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怒涛の3行怪談×1,000話詰め!『千粒怪談 雑穢』(神沼三平太)著者コメント・試し読み・朗読動画

千人が体験した恐怖。
千種類の怪異。
千回分のゾクッ。

内容・あらすじ

「路上に座り込んでいる少女がいた。
全身が真っ黒で、肌は爛れている。
女性が前を通る度に顔を上げて、「お母さん?」と訊ねている。
「見ちゃ駄目だからね」との友人の忠告にも拘らず、横を通るときに横目で少女の方を見た。
そこには誰もおらず、小さな靴だけが落ちていた」

10秒で読める怪奇譚が1000話。
1日1怪、1000日分の恐怖詰め!

3行に凝縮された恐怖。
体験者から語られた本当にあった怖い話を1,000話記録した膨大なる実話怪談集。
失踪した友人が最後に残した奇怪な言葉。
死者の魂が飛び交う不思議な壷。
霧の遊歩道を引きずられていく縄で縛られた女。
硯箱の二重底に隠されていた謎の写真。
ベランダに落ちていた青い卵の恐ろしい中身。
海岸で拾った呪いの石。死んだネット友達の母と名乗る女からかかってくる怪電話。
母が亡くなる直前、自宅の廊下に現れた異形。
飼い猫がテレビの裏で一心不乱に齧るモノ…。
1日1話読むとして、およそ2年9か月分のゾクッがこの1冊に封印されている。
お休み前に一服の闇をどうぞ――。

著者コメント

雑穢に関する後書きめいたもの
あまり安定しない天気が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。神沼です。
2022年5月22日の時点で、神沼三平太名義で竹書房から出しているすべての実話怪談は、1053話でした(頑張って数えた)。最初に書籍に掲載されたのは、別名義で発表した作品が収録された「恐怖箱 鬼灯」でしたが、それを除外しても1048話にものぼります。2010年から12年間でそれだけ積み重ねた訳になります。数を誇る訳ではありませんが、よくもまぁ、これだけの話数を集め、そして発表してきたものだなと我ながら不思議な気持ちになります。
そして「千粒怪談 雑穢」は、その12年分とほぼ同数の怪談を、一冊に収めた本ということになります。
(なお、Kindleで自主出版している200話がありますので、現在神沼が世間に発表している実話怪談は、2200話余ということになります)
この書籍に収録された各話は、12年ほど前にTwitterで一年間に短い実話怪談1000話を呟くという活動が元になっているのですが、それぞれ131文字以内で記述されていたものを、最大で129文字程度になるように全話に手を入れています。その際に、仮名部分を削除するなど、情報の編集をしています。また、100話ほどは当時のものではなく、新規に取材したものに入れ替えてあります。
本書はタイトル通り、単に一千片の怪異の断片が収録されているといえるかもしれません。怪異体験の断片、つまり実話怪談において体験談を怪談たらしめている部分のみを抜き出した訳ですから、物語というよりも、物語未満の要素を羅列したものと考えても良いでしょう。怪異体験の中心にある違和感をぎりぎりの文字数で記録するというチャレンジでもあります。
なぜ仮名の部分を削除したかについては、怪異体験をより身近に置くために、体験者の情報をあえて曖昧にする意図があったためです。体験者がごくごく身近な人かもしれないという可能性を示すために、わざと情報を減らしている訳です。なぜこのようなことを行ったのか。理由があります。この断片の羅列には、読者の怪異体験の記憶を想起するように促すという目的があるからです。
まえがきにも書いたように、この書籍自体が読む呪詛であり、読者が怪異体験の記憶を想起することを目論んでいる側面が多分にあります。大量の怪異体験の断片を脳に取り入れることによって、読者は忘れていたはずの自分の怪異体験を想起することができるようになるかもしれません。さらにいうならば、他人の怪異体験と自分の怪異体験が混濁するという地点にまで至る可能性があります。それは「体験していない記憶」をもたらす可能性すらあります。体験していない怪異が記憶として認識される。これこそが本書の意図している呪詛の本質です。
このようにして浮かび上がった体験、今まで無意識の中に蓋をしていた記憶を開くことで、「あなたの雑穢」を残して欲しいということも、再度強調しておきたいと思います。ツイッターで、 #雑穢 というタグを付けて呟くことで記録を残してほしいのです。たとえば、この話と同じ体験をしたことがある。この話と似た話を聞いたことがある。そのような報告でも構いません。実話怪談において、類話とは「そのような怪異は他の場所、他の人物においても、体験し得る」という証拠です。その報告だけでも、闇はより濃くなることでしょう。
雑穢があなたの怪異と向き合った記憶を浮上させてくれることを祈って筆を置きたいと思います。よい怪異体験を。

試し読み 5話


#132  友人が驚いたような顔で校舎の最上階を指差した。教室には鍵が掛かっているはずだが、窓に両腕を上げた黒いシルエットが張り付いている。次の瞬間、全く同じ黒いシルエットが隣の窓に張り付いた。更に一人が窓に張り付いた。その直後、二人で逃げるようにその場を後にした。

#213 ある団地の一室が、外から見るとゴミで一杯だとの通報を受けた。管理人がその部屋のドアを開けると、人が入れるような隙間もなく、ぎっしりゴミが詰まっていた。ただ、どの窓にも鍵が掛かっており、更に前の住人が引っ越した際にも、綺麗に片付けて出たのを確認している。

#302 マンションの天井の壁紙が妙に膨らんできたので、上の階で雨漏りでもしているのではないかと業者を呼んだ。業者はその膨らみを触り、「何かありますね」と言って、カッターで切った。中からは猫か何かの動物の毛がばさばさと落ちてきた。壁には割れ目も染みもなかった。

#490 残業していると、右肘を何かが引っ掻いた。肘を撫でたり周囲を見回しても原因が掴めない。気を取り直してキーボードを叩き始めると、また何かが肘を掻き始めた。チラリと見ると書類の間から紙のように薄い顔が覗いていた。それは大きく口を開けて、肘に前歯を立てた。

#855 家族は自分を残して、皆死んでしまった。皆死ぬ前に、「家の前に立ってるあの家族に謝らなきゃ」と言って、一度玄関を出ると、すぐに戻ってくる。そしてその夜に息を引き取る。そんなことを何度も繰り返してきた。いつ自分のところにその家族が来るのか気が気ではない。

―了―

朗読動画

5/27 18時公開!

著者プロフィール

神沼三平太 Sanpeita Kaminuma

神奈川県茅ヶ崎市出身。O型。髭坊主眼鏡の巨漢。大学や専門学校で非常勤講師として教鞭を取る一方で、怪異体験を幅広く蒐集する怪談おじさん。猫好き甘党タケノコ派。最近は対面で取材したり、怪談会を開催したりが憚られるのが悩みの種。成長期よ永遠なれ。主な著書に『実話怪談 凄惨蒐』、地元湘南の怪異を蒐集した『湘南怪談』、『実話怪談 吐気草』ほか草シリーズ。共著では『恐怖箱 煉獄百物語』ほか「恐怖箱百式」シリーズのメイン執筆、若本衣織との共著『実話怪談 玄室』などがある。

神沼三平太・好評既刊

単著作品

実話怪談 凄惨蒐
湘南怪談
実話怪談 吐気草


好評既刊(共著作品)

実話怪談 玄室
現代実話異録 村怪談
恐怖箱 煉獄百物語


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