【瞬間小説】 氷雨 【ショートショート】
酒を呑むだけの金も力もなく、叫ぶ声すら何処かへ落としたまま雨夜の街を歩いている。
折れた傘を握り締め、何処へ帰ろうかと彷徨い続ける。
シャッターが閉まった駅の入口に腰掛けようとすれば、そこに座る数名の先客が私に睨みを利かせ始める。
心だけは、どうか失くしたくない。
錆びついた古い歌を口遊みながら、穴の空いた靴から滲みる冷たさを引き摺って歩く。
右に左に、元来た場所から見知らぬ場所へ、折れた傘を相棒にして朝を描き歩き続ける。
何の希望も生まれない歌にしがみつ