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旅するウェディングドレス、チェコへ。

キューバ、チェコ、マルタ島、ロンドン…。

これらはわたしがつくったドレスが旅した場所。それはもはやわたしが旅したとは言えないだろうか。言えないか。

でも気持ちはいっしょに旅するような気持ちで花嫁さまとドレスを送り出している。心をこめてつくったドレスが世界中を旅している。そう考えただけでうれしい。わくわくする。わたしの旅するドレスたち。

旅するドレス、チェコへ🇨🇿

旅するドレス

ドレスをつくる仕事をしているわたしは無類の旅好きで、「旅をしてドレスをつくる」という仕事スタイルをずっと模索してきた。コロナ以降、遠い外国まで旅することは難しくなったけれど、旅をする方法はいろいろあるのだということも知った。ドレスがわたしを連れていってくれる。まだ知らない素敵な場所へ。

横浜から神戸へ

お母さまのウェディングドレスをリメイクして欲しいと、わたしのちいさなアトリエにいらっしゃったのは、おしゃれでかわいらしいカップルだった。

古いハイツのちいさなアトリエ

おふたりはわたしの書いた文章を読んで、「大切な母のドレスをリメイクしてもらうなら、ドレスを好きな人がいいと思って」と、横浜からわざわざ神戸まで来てくれたのだ。うれしい。

「はい、ドレスを好きな気持ちにだけは自信があるんです」とわたしは答えた。

お母さまのウェディングドレス

さっそくお母さまのウェディングドレスを見せていただいた。事前に写真を見ていたが、想像通りとてもかわいらしいドレスだった。お母さまが海外でオーダーされたものらしい。

時は1980年代後半。この頃、全世界的にボリュームのあるフリルたっぷりのドレスが大人気だったのだ。

さまざまな種類のレースやフリルがふんだんに使われている。しかし残念ながら、経年変化による黄ばみや汚れが目立つ部分もあった。

はるばるいろんな国や町を経てわたしのもとへ来てくれたドレス。もうそれだけで愛おしい。よく来てくれたね、って思う。

さあさあ起きて。もう一度花嫁衣装になるんだよ。

頭のなかでデザインができあがる

花嫁さまからいくつかご希望のイメージをお伺いし、まずはご試着をしてもらう。レースの付け替えはもちろん、デザインももう少しスッキリしたものにしたいとのご希望。

花嫁さまの希望を聞いて、ドレスを見て、着てもらう。もうその時点でデザインやイメージは頭のなかにできあがっている。

それって特殊能力でも感覚的なものでもなくて、わたしのなかにはちゃんと理論があるんだけど、それを説明するのはとっても難しい。でもお会いして、着てもらったときにだいたいわかるのだ。イメージができたらもうできたも同然だよね。(ほんとうはそこからが長いんだけど)

あとは、花嫁さまのご希望とすりあわせながら、じっさいのドレスを見てその通りにできるかどうかをひとつひとつ確かめていく。

花嫁さまは、ケープスタイルのドレスに変更することを検討されていた。もうひとつ悩まれていた要素もあって、それらを整理して「いいとこ取り」をするかたちのデザインを提案した。他にもわたしからもいくつかリメイクの提案をし、デザインの方向性が決定した。ワクワクと楽しい瞬間。

ほどきながら理解する

まずはドレスを採寸しながらじっくり観察。この時間がとても大切。そしてわたしはこの時間がとても大好き。ドレスが辿ってきた物語に触れられる瞬間。この時間が好きすぎて、ときどきドレスと会話するヤバいやつになる。「うんうん、だからここがこうなったんだね〜、でも綺麗になるからね〜」って。

記録をとったら、丁寧にほどいていく。ひとことにドレスといっても、いろんなつくり方があるし、お直しされた歴史や作り手の意図がわかることもある。わたしはほどきながらそれを理解する。

まずは本体のサイズ直しから着手する。上半身しか変えなくても、ファスナーを外し、いちどトップスとスカートは切り離して作業する。

トップスとスカートはいったんほどいて作業。首まわりのレースも付け替えた。

仮縫いで横浜へ

いちからつくるケープのトワルチェックと、お直ししたドレスのサイズチェックのため、横浜へ。

トワルチェックとは、シーチングなどの本番とは違う生地(トワル)で組んだもので、サイズやデザインの試着チェックをしてもらうこと。

横浜の旧居留地の一角に、「日本洋裁業発祥の地」があるというので、打ち合わせのまえに立ち寄ることにした。

どうやらこの地にかつて英国人ミセス・ピアソンがドレスメーカーを開業したのが横浜の洋裁業の始まりらしい。

「ミセス・ピアソンさま、どうかよいドレスに仕上がりますように」と像をなでなでして、ドレスの完成をお祈りした。

仮縫いはばっちりだった。あとはぐいぐいつくっていくだけ。

レースを縫いつける

ケープを新しいオーガンジーの素材であたらしく仕立て、まわりにはお母さまのウェディングドレスから外したレースを縫いつけた。

上糸を透明な糸、下糸をミシン糸にしてミシンで縫いつけたあと、手縫いで細かい部分を縫い留める。透ける素材なので裏側もきれいに見えるように。

裏側にも糸が渡らないように

部分的に汚れているところには、比較的きれいな箇所からレースを移植して縫いつける。

とても地味だけど、これがけっこう重要な作業で。

こうするだけで、全体の印象まで明るくなるのが不思議。きれいになってしまえば、どこが汚れていたのか、一体どこが変わったのか、それはもうわからない。一度ほどいて直したことも、縫い戻してしまえばわからない。

でもドレスにはわかっている。手をかけてあげるとドレスはちゃんと答えてくれる。

取り外したフリルは

取り外したフリルは、ヒップのボリュームを出すバックリボンコサージュに。

取り外したフリルとレースは、
バックリボンコサージュに。

Before/After

バックスタイル before

バックスタイル after

バックリボンコサージュでふんわり

ケープ  before

ケープ after

プラハのお写真が届く

花嫁さまから、プラハでの結婚式のお写真が届いた。夢のような結婚式だ。

チェコ プラハの教会にて

こんな素敵な教会に連れて行ってもらえるなんて、しあわせ。

本当にドレスが可愛くて、可愛くて!
プラハの町や教会にも合っていました!
脱いだ後も可愛くて思わず撮影しちゃいました。
私は特にケープのレースがお気に入りです。

親もすごく喜んでました!!
せっかくなのでどこかのタイミングで親の前で着れたらいいなと思っております。

ヒロミさんにリメイクをお願い出来て良かったです!
改めてありがとうございました。

花嫁さまからのメッセージより(原文まま)

わたしこそ、プラハに連れて行ってくれてありがとうございました。



どうぞ、末永くお幸せに…。




だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!