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【父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話】

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

この本のプロローグのタイトルは「経済学の解説書とは正反対の経済の本」となっている。
経済学の難しい言葉を使わずに、経済について解説してくれる本、と思い読み始めたのだが、意外や意外、その歴史小説とも言えそうなドラマチックな内容に、他の著名人の感想と同じく、夢中になり一気に読んでしまった。

子どもに語りかける口調で経済や文明を語る本書は、読み終えた後にたしかに世の中の見方が変わるに違いない。それほどまでに、現代の急所を打ち抜き、本質をついてくる内容となっている。


〜「経済=経済学」ではない〜

さて、僕自身、経済に興味を持ってからというもの、経済学の本や経済の専門書を読んだりしてきた。しかしながら、経済学には様々なモデルや数式が多々出てくるのだが、それに対して「経済とは人が動かしているものではないのか?こんなにもうまく数式やモデルに当てはまるのか?」と、経済学の中に人間の血や肉が宿っていない事にしばしば疑問を感じていた。

そんな中で、著者は経済学者でありながら、「経済を経済学者に任せていてはいけない」という主張を持っている。
テレビやメディアで話す経済の専門家のコメントは全くの見当外れだ、と著者は述べている。

市場における価格の決定や、金融の仕組みを全てロジカルに表現しているのが経済学だが、それがそのまま現実の経済に当てはまるわけではない。著者は"占い師"と、どう違うのか?とまで述べている。

この著者の意見に僕は賛同したい。経済学は現実の経済を語る上では、役には立たないのだろう。


〜「利益」と「借金」、「金融」の成り立ち〜

非常に面白かったのが第3章と第4章である。元々封建時代には、土地を持った領主が農奴に土地を耕すことを強いて、作物を作らせた(生産)。そして、領主が年貢を収めさせ(分配)、余った作物を売ってカネを稼ぎ、支払いやカネの貸し借りをした(債権・債務)。つまり、生産→分配→債権・債務の流れで経済は機能していた。

しかし、領主が農奴に土地を耕させるよりも、羊に置き換えた方がカネになる事に気づき、農奴を土地から追いやり羊に置き換えた。農奴は領主から土地を借り、羊毛や作物を生産し、それらを売ってカネにした。言い換えると、起業家が事前に作物の種を買い、領主に地代を払う。そのためには借金をしなければならない。そのカネを借りる先は領主や地元の高利貸しである。

つまり、土地と労働が商品になった事で、生産の前の分配が発生するようになった。現代での起業のために銀行から融資を受ける構図に似ている。つまりは「借金」と「金融」の仕組みの起源とも言えるだろう。これが生産とカネの流れが逆転した経緯として書かれている。
もちろん、第1章からの流れで見事な展開を見せるこの歴史の解説はここに書くだけでは足りない。
ぜひ、この詩的で痛快な「金融」と「借金」の発生のロジックを本書で味わっていただきたい。


〜世界の見方が変わる〜

この本はまず「なぜ格差が生まれるのか?」という疑問から始まる。
歴史の中で賢くない人が犠牲になったから。
世の中に優れた人たちがいて他の人たちよりも力を持っているから。
当然そんな回答では誰も納得しない。

著者は、歴史の中を駆け抜けて、経済の仕組みや成り立ちを語り、次々と思い込みを覆してくる。

そして、最後にもう一度「なぜ格差が生まれるのか?」という疑問にまた戻ってくる。

少なくとも、この本を読み終える前と後では同じ疑問に対して違う回答を持つに違いない。
しかし、その回答が正しいかどうかはわからない。経済は、人間の些細な行為や思惑で右にも左にも変化していくのだ。

あの時あの政治家が違う選択をしていたら、世界の経済はどうなっていたのか?
そんな事を考えても意味がない。

現状に何か怒りを感じるのであれば、その怒りを胸にひめ、必要な時に行動する。
経済とは、経済学者だけのものではない。ましてや、どこかの誰かの意思で左右されるべきものでもない。むしろ、自分たちの生活のために誰もが知り、考えるべきものなのだ。

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