【瞬間小説】 風景 【ショートショート】

「何か釣れたん?」
「ちげー、根がかりしてるだけ」
「そうなん? 思い切り引っ張ってみりゃいーで」
「仕掛けが勿体ねぇんべ。はぁ十分近くこうしてらぁ」
「諦めた方がいいんじゃねん?」
「丸大の親父に結ってもらったん」
「金取られたんべ?」
「だから下手に切れねんだんべに」
「だったら潜っちまえばいいで。竿持っといてやんで」
「馬鹿じゃねえん? まださみぃで」
「水は冷てぇんかい?」
「当たり前だで。まだ五月にもなってねぇで」
「ふーん。釣りも面倒くせぇやぁな」
「でも面白れぇで」
「面白いんかい? なんで?」
「たまに釣れっから」
「まぁ、釣りだもんな」
「釣れなきゃやってねぇで」

 流れの早くなった川が、青々と春を呑み込んで行く。
 そうして、夏が吐き出されて行く。
 瞬間、根が掛かったままの糸がピンと太陽を弾いた。

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