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takeoka
2021年9月12日 01:49
その少年が語ったところによると、海にはとてもおそろしい生物がいて、夜、ねむらずにいる悪い子を見つけると、その布団をはぎとって食べてしまうらしいというのだ。そいつがどうも『うみぼうず』という名前らしく、少年もまだその姿を見たことはなかったのだが、背の丈は五歳か六歳くらいの子どもと同じくらいの小柄な体躯で、まるで海藻のようなぼさぼさの長い髪の毛が顔じゅうを覆っており、そのすき間からまんまるい目がぎょ
2017年1月10日 10:28
或る朝、ズシンッ! という衝撃音が響き、あわてて飛び起き外へ出てみると、庭に直径二メートルほどの穴が出来ていた。「なにかしら」とのぞいてみると、穴の奥のほうになにやらきらきら光る、まあるい、小さな球体が埋まっている。 私はおそるおそる、それを指先でひょいとつまみあげると、「まあ、ひょっとしたら流れ星でも落ちたのかしら?」と一言。 それから空にかざして太陽の光で透かしてみたり、匂いを嗅いでみ
2017年1月11日 07:46
「誰だ!」 後ろを振り返ると、街燈の光を浴びている自分の姿を映し出した影がそこにいた。 そいつは僕と目が合うと、脱兎のごとく逃げ出した。 逃がすまいと必死になって追いかけると、やつは暗がりの街角を曲がり、大通りへと出ると、大勢の人がごったがえす雑踏へとまぎれこんだ。 ぜんまい仕掛けの操り人形のような、ぎこちない単純運動を繰り返す通行人が行き交うなか、とうとうやつの姿を見失ってしまった。
2017年1月12日 07:40
水面に、大きな光がサッと横切った。何事かと見上げてみると、白亜のエアプレーンがその翼に太陽の光を反射させ、何度も翻りながら、群青色の空のなかを気持ちよさそうに泳いでいる。口をあんぐり開けながら見ていると、そのエアプレーンのあとを追いかけてきた一羽の真っ黒なカラスが、エアプレーンめがけて突っ込んでいった。パァンッ! と、破裂音が響いたかと思うと、エアプレーンは空気の抜けた風船さながら小さくな
2017年1月17日 17:37
シガレットをぷかぷか吹かしているお月さまがいて、青色の煙を辺りにくゆらせている。 私はそれを見て、遠き記憶のなかにある、白髪の髭をたっぷり蓄えた老人の姿を想起させた。「そうかしら? あなたにはそう見えて?」「そうだとも。君にはあれがバッハやベートーヴェンに見えるかい?」
2017年1月29日 20:34
月光のスポットライトが照らし出す舞台の上。美しいお姫さまと、凛々しい王子さまが手をとりあうなか、現れた一人の道化師。くるりくるりと二人のまわりを廻って、手に持っていた大きな布を二人の頭からかぶせると、「さあ、御立会い!」と叫んだ。そしてパッと布を取り外すと、あら不思議、そこに姫と王子の姿はない。「ハハハッ、なにも不思議がることはありますまい、あの麗しいご両人は、ちゃんとおりますぞ。
2017年2月6日 19:06
不意に襲われる懐かしいという感覚は、はるか昔に閉じ込めてあった記憶の澱が、なにかのきっかけで掻き回され、表象に浮かんでくるものである。 だいたいにおいてそれはセピア色に色褪せていて、色彩も、匂いも、物に触れたときの感触など、思い出せることはごくわずかであるにもかかわらず、杭を打ち込まれたかのようにそこから動けなくなってしまうものである。 一般的にはそれを"Nostalgia"という言葉で表現