【小説】 デートどころじゃない! 【ショートショート】
念願の初デートなのに、私は心ここにあらずの状態で助手席に座り、アウディのハンドルを握る彼の言葉を右から左へ聞き流している。彼は得意先の営業マンで、うちの会社に初めてやって来た日から私は一方的に想いを馳せ続けていた。
「エムテック株式会社の佐山祥平さん……ですね、どうぞ」
受付を担当している私は彼を前にする度、上擦った声でしどろもどろになってしまっていた。それを隣で見ていた同僚の紗栄は「わかりやすっ!」と毎度呆れた顔で私を眺めていた。
彼が来る度に心と身体がカチコチに