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【堕落論】経験として読んでおく

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆


〜なんか知識人はみんな読んでる気がする〜

なんとなく頭の良い人はみんなこの堕落論を読んでるような気がするので、僕も頭が良くなりたいと思って読んでみた(頭の悪い理由)。

ハルキ文庫の280円シリーズである「堕落論」は「堕落論」「続堕落論」「青春論」「恋愛論」の四つの評論で構成されている。
一つ一つ感想を書いていきたい。


〜「堕落論」「続堕落論」〜

表題にもなっている「堕落論」は8ヶ月後に発表された「続堕落論」とセットで初めて意味がわかると思う。

「堕落論」だけ読めば、

人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。
「堕落論」より

と、「あ、自分は堕落しても良いんだ」という楽観的すぎる感想に陥ってしまいそうになるのだが、「続堕落論」では、

堕落自体は常につまらぬものであり、悪であるにすぎないけれども、堕落のもつ性格の一つには孤独という偉大なる人間の実相が厳として存している。すなわち、堕落は常に孤独なものであり、他の人々に見すてられ、父母にまで見すてられ、ただ自らに頼る以外に術のない宿命を帯びている。
「続堕落論」より

と、堕落の道は決して楽なものではない、と説いている。

戦後の混乱の中発表されたこの評論は、決して暖かさや優しさを持ったものではなく、「堕ちるとこまで堕ちた時に、裸の自分を知ることが出来る。裸になった自分をきびしく見つめることで、しがみつき這い上がる力が生まれ、明日への道を切り開くことが出来る」という、非常に厳しいものだったのだなぁ。

人間だから堕ちていくのであるが、無限に堕ちていけるほど人間は強くない。どこか「まずいな」と思うところで、ブレーキをかける。そこから踏み出す時に、人は幸福に向かう力が最大限になるのだ。

結局のところ、沈みかけている船は完全に沈まないと浮かび上がることも出来ない、ということか。これを希望ととるか絶望ととるか、浮き沈みのサイクルのどこに自分がいるかによって変わるものだろう。



〜「青春論」〜

青春とは、ただ僕を生かす力、諸々の愚かなしあし僕の生命の燃焼を常に多少ずつ支えてくれているもの、僕の生命を支えてくれるあらゆる事どもがすべて僕の青春の対象であり、いわば僕の青春なのだ。
「青春論」より
僕が小説を書くのも、また自分以上の奇跡わ行わずにはいられなくなるためで、まったくそれ以外には大した動機がないのである。(中略)僕は自分の現実をそのまま奇跡に合一せしめるということを唯一の情熱とする以外にほかの生き方を知らなくなってしまったのだ。
「青春論」より


宮本武蔵の話が中盤で出てくるのだが、戦いに明け暮れていた28歳までの宮本武蔵はひと勝負ひと勝負に奇跡を見出していて、それこそ情熱をもって生きていた青春、ということになる。
晩年、なんとなく生きて自らの剣法を型にはめた平凡な「五輪書」を書いた頃にはもはや剣に対する情熱は失せていた(のかもしれない)。

何かに命を燃やし続けることが「青春」なのだとしたら、「青春」とは10代特有のものではなく、死ぬ間際まで「青春」することはできるのだ。
しかし、情熱を注ぐ姿は時に人から奇異の目で見られて恥ずかしくなることもある。それでも「青春」とは「生きることが全部だというよりほかにしかたがない」のだ。


〜「恋愛論」〜

恋愛は(中略)所詮幻であり、永遠の恋などは嘘の骨頂だとわかっていても、それをするな、とはいいえない性質のものである。
「恋愛論」より
恋愛は、人生の花であります。いかに退屈であろうともこのほかに花はない。
「恋愛論」より

そうか、でも今の若い人たちにはあまり響かない論評かもしれない、と感じる。

恋だの愛だのに何か美しい雰囲気を感じている子は、僕の周りにはあまりいない。
大人になっても愛だの恋だの言ってる人は何か軽い目で見られてしまう。

恋愛が「幻」であり「嘘」である事を、先人たちから僕らは学びとって"しまっている"のかもしれない。

しかし、今の生活の中に「恋愛」のような「つかみどころがないけれど何故か心が躍るもの」というのは、ほかには無いようにも思える。
やはり、人生の退屈を埋めるのは「恋愛」ぐらいしか無いのかもしれない。


〜総評〜

「堕落論」「続堕落論」については、「敗戦直後の日本の人々に指標を示した」という点で、歴史的な価値はあるな、と思うものの、三十歳を越えた僕にとっては四篇ともそこまで刺激のある内容ではなかった。

おそらく学生の時に読んでいたら何かしら感化されて、ターニングポイントになってた可能性はあるかもしれないが、
正直なところ、僕自身は「大人の教養として読んでおいた」以上のものは見出せなかった。

またこの「堕落論」に関する論評などを読んだら、新しい視点が生まれるかもしれないが、それはまた別の機会に、ということで。

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