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夏のゾワワなおはなし、というおはなし 【エッセイ】

ヤッホー!みんなー!ドッカンピーなサマーしてるー!?
 
どうも、みんなの『ハートフル』こと大枝です。
一日のうち、なんだか突然心がほっこりしたり、ホッとしたりする瞬間ってありませんか?
あれ、全部僕のおかげなんです。
あまり知られていないようだったので、改めて今回お伝えさせて頂きました。

最近はテポドンの発射基地を探しに朝鮮半島へ行ってみたり、はぐれ時空マンモスの集団を求めてスピッツベルゲン島へ行ったりしていたのでエッセイを書く暇がありませんでした。
行ったと言っても全部Googleマップの話なので、とても便利な時代になったなぁって実感しますね!
これなら自室で世界旅行が出来るので永遠に海の外へ出なくて済みそうです。おススメです。

はい、今回は夏のとっておきの話をしようと思います。
ゾワワ……って話なんですねぇ、怖いなぁ、怖いなぁ、って方面の稲川話じゃありません。
深夜のお墓の後ろからお化けが

「お〜ば〜け〜……」

って言いながらヒュードロロと出て来ることもありません。

「おはなし、というおはなし」ってテメエ頭おかしいんじゃねーか💢?はぁ💢?って思われた方、頭はおかしいので安心して下さいね。ズバリ当たってるわよ!あんた、天国に上がるわよ!(CV・細木数子)です😉(たまにはこんな絵文字も使います)✌️←うわぁ!凄い腕が長い人みたいだー!

はい、本題。

あれは僕が中学二年の夏休みのことだった。
当時の僕は実質帰宅部の「文化活動部」という謎の部活に属しており、夏休みに部活動を行うこともなく、延々おうちにいて音楽を聴いたり絵を描いたりして過ごしていた時のことだった。

友人達はみんな止めておけば良いものの、下手くそなりに部活動に必死に打ち込んでいて、朝っぱらから朝練という名の徴兵をくらって出兵していたもんだから、僕だけがとにかく暇で暇で仕方なかった。
そんな中、僕に唆されて利口にサッカー部を辞め、おとなしく僕と同じ文化活動部にやって来たDと遊ぶ機会が増えていた。
理由は僕らだけとにかく暇だったからだ。

夏休み中はDの家に行って撮り溜めたアニメのビデオ(!)を観たり、ご当地缶コーヒーコレクションを眺めたり、ゲームをしたりしてダラダラ過ごしていると僕の知らない男がやって来た。

彼の名は「戸塚(仮名)」と言い、僕らのひとつ上の先輩だと言った。喋り方が非常にオドオドしていて、しかもエスパー伊東にそっくりだったもんだから話し始めて五秒くらいで僕はブン殴りたくなっていた。

「で、で、き、君は、何、何年、何組な、なの?」
「はぁ💢先輩聞こえねぇんすけど💢もっとハッキリ喋ってもらっていいっすかねぇ💢」
「な、何年何組なの、かな?」
「二年四組十四番すけど💢はぁ!?💢」

夏の暑さも手伝って、確か常時こんなテンションで会話をしていたと思う。
僕の知らない先輩がDと仲良くしてるのも正直ちょっと嫌だったこともあり(思春期あるある)、こいつがいるのは何だかつまらないなーと思いながら僕らは三人で遊ぶことになった。

しかし、遊ぶとは言ってもマックもカラオケもコンビニすらも満足にないようなド田舎なので、僕らは自転車でブラブラした挙句、スーパーの二階にあるゲームコーナーで「キングオブファイターズ98」をやって夕方には解散した。
戸塚君は終始「グッ、グフフ……!」と不気味に笑っていて、どう控え目に見ても気味の悪い存在だった。

それから二日後。
Dから電話が掛かって来た。

「たけちゃん、今日遊べる?」
「別にいーよ。暇だから」
「あのさぁ、戸塚君がたけちゃんと遊びたいって言ってるんだよ」
「あー、まぁいいよ」

あまり気乗りはしなかったものの、僕は戸塚君の待つDの家へ遊びへ行くことにした。
遊びに行くと戸塚君は馴れ馴れしく僕を「たけし」と呼んで来たので、首の骨をヘシ折ってみようかしらと思ったりもした。
しかし、この戸塚君。改めて遊んでみると僕に対してやたら甲斐甲斐しくなっていたのである。

「たけし、暑くないか?何か飲むか?」
「このゲーム好き?好きじゃなかったら別ので遊ぼうな」
「うちに要らないパソコンあるんだ。欲しかったらたけしにやるよ」
「この部屋暑いよな。たけし、俺ジュース買って来るよ」

など、ことあるごとに僕に構うのだ。
正直、その頃の僕は僕が言うのもあれだが、確かに可愛かった。
時々女の子に間違えられることもあったし、何も知らないヤンキー調の先輩に夏休み中、セブンイレブンでナンパされたりもしていた。
しかし、みんな僕が男だと分かるとゲボを吐くようなリアクションをしたり同じ男として必要以上に接して来ようとしたりと、同性としてちんぽちんぽと非常に明るく迎え入れてくれたのであった。

が。

戸塚君は妙な艶かしさみたいな物があった。
なんというか、僕を見つめる瞳が「熱視線」だったのである。
それも椿屋四重奏も汗拭きシートで身体を拭いてしまうほどのネットリとした熱視線だったのである。
どれほどネットリな熱視線だったかといえば、女子大生の生着替えを覗く蛭子能収と温水洋一と佐野四郎のトリオくらいの熱視線だったのだ。

これには流石に仙台藩の血が流れる僕も命のキケンを感じざるを得なかった。
やり始めたばかりの桃鉄を放り出し、僕は帰宅宣言を出した。

「あー、帰らないと!今日はもう帰るわ」

またねーと言うDだったが、戸塚君は僕の足(!)を掴むといやいやと首を振った。

「まだいいじゃん、な?」
「嫌です。帰ります。じゃあ」
「待て待て待て、理由を聞かせてくれよ。なぁ?」
「家に帰って、録画してあるエヴァンゲリオンを観るからです!」
「それだったら俺と遊んでる方が楽しいだろ?な?」
ひょうえー!これは参った!こいつ面倒くせぇ!うぜぇ!楽しいかどうかは僕が決めることなのに、勝手に決められている!これにはちょっと頭に来るものがあって、僕はキレた。僕は基本的に自身の感情を他人に決められることが頭に来てしまう節がある。

「おまえ、マジでつまんないから。帰るから。じゃあ」
「そんなっ!たけし、帰らないでくれよ!なぁ!?」
「さよーならー」

そう言ってD宅を飛び出し、僕は何度も後ろを振り返りながら自転車を必死に漕いで自宅へ帰った。

それから数日間は何の音沙汰もなくガリガリの身体でガリガリくんを食べながら頭をボリボリくんしてエヴァンゲリオンを観つつ

「第三首都に行きたい……!住民票をうつしたい……!」

と割と本気で思っているところにDから電話が掛かって来た。
なんとなく嫌だなぁ、怖いなぁ……と思っていると案の定、夏の予感は大当たりのマーメイドなディスタンスだった。

「たけちゃん、戸塚君が……」
「いやいやいや、勘弁してよ。電話切っていい?」
「どうしても遊びたいってきかなくってさぁ……電話替わるわ」
「えっ!?」

Dも疲れ果てた様子だったということは、よっぽど必死に説得してくれたが諦めたということなのだろう。後で聞いた話だが、戸塚君はDに僕の家を教えてくれと何度もせがんだようだったが、それは阻止したとのことだった。

電話口に出たっぽい戸塚君はグスングスン、とすすり泣いていた。
これが後の埼玉怪談「泣き男」の誕生の瞬間である。

「グスン……グスン……たけぢぃ!」
「なっ、なんすか!?」
「俺っ、俺は、たけぢじゃないとダメなんだよぉ!俺、たけじが好きなんだぁ!たけじぃ!」

ぎゃ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!!

と電話口で悲鳴を上げたのは僕だった。

十四歳。それまで面と向かって女の子から「好き」と言われたことさえ無かった僕はショックのあまり、受話器を持ったまま悲鳴を上げた。
生まれて初めて電話で告白された相手が男、それも魔太郎の仲間にいそうな気持ちの悪い年上の男なのである。

衝撃とショックと驚愕と混沌とカオスと酩酊と吐気と悪寒が一気に体中を駆け巡り、頭の中でクィーンのボヘミアン・ラプソディのPVよろしく戸塚君のエスパー伊東のようなツラが大量にぐるぐると回り始める。
電話の向こうでは泣きながら「好きだ」「好きなんだ」「だってキミだけなんだ」「キミが(キミが)恋をするなら相手はボクしかいないオンリーユーだよ」と連呼しまくっている。

僕は恐怖のあまり、その場にいるであろうDに若干申し訳ないと思いながらも電話をガチャ切りした。
そして、玄関の鍵を閉めて部屋の窓もキチンと施錠した後、エヴァンゲリオンの世界に自らの意識を没入させて行くのであった。

それから夏休みが明け、学校が始まるとあれからの出来事をDから聞かされた。戸塚君は「なんとかたけしをここに呼べないのか」「俺はたけしが好きなんだ」「たけしたけし」と部屋でひたすら僕の名前を連呼し、夜になってようやく家に帰って行ったとのことだった。

それは大変だったねぇ……と思いつつも、Dに悪いことをしたなぁとはちっとも思わなかった。
何故なら別に戸塚君と友達になった覚えはないし、Dに誰か呼んでくれと僕が頼んだ訳でもないからだ。つまり、僕には何の非もない。ヨシッ!と思っていた。

それから戸塚君が卒業するまでの間、時々校内の物陰から熱視線を感じることはあったものの、平穏無事に過ごすことが出来た。
何でも最初が肝心なので、初めから「嫌なものは嫌!」とハッキリ伝える事は大切だなって改めて思った夏なのでした。

それでは、また。

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