私的考察「子どもたちの安全のために数学教師ができること」
子どもたちが巻き込まれる事件・事故・災害は後を絶たない。
発生件数を全くの0とすることが難しくとも,限りなく0にすることを目指していく必要がある。この目標に向かうためのアプローチは,様々な角度から行うことができるだろう。例えば「事件・事故のない街づくり」をテーマにしただけでも,行政,交通,治安…あらゆる職種・分野から検討することができる。私的考察では,数学教師という独自の視点から自然災害に焦点をあててアプローチしてみたい。
まず,数学教師が属する学校においてその安全とはどのように考えられているのだろうか。
学校安全についての直近の資料として,文部科学省の「第2次学校安全の推進に関する計画」(2017.3.24)がある。この資料で目指すべき姿として次の2つを掲げる(p.6)。
(1)全ての児童生徒等が,安全に関する資質・能力を身に付けることを目指す。
(2)学校管理下における児童生徒等の事故に関し,死亡事故の発生件数について限りなくゼロとすることを目指すとともに,負傷・疾病の発生率については障害や重度の負傷を伴う事故を中心に減少傾向とすることを目指す。
資料ではこの2つの姿を目指して,施策を論じている。私的考察では(1)に掲げられている「安全に関する資質・能力」の育成に着目したい。
自然災害に関しての学校の取り組みとして読者のみなさんは何を想起されるだろうか。
おそらく「避難訓練」が想起されるのではないだろうか。この避難訓練を通して生徒たちが獲得する知識・技能は,実際の自然災害においても重要な役割を果たすことが多い。さらに近年では避難訓練のような実地だけではなく,自然災害に関する知識を学習する場合も多くなっている。こうした防災教育で得た知識は,災害時の生徒の命を救う重要なものである。
こうした防災教育について我がことのように生徒に認識して学習してもらう必要がある。自然災害で最も危険なことは「自分は大丈夫,無関係だ」という意識である。この認識に対してどのようにアプローチしていくかが教師の役割の1つであろう。先の資料においても「児童生徒等が安全に興味・関心を抱くきっかけは様々であり,教科等横断的な学習を進めることにより,児童生徒等の興味・関心の入り口の多様性を確保することが可能となる。」(p.16)とある。
防災教育について教科等横断的な学習という視点から数学科で何かできるのか。
近年の大災害として想起されるものの1つとして「東日本大震災」があるだろう。この震災での1つのキーワードは「津波」である。津波は1mもあれば,成人男性の致死率100%と言われる恐ろしい自然現象である。この自然現象から身を守るためには,高台への避難しかない。このことに普段の教科教育から接続し,生徒たちの目をそこに向けたい。
ここで目指したいこととしては,生徒が日頃から周囲の高台を把握しようとすることである。この高台を捉えるための視点の1つとして「勾配」があるだろう。津波は河川を逆流するほどのエネルギーがあることから,緩やかな勾配の高台に避難しても危険性は捨てきれないだろう。ある程度勾配がある高台を選択することが好ましいのではないだろうか。
数学科で「勾配」を扱うとすれば,中学校「一次関数・傾き」,高校「三角比・正接(タンジェント)」などがあるだろう。これらの学習内容は,教科書において坂道の傾き(紹介のみが殆ど)や,建築物の高さを観測者からの距離と仰角(見上げたときの角度)から求める問題というものが一般的である。ここで学校周辺の地形図を準備し,いくつかの地点との勾配を求める学習を設計してはどうだろう。特にその地点が教室の窓から見えると更によい。「あそこの勾配はこれぐらいなのか」という実感が湧くからである。
こうした学習を展開することで,生徒たちが防災教育に向かう力が身に付け,また数学自体の有用性も感得することに繋がるだろう。こうした社会的問題の教材化は,子どもたちに必要な資質・能力の育成だけでなく,彼らのいのちを自ら守ることの意識にも間接的に繋がっていくと考える。
数学教師は,数学を指導することを通して,彼らが安全に生きることを支えることもできるだろうと私は考えているところである。
また,今回のアイデアの授業研究をするにあたっては,社会科(地理),理科(地学)との連携があると望ましい。
ネットで「防災教育 数学」で検索すると,興味深い論文が見つかったので,記しておきたい。他にも啓林館などの教材会社も防災に関する授業案をネットで公開している。こうしてみると私的考察で記した数学教師の役割は,現代社会における1つの求められる姿なのかもしれない。
鈴木正樹 他(2017).「防災教育における数学の役割」,『沼津工業専門学校研究報告』, 51, p.69-74.
鈴木正樹 他(2018).「防災教育における数学問題集の開発」,『沼津工業専門学校研究報告』, 52, p.55-58.
倉光大輔先生の実践「自他の命を守る防災教育~防災教育の視点に立った算数科の実践~」啓林館HPhttps://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan//tea/sho/jissen/sansu/201411_2/index.html
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