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人生で一番笑った記憶

今月に入ってから仕事やら父の入院に伴いバタバタしていたりで、すっかり季節が寒くなっていたことに気が付かず、先日シャツ一枚着た所で

「これでヨシ!」

と外に出ようとした大枝です。

はい、そんな嘘小話はどうでも良いとして、今日は心からしょうもない話でもしてみようかと思いパソコンをカタカタし始めてみました。
本当に下劣でどうしようもない話なので、何の力も入れずに流し見でもして頂ければ結構。

人生で一番笑った瞬間って何だったろうと考えた時、真っ先に思い出す出来事がある。
あれはもう二十年以上も前の、高校二年の放課後だった。

僕はいつも地元が同じFと校内で行動を共にすることが多かった。
それでも他のクラスメイト達とも仲良くやっていたので、ただでさえ偏差値が低い高校の中でいつも七~八人の最も偏差値が低いグループでつるんでいることが多かった。

僕とF以外はみんな地方では田舎に毛の生えた程度の都会!から自転車で来ていて、焼け野原並に何もない田舎町に住んでいた僕とFが放課後にみんなと遊ぶことは滅多になかった。

僕はバンドで忙しくしていたし、Fはバイクをいじったりでそれぞれ好きなことに没頭していたある日、たまたま練習が無かった僕とFが帰ろうとすると、なんと他のみんなが僕らが住む田舎町へ遊びに行ってみたいと言い出した。

これに僕とFは「うーん……スーパー以外に何もないよ」と断りを入れてみたものの、何もないのが良いんじゃん!なんて観光で田舎にやって来た都会人みたいなことをまくし立て始めた。
彼らが何故そこまで僕らの田舎町に来たがったのかといえば、とにかく暇だったからだ。それ以外に理由がなくて済むのが若者の特権でもあったりする。

じゃあ仕方ないから行こうかとなり、渋々集団自転車で移動すること約二十分。そこから僕らの田舎町に来てからわずか十五分ほどで、彼らは早くも神妙な面持ちになり始めていた。

「本当に何もないんだね……」

彼らはまるでバラックに住むスラム暮らしの少年を見るような目で僕とFを眺め始めた。
だから最初から何もないって言ったじゃないか!と強く言おうとも思ったけれど、本当に何もないし、怒る理由も何もなかったのでただただ、彼らの視線を黙って頭をポリポリ掻きながら受け入れるしかなかった。

すると、友人のU君が何か思いついたようにこんな提案をした

「大枝君に何かやりたいことない?って聞いたら帰っちゃいそうだからさぁ(実際に帰ったりしてた)、F君、何かやりたいことない?」

Fはいつもみんなの話を聞きながら相槌を打ち続ける「ほがらかなサンドバッグ」のような役回りが多く、自主的に何かやりたいと言うタイプではなかった。
中学時代からその性格をよく知っていた僕は「いやぁ~」とか何とか言って、また人任せにして流すだろうなぁーとぼんやり思っていると、Fが口を開いて、衝撃の願望を告げたのだった。

「俺……今、爆竹持ってるんだけどさ。うんこ、爆発させてみたいんだよね」

Fは「ヘヘッ」て感じではにかんでいたものの、この願望にみんなはドン引きしていた。
まずU君の「何で爆竹持ってんの?」から始まり、周りの連中も「うんこ爆発させてどうすんだよ」と困惑顔を浮かべるばかり。
ここはFとは古い仲の僕が彼のことをみんなに一旦説明することになった。

Fは昔から花火が大好きで爆竹や地面を回転する花火など大の好物であること。そして、普段済まし顔でモテてる風(Fはイケメン枠だった)だけど、実はうんことかションベンとかが笑いのツボであること。
それを爆破させたいという欲求は分からないが、彼はどの程度の「うんこ」を望んでいるのか尋ねてみよう、となり、僕はFに尋ねてみた。

「うんこって、落ちてるうんこだよな?」
「あぁ、そうだね」
「乾いてるのとか、ほやほやとか、どんなのがいいの?」
「まぁ、ほやほやしか有り得ないよね」

その時のFの表情があまりに真っ直ぐだったから、僕らは思わず「よし」と頷いてしまった。
頷いてしまった後すぐに、このミッションは相当な苦労を要することを理解した。

とりあえず、みんなで集団自転車をしながらうんこをくまなく探すところから始めてみた。
高校生八人組が視線を地面に這わせながら自転車をゆっくり漕いでいる姿は、さぞ異様だったのだろう。
畑仕事をしていた老人がわざわざ手を止めて僕らを遠くからジーっと眺めているのがはっきりと分かったほどだ。

うんこというのは「踏んじゃった!」なんて経験が誰しも一度や二度はあろうものの、いざ探してみるとこれがすぐに見つからないものなのである。
みんな口々に「うんこぉ……うんこぉ……」と呟きながら自転車に跨り、地面に目線を這わせていると、バイトに向かう最中の同級生の女子Aさんにバッタリ出くわしてしまった。
驚いた顔で(当然だろう)

「たけちゃん、みんなで何してんの?」

と尋ねられた僕とみんなは、真顔で

「うんこ探してる」

と答えると、Aさんは「が……がんばって」と顔をひきつらせながら小走りに去って行った。

その頃、既に僕らはうんこに憑りつかれ始めていたのだ。後日、学校で「あいつら放課後にうんこ探してた」と噂されることなど、微塵も考えられなかったのだ。

♪ちょっとくらいの噂のダメージなら~ 漏らさず~うんこ見つけてやる~ とミスチルの替え歌でも唄いたい気分になっていた。

その後も捜索にあたったが、昼過ぎに止んだ雨がまだ路面を濡らしていて、地面が暗いのもうんこ捜索の難航に一役買っていた。
無論、うんこ探しに従事したことのある諸君ならご存知だろうが、暗い地面というのはうんこに存分なステルス機能を与えてしまうのだ。
これでは埒があかないぞ……と思った僕らは当時最先端の文明の利器「携帯電話」があることに着目し、二人組四グループを作ってうんこ捜索にあたることにした。
これがさらにふた昔前なら駅構内の掲示板に白チョークで

「ほかほかうんこ発見せり。至急、吉田商店前に集合」

なんて書くハメになっていたであろう。

とにかく、四散した僕らは必死になってうんこを捜索した。
僕と一緒に捜索にあたっていたFの携帯には続々とうんこ情報が寄せられたものの、

「いや、乾燥はダメだ」
「時間はどれくらい経ってそう? 固くなってる? あぁ……じゃあダメだね」
「紙みたいになってる!? 論外だよ! そんなの一々電話しなくていいよ!」

と、一切の妥協を許さない姿勢で神経を尖らせていた。
内心、僕は「本当にこいつと友達で大丈夫かな」と思っていたものの、残念な報告が寄せらせるたびに「ドンマイ」「うんこ、見つかるって!」と彼を励ますのに必死だった。

何とか見つかってくれないと家に帰れないかもしれない……世界まる見えに間に合うかなぁ……と、いよいよ僕の心がべそを掻き始めた頃、血眼になって路上に目を落としていたFが突然喚起の声を上げた。

「えっ!? 本当!? 出したて? 間違いない!?」

ついに、ほかほかうんこ発見の連絡が入ったのである。

見つけたのは金髪丸眼鏡のH君という大人しい奴で、成功の秘訣を聞いてみたら犬の散歩をしている婦人達に「こちらのワンちゃんのうんこ、もらえませんか?」と変態も青ざめる声掛けを片っ端から行ったそうだ。こんな奴はどの時代であっても、狂人以外の何者でもないだろう。
ただ黙って地面を眺めていただけの自分を少々恥じながら、田んぼの端に通る橋のド真ん中にみんなで集合した。

するとH君の報告通り、立派なほやほやうんこが橋の真ん中に鎮座していた。

Fは嬉々として感謝と労いの言葉をH君に述べ、田舎の橋の上でひとつの大仕事を成し遂げた喜びをみんなで分かち合った。

雨の降った日だったので幸いみんなビニール傘を持参しており、うんこガードのための盾を作って辺りに座り込んだ。
指先に触れぬよう、そして美しく四散するよう、Fはまるで何かの職人のような顔つきでうんこに爆竹を突き刺して行く。
固唾を呑んで見守ること約三分。いよいよセットが完了した。

「じゃあ、行くよ!」

そう言って晴れやかな顔で導火線に火を点けたFが僕の作る盾に隠れると同時に、辺りに火薬の破裂する乾いた音が響き渡った。

路上のうんこはまるでマシンガンにでも撃たれているように小刻みに跳ね上がり続け、そして予想通り四散した。
その瞬間、その場にいた全員が笑い転げていた。
僕も息が出来なくなるくらい笑ったし、転がった地面に制服が濡れるのもおかまいなしで笑い続けた。

普段自分の願望を口にしないFの口から出た願いを、心をひとつにして叶えた喜び。そして想像していた通り、いや、それ以上のうんこの爆散ぶりに笑いが次から次へと込み上げて止まらなかったのだ。
傘は犠牲になったものの、とてもいいものが見れたとみんなは満足して一人、また一人と帰っていった。
夕暮の田んぼには黄金色の陽が差し込んでいたが、残ったメンツはその風景に感動や感傷を覚えることもなく、「うんこみてぇな色」などと、これまた糞に絡めて笑い続けていた。
願いを叶えたFは終始満足そうな顔をしていたし、後にも先にも、あんな楽しそうなFを見たのはあの時が最後だったように思う。

それからクラスが変わるまでの間、グループでその時の話題が出るたびに

「あの時間が人生で一番無駄な時間」

と笑い合ったのも、今となっては良い思い出となっている。
必死になって無駄に過ごしたあの時間に、今でも時折思い出して噴き出すことすらある。
その時のメンバーが今はどうなっているかは知らないし、バンドを解散してからライブハウスで交流のあったメンバーも今ではすっかり疎遠になってしまった。
うんこを爆散させた五年後に、Fは誰よりもひと足先にこの世を旅立って行った。
あの時の翳りのない笑い声や表情は今でも覚えているが、やっていることは実に下らなくどうしようもなく、大人になり切った今ではもう再現することは不可能な時間なのは間違いない。
そして、再現出来たとしてもあんなに笑い転げることもないだろう。

以上、今回は本当にどうしようもない思い出話でした。

また、何か書きます。

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