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P2 小さな世界の均衡

その日の1日はいつもと同じ、取るに足らない1日になるはずだった。

目覚め、食し、戯れ、再び眠る

14歳の私の毎日はただ、飢えを満たす為の生存本能と乾きを避ける為の惰性的習慣によって成り立っていた。


眠い瞳をこすりながら制服に袖を通すこともなければ、期末試験に頭を抱えることもせず、未来を見通しては希望と憂鬱が混じりあった14歳とは違うのだ。


私は朝とも、昼とも、夜とも言えない時間に目覚め、
朝食とも、昼食とも、夕食とも、いえない食事を作り、その時にあったテレビゲームで遊んだ。

剣と魔法の世界に興じることもあれば、人類が滅んだ近未来に旅立つこともあったし、異世界の住人との交流が織りなす物語の登場人物になることもあった。


それはもう、微笑ましくも憎らしい、子供の行事とは到底いえない。

起動すれば一定のプログラムを立ち上げ、黙々と作業を行う機械のように、私は誰かが創造した異世界の情報処理を淡々とおこなっていた。



そのような生活を送っているから肉体は相当な体積をなしていた。

鏡を覗き込めば、冬眠前の熊のような身体が映り、頬についた脂肪がもうすぐに視界を塞ぐのではないかと思ったほどだ。


しかし、そんな特徴的な体型より気になるのはその表情だ。

四六時中、電磁波を浴びているその顔には一切の光がなかった。

だから私と正面から顔を合わせて話し続ける人など到底いなかった。

話したとしても、そこに私はいなかったからだ。




文字通り、現実に生きることを拒んでいた。

いま、この時に、なるべくピントをあわせたくなかったのだ。





「…どうなのかね…」


「…いるのかね?」


その日、私の意識を現実に引き起こしたのはいつもの無秩序な睡眠サイクルではなく、外発的に生じたアラートだった。


それは陰鬱で小さな世界の秩序が崩る序章だった。





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