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ブライアン・W・コリンズ『1日1本、365日毎日ホラー映画』まえがき公開

6年間、毎日1本、ホラー映画を見続けた男が選ぶ究極のホラー映画ガイド、『1日1本、365日毎日ホラー映画』の発売を記念して、作者のブライアン・W・コリンズが“なぜ365日毎日ホラー映画を見るようになったか”を告白するまえがきを公開いたします。

なぜ僕は、1日1本・6年間、
毎日ホラー映画を観続けたのか? 
by ブライアン・W・コリンズ


「1日1本、365日毎日ホラー映画」の著者が語る、〝僕がこの本を書いたワケ〟

 この本を書いている時点で、〈1日1本、毎日ホラー映画〉(HMAD)は定期更新が3年近く止まっているが、サイトには今も毎日かなりのアクセス数がある。どうせボットか僕自身のクリック(ある映画について思い出すのにちょくちょく自分のレビューを読み返さないといけない)によるものだと思っていたが、コメントやTwitterのリプがまだあり、サイトが好調だったころに引けを取らないくらいの頻度で今なお生身の人が来てくれているのがわかった。その理由がしばらく理解できなかったのだが、数ヵ月前にようやくわかった。僕のサイトがマイナーなホラー映画のミニ百科事典のようになっているのだ。サイトの大前提として、自分が観たい『ハロウィン』や『エルム街の悪夢』の続編よりも新作映画(もしくは何年も前に観たっきりすっかり内容を忘れた映画)を毎日観るというルールを自分に課したので、観逃している逸品を見つけたい人や、なんらかの理由で抜きん出ている新しいインディーズ映画を探したい人にとって、このサイトが役に立つ情報源になっていたらしい。更新が少ないからといって、そのサイトに価値がないわけではない。なんたって6年分の膨大な映画リストがあるのだから! 2007年2月のレビューが今年2月のレビューより価値が低いことはないのだ(文章はずっと劣ると思うが)。
 裏を返せば、きみたちは僕をこき使って何十本ものひどい映画をふるいにかけさせ、お勧めできるたった1本の傑作を見つけ出させた末に、それをちゃっかり〈Netflix〉の予約リストに追加していた。さあ、今こそ借りを返してもらおう! サイトの成果であるこのダイジェスト本で、きみたちから数ドルずつふんだくってやったぞ! ざまあみろ!
 まじめな話、サイトを開設してまもないころから、書籍化の要望がたくさん寄せられていた。その多くは単に数年分のレビューをまとめて出版することを提案していたが、僕は道義的にそれはできなかった。〈Netflix〉や〈ブロックバスター〉への寄付を勧めたことはあっても、サイトを課金制にしてロックしたりウザい広告を表示させることは一度も検討したことがない。広告については実際に何度か断ってもいる。そのせいで僕の懐は潤わなかったかもしれないが、僕はこのサイトを運営するのが好きだったし、みんながその手軽さを楽しんでくれるのがうれしかった。その思いはこの本にも引き継がれている。手をかけてレビューを整理するにしても、読者がすでに無料で読んだものに料金を請求することなんかできない。
 それでも僕はレビューをまとめた本をどうしても作りたくて、サイトの日々の更新をやめたあと、いろいろとアイディアを練り始めた。観た映画の中からベスト(もしくはワースト)100を選ぶのは定番だが、それはちょっと退屈そうだし、『ホラー・ムービー・ア・デイ:書籍版』と呼ばれることになるであろう本の〝ア・デイ(毎日1本)〟の部分を強く押し出したかった。そこで名案が浮かんだ。365本の映画を選んで、12ヵ月それぞれにテーマを決めてグループ分けしたらどうだろう。僕が最初そうだったように、まだホラーを深掘りしていなくて、インディーズ/オリジナル・ビデオ/海外モノ/忘れられた作品などを観ていない人たちに絶好の出発点を提供できるんじゃないか。つまり、『エクソシスト』や『ハロウィン』が入っているありがちな〝観るべきホラー映画50本〟のセレクションからもれている作品だ。『エクソシスト』や『ハロウィン』はみんなもう観ている。じゃあ、もっと違うのを観てみようじゃないか。
 ただし、そうやって選んだ映画は〝ベスト〟でもないし、完璧な作品でもない。僕は頭を抱えてしまった。でも、考えてもみろ。全部がすばらしい映画だったら、そんなのはホラーを評論する人たちみんなから支持されていて、まさに僕が避けようとしている不朽の名作になっているから、読者はとっくに観ているだろう。ここ数年、ネットの世界では映画を〝すばらしい!〟と〝ゴミ!〟のふたつに分類するという悪しき病気がはびこっている。その中間にある映画、つまり〝なかなかいい〟の罪を犯した作品は忘れ去られてしまうようだ。あるとき、大好きな映画について小さな不満がいくつかあると書いたら、数日後、その映画を「嫌っている」と非難されたのを今でも覚えている。単に否定したいために編集ミスや何かをあら探しするのは論外だが、きちんとした映画に致命的なプロットの穴や手際の悪さがあったら、なぜ指摘しないのか? 僕の場合、そうすることでほかのいい部分がもっと信頼できるようになる。映画館から出てきた人が「この映画は新しいお気に入りになった」と言っても、僕はその人の意見をあまり重視しない。同じ映画を観た別の人が映画館から出てきて「欠点がいくつか目立つけれど、やっぱり必見だと思う」と言ったら、僕は一層わくわくするだろう。欠点のない映画なんてほとんどない。僕のお気に入りの映画だって例外ではない(ルーミス医師はその場に何時間もいるのに、なぜ通りの向こう側にマイケル・マイヤーズの車があることに気がつかないんだろう?)。それに、映画の欠点に目をつぶらなくていい、と読者に伝えるのは悪いことではない。
 というわけで、この本で扱う映画の多くは、僕が〝B+級映画〟と呼んでいるものだ。〝B級映画〟という呼称は、へたくそな演技や安っぽい特殊効果を連想させ、見下した感じがする。B+級映画というのは、B級映画と『エクソシスト』『ローズマリーの赤ちゃん』『ハロウィン』『シャイニング』級の映画の中間に位置するもので、いっぱしのホラー映画ファンなら誰もが観ている正真正銘の名作にはなり損ねたかもしれないが、現在のレンタル店のホラー・コーナーにある棚をふさいでいる忘れられたジャンクよりはまちがいなく1歩も2歩も(10歩も)上にある映画だ。
 理想を言えば、すべての映画が〈Netflix〉などの配信サービスで好きなときに観られるように用意されていればいいのだろうが、残念ながらそれはありえない。この手の映画は権利関係や在庫整理の問題のために、絶えず現れては消えていくものだから。本当はこの本からゲームを作って、1年ですべての映画が観られるかどうか読者に挑みたかったのだが、それだと自由に使えるお金が十分にある人以外はむずかしい。サイトをやっていたとき、一番多く受けた質問は「本当に毎日1本の映画を観ているのか?」で、その答えは父の墓前に誓って「イエス」だ。いつもその日のうちに観終えたわけではないものの、6年以上にわたって毎日(始めて2週間もしないころの1日だけ除く)、午前0時1分から午後11時59分までのどこかの時点で必ず腰を落ち着かせ、新しいホラー映画を観始めた。家族旅行やコミコン、妻とのロマンチックな逃避行のときでさえ、持参した殺人案山子やファウンド・フッテージ映画を観るために中断を余儀なくされた。僕は6年ものあいだこれを続けた。ほかの人たちは僕と違って価値がなかったり忘れていいものを観続けることはない、という事実に背中を押されながら、世の中にそんなことができる人間がいるのか確かめたかったんだ。
 いったん頭が冷えると、本の挑戦的なコンセプトは事実上取り払った(つまり、読者が挑むのは自由だが、実際に誰かがそうすることを僕は求めていない)が、毎日観るというテーマは生かしておきたかった。そこで、この本を、未見の映画や聞いたこともない映画を観たい気分のときにインターネットの情報に頼らずに探す手段として考えてほしい。僕や僕の仲間に「何を観ればいい?」とtweetする代わりに(スコット・ワインバーグはこの手の質問を山ほど受けている)、この本を手に取ってその日のページを開いてくれ! それが僕の答えだ! そこに載っている映画をもう観ていたら、まだ観ていない映画が見つかるまで次の日、さらにその次へとページをめくっていく。もしもこの本にある映画をすべて観てしまっていたら……そしたら、きみは自分の〈ホラー・ムービー・ア・デイ〉サイトを作るべきだ。
 そこで次のポイントにつながる。この本にある全作品を制覇している人はいないとほぼ断言できるのは、リストから大ヒット作や有名作品をほとんど除外しておいたからだ。僕は親愛なる読者のみんなが表面的なホラー映画ファン以上のレベルであることを前提にしている。だから、『ZOMBIO/死霊のしたたり』みたいな映画を今さら勧めるような侮辱はしたくない。この本の読者なら70〜80年代のホラー・ヒーローのシリーズ(レザーフェイス、ジェイソン、マイケル・マイヤーズなど)はすべて視聴ずみで、過去10年間の有名どころはたぶん劇場で全部観ているだろう。〈ユニバーサル映画〉と〈ハマー・フィルム〉のモンスター・シリーズも省いた。若いファンはまだ観ていないかもしれないが、そこから1本や2本を選ぶのはむずかしいからだ。だが、僕は残忍なモンスターじゃないから、たぶん聞き覚えがあるであろう準人気作もスパイスとしてまぶしておいた。アメリカで異例の評判を取った外国映画、数々のホラー・サイトでトップ10入りを果たしたインディーズの逸品……大規模公開されてそれなりの収益も上げたのに僕の見るところでは世間の記憶から消えてしまった映画も入れてある。要するに、もしもきみがこのジャンルでまったくの素人だったら、これはきみのための本ではないかもしれない(僕が新入りさんにお勧めするのは、アラン・ジョーンズ著『The Rough Guide to Horror Movies』)が、ぱらぱらめくってみれば、ホッとできるようなおなじみのタイトルがいくつか見つかると思う。
 ダメな映画もいくらか入っている。正確には12本、1ヵ月に1本だ。ホラー・ファンなら百も承知だが、ホラー映画を適当に100本集めたら、そのうちの3分の2(少なくとも)はまず駄作だと考えていい。恐怖映画はたいていほかのどのジャンルよりも製作費が安く、大物スターが不可欠というわけでもない。いわば製作が〝簡単〟で、それはつまり、このジャンルにはほかのすべてのジャンルを合わせたよりも多くのやっつけ仕事や模造品が氾濫していることを意味する。もしも以下の365本すべてがジーン・シスケルやロジャー・イーバートのサムアップに値するものなら、それは読者に誤った認識を与えることになるから、月に1本ずつポンコツ映画を放りこみ、読者が次の良品をより正当に評価できるように仕向けた。
 とはいえ、そんなポンコツでも僕の疲れた目に何かを与えてくれた。僕は単に味覚をリセットするためだけにダメな映画を選んだのではない。ある面で際立つひどさがあるものを厳選してあり、そこには僕が観た2,500本の中で最低だと思った映画も入っている。それらはたぶん、善意で作られたのに段取りがうまくいかなかった作品とか、エイリアンが彼らの考える映画の概念を精いっぱい模倣して製作しているように見える作品である──ダメ映画のレッテルを貼られる理由は千差万別だ。信じてほしいが、鑑賞後になんの印象も残らずレビューを書くのに四苦八苦する映画を、僕は嫌というほど観てきた。この本に混ぜこんだポンコツ映画は、少なくとも僕に何か引っかかりを残したものだから、技術的によくできているのに次の日にはきれいさっぱり忘れてしまうような平凡なスラッシャー映画やゴースト映画よりは好ましいと、個人的には思う。
 また、ひとつのサブジャンルをテーマにした月がいくつか(全部ではない)あるが、特定のタイプの映画ばかり(『ソウ』のパチモンを30本とか)を列挙してうんざりさせたいわけじゃない。そういう月はそのサブジャンルの中でできるだけ多彩な領域をカバーするよう心がけた。ホラーのすばらしい点は、いかにヴァラエティに富んでいるかということ(厳密なテンプレートに基づいて機能するラブコメとは大違い)で、僕は観るべきタイトルをでたらめに並べるのではなく、異なったタイプの映画をできるだけ数多く詰めこみたかった。さらに、月ごとにテーマを設けたおかげでお勧め映画を絞りこむのがすごく楽になった。それでも何ヵ月もかかっちまった!
 最後にもうひとつ。この本がロンドンでも日本でも南極でも同じように役立つことを願っているが、取り上げた映画が世界のどこでも入手可能かどうか調べるには時間も人手も足りなかった。読者には手軽にどの映画も観てほしいから、アメリカ国内でDVD化されていなかったり、どの配信サービスでも観られない映画は避けるようにしたが、その努力は残念ながらリージョン1の地域に限定した話だ。英国にも読者がたくさんいるのを知っているから(ロンドンに行ったときに会ったHMAD読者の数は、アメリカ国内で1年間に会った読者よりも多かった、マジで)、彼らもほかの国の読者も映画を見つけるのがひと苦労でないことを願っている。少なくとも、ここにある映画にそうするだけの価値があることは保証できるよ!
 それじゃ、くどくどした説明はここまで……。

P.S.
 すまない、噓をついた。もうひとつだけ説明があるんだった! 僕は慣例みたいなものが大好きで、ひとつの月の中にも規則性を作っておきたかった。そこで、月の特定の日付にはいつも決まった趣向のセレクションをしている。というわけで、それぞれの月の慣例について簡単なガイドを書いておこう。

毎月1日:僕のお気に入りの映画。もしくは、少なくともその月のテーマにこれ以上ないほどぴったりだと僕が思う映画。
7日、14日、21日、28日:ほかのものより少し知名度があるかもしれない映画。感謝にはおよばない。
15日:月の折り返し点にはポンコツ映画。前に説明した通り、ホラー・ファンになるというのは、本当にひどい映画を観る部分も引き受けるということ。クオリティを別にすればあらゆる点でほかの映画に劣らずその月のテーマにふさわしい、僕にとって記憶に残るほどひどい映画を選んでいる。
23日:〝バカバカしいけど、とにかく僕は大好き〟な映画。楽しいものは楽しいし、自責の念とともに弁解しなきゃいけないのはおかしいから、〝背徳的楽しみ〟という言い方は好みではないが、僕が選ぼうと思ったのはそういうタイプの映画──型通りの美点に欠けているとしても、おもしろくないわけでなく、自分がどんな種類の映画を作っているのかを正確に把握している人たちの手による(と僕の目には見える)映画だ。そういう映画では、15日の〝ポンコツ映画〟とは違って、いいモノを作っているという自負が作り手にある。
月末:その月のテーマと翌月のテーマの橋渡しをするような1本になっている。急激な変化で映画むち打ち症にならないためだ。たとえば、9月(テーマはヴァンパイア)の最後の映画は、ホラー成分が低めのもの(10月のテーマ)になっている。もちろん12月の最後の映画は1月に戻るように選んであるから、どこから読み始めてもすべてきれいにループするはずだ。ピンク・フロイドのアルバム『ザ・ウォール』みたいだろ! フロイドと言えば、アルバム『狂気』をBGMにしてこの本を読めば……たぶん気が散る。

 繰り返しになるが、きみがこの本を忠実になぞる必要は全然ない。しかし、もし本の通りにしても(しかも僕の勧めた映画を奇跡的に1本残らず観ることができても)、僕が頻繁に味わった「ゆうべもこんな映画を観なかったっけ?」という気持ちにはなってほしくない。そのために僕はできるだけ作品をごちゃ混ぜにするようベストを尽くした。この本はミックステープみたいなものだと思ってほしい。ただし曲の代わりに365本の映画が収録されていて、渡されたカセットテープをただ再生するのではなく、それぞれの作品を自分で手配しないといけない。あと、僕はその中にひそかな恋心をこめたりしていない。そして、車を運転中に楽しむのには適していないから、そのつもりで。

1日1本、365日毎日ホラー映画_Cover+Obi_Hyo1 (1)

著者プロフィール

ブライアン・W・コリンズ
Brian W. Collins
ブライアン・W・コリンズはホラー映画に関する文章を10年近くにわたってウェブサイトに投稿、彼のレビューは〈ブラッディ・ディスガスティング〉、〈ファンゴリア〉などの主要ジャンルサイトほぼすべてに掲載されている。また、ドキュメンタリーやテレビ特番数本にホラー映画のご意見番として出演、ホラー映画上映会の質疑応答コーナーではひんぱんに司会を務める。コリンズは妻、息子、2匹の猫、『ショッカー』のディスク数本とともにロサンゼルスに在住。

◉Horror Movie A Day オリジナルサイト
http://horror-movie-a-day.blogspot.com/

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書籍情報

『1日1本、365日毎日ホラー映画』
ブライアン・W・コリンズ[著]
入間 眞・有澤真庭[訳]

2021年7月21日発売

〝人間食べ食べカエル〟さんの解説はこちら☞

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