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【アマニタ・パンセリナ】危険なドラッグの世界を軽い気持ちでのぞいてみる

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜唯一無二のドラッグエッセイ〜

中島らもさんの著作はいくつか読んでいるが、この「アマニタ・パンセリナ」は初めて読んだ時の衝撃が今でも忘れられない。
今回十数年ぶりに再読したのだが、やっぱり面白い。たぶん、今の世の中じゃこんなとんでもない本は発売どころか、企画すら通らないだろうと思う。

本書は「ドラッグ」に関するエッセイである。
睡眠薬、シャブ、阿片、ハシシュ、大麻、LSD、アルコール、などなど。
もちろん、僕はドラッグに手を出したことはない。しかし、なぜドラッグに惹かれる人が絶たないのか、そこに対する興味はある。
ドラッグを知らない僕からすれば、大麻だの阿片だの全部同じドラッグなのだが、本書によれば全然違う。
自然なものもあれば近代産業から新しく誕生したもの、アッパー系からダウナー系、副作用の大小、などなどドラッグにはドラッグの個性がある。らもさんは「ドラッグにも貴賎がある」と述べているが、ドラッグをやる人にとってはそれぞれが違う味わいがあるのだ。


〜文章で追うドラッグ体験〜

ドラッグに関する知識が豊富なのもさることながら、面白いのが一部のドラッグを自分でやってその体験を語っているところだ。らもさんがアル中なのはらもさんを知ってる人にとっては有名な話だが、中島らもという作家を知らずにこの本を読むと、しれっと「このドラッグを試してみた」と書かれてしまうのは腰を抜かすほど驚く内容だろう。並の感覚では書けないし、普通の感覚では読めない。とんでもない内容だ。
(らもさんの名誉のために書くが、らもさん自身、非合法なドラッグはやっていない。あくまで、本書の中では法に触れないドラッグについての体験談が書かれている)

多くの人はドラッグに触れる機会などないだろう。ドラッグに興味があったとしても(!?)、多くを失う覚悟がなければ到底手の出るものではない。学術的にどのような作用があるかを記した書籍は多くあるだろうが、本書のような生の体験を知れるものはそう多くはないだろう。
ドラッグ体験を文章で追体験出来る貴重な一冊かもしれない。


〜ドラッグとの付き合い方〜

あと、これも本書の名誉のためにお伝えしなければいけないことだが、決してドラッグを肯定するような本ではない。
内容的には、ドラッグの負の面が強く出てはいるが、らもさんとしてはドラッグに対して良いとか悪いとかいうことは言及していない。

らもさんの姿勢は、
「人間が快楽欲求に従って生きてる限り、ドラッグを求めるのは仕方ない。やりたいやつはやって中毒になればいい」
ということで一貫している。
その一方で、「知識のない子どもや主婦を騙して中毒にして、ヤクザの資金源となるようなドラッグの使い方は許せない」とも述べている。

ドラッグに関して善悪を考えるのであれば、ドラッグそのものではなく、ドラッグとの付き合い方に軸を置くべきだ、ということなのだろう。
いわば酒と同じような感覚だ。
酔いたけりゃ1人で好きなだけ飲め。ただし、他人に迷惑をかけるな。
らもさんらしい考え方である。

もしかすると、この本を読んでドラッグに興味を持ってしまう人がいるかもしれない。そういう意味では、手放しでオススメはしにくい本ではある。
しかし、この本は、僕のような「危険なものやグレーなものに興味はあるけど、手を出す勇気はない人」にとっては魅力的すぎる。危険な世界を少しだけ覗いてみるのはいかがだろうか。

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