」という質問は聞き手から誤った回答を引き出す可能性を上げてしまうものと言えるだろう。

代わりに何を?

 最後にこの設問に目を通して欲しい。

➀ 家系ラーメンを家の近くで食べられますか?
Yes/ No

② No とご回答の皆様に質問です。家系ラーメンを食べる代わりに何をされますか?どれぐらいの時間やお金をかけますか?
自由記述

混乱其の三

 またもや②の設問が厄介だ。②の設問の意図は恐らく、家系ラーメンを諦める代わりに、どのような代替行動を起こしているのかを把握したいものだと思われる。例えばトンコツラーメンで我慢しているとか、自宅で作っているとか、その願いを叶えるためにどれだけの努力をしているのかを確認したいに違いない。

 何故こんなことをアンケートで聞いているかというと、諦めきれずに行動を起こしているということは、その課題を解決する製品やサービスを提供すると実際にお金を払って利用する確率が高いと判断できるからだ。

 例えば家系ラーメンを諦めている皆様が、「自宅で五時間かけてスープとチャーシューを作って家系風ラーメンを自作しているんです!予算は2,000円ぐらいです!」と回答したなれば、自作家系ラーメン製作キット、というものを自宅周りに家系がない皆様に通販で売るビジネスにチャンスがあると判断できるというわけだ。

 ただ、この②の設問は聞き方が悪く、恐らくその意図を汲み取れない人が相当に多くなるだろう。「家系ラーメンを食べる代わりに何をされますか?」と聞かれても、「別のご飯を食べてます」といった回答が入り込むことも十分に予想される。

 もしアンケートの設問を書き換えるのであればこんなイメージだ。認識の齟齬が起きないようにきちんと説明を入れていこう。

旧)家系ラーメンを食べる代わりに何をされますか?どれぐらいの時間やお金をかけますか?
自由記述

新➀)家の周りに家系ラーメンがないにも関わらず、どうしても家系ラーメンを食べたい気持ちになった時はどのように対応されていますか?電車や車に乗って家系を食べに行く、自宅で家系風ラーメンを自作をする、といったものから、諦めて我慢する、といったものまで自由にご回答ください。
自由記述

新②)もし諦めていらっしゃらず何からの行動を起こされている場合、そこにかけている平均的な時間や出費を記述いただければ幸いです。
自由記述

分かり易くしよう

改めて注意を

 質問をする側は頭の中にイメージが出来上がっていて、きっとこんな風に答えてくれるだろうなぁ。きっとこんな答えが返ってくるといいなぁと妄想しがちだ。

 けれどもアンケートの読み手は何も知らないのだ。いったいどんな答えを得たいのか、何を答えて欲しいのかをあくまでアンケートの文面のみからしか判断できないのだ。

「これ、何を答えて欲しいんだろう。よくわかんないなぁ…」なんて風に思われてしまっては回答欄はブランクで戻ってきたり、適当なお返事で埋まってしまって使い物にならなくなってしまう。だからこそ聞き方には注意を重ねていこう。

 そしてもし可能であればアンケートは世に出す前に自分たちのチームの中だけでなく、全く関係ない知人友人に目を通して貰ってツッコミどころを探ってもらおう。主観を抜け出し客観的に通用するものを組み上げていこう。

 今回のアンケートに関する記事がアイデアをカタチにする皆様の一助となることを心から願っています。

補足

 他にも色々とアンケート設計の記事を作っているので、気が向いた暁には是非にご参考くださいませ。


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