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詐欺師のお金の使い道 ~ドキュメンタリー「Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む」なら大金はどう育つ?

 今週はひろゆきこと西村博之氏にはまっていた(既に過去形)のでNetflixドキュメンタリー「Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む」を観てみた。

 こう書くと何がなんだかだろうから一応の流れを説明すると、


 何となくyoutubeでひろゆき氏の動画をだらだら観る
 ひろゆき氏の主張の一つ「マッチングアプリでモテる人はそもそも論リアルでもモテる」
 いま人気のマッチングアプリの会社の人とひろゆき氏の動画も観る

 
 めっちゃ興味を持つ
 そういえばネトフリで気になりつつ観てないままリストの肥やしになってる「Tinder詐欺師」ってあったな
 ひろゆきの奥さんが書いたマンガの到着を待ちつつ観る

 
 大体こんな感じ。

 ちなみに私はねらーではありません。2ちゃんねるのトップページまで行けても検索の仕方からして良くわからず戻ってくるレベル。4ちゃんと5ちゃんの違いも知らない(4ちゃんは海外向けなんだっけ?)。
 でもまとめはたまに読む。最近は広告が多すぎてほとんど読まなくなったけど動画に移行してたのね。今回ひろゆき氏にはまったきっかけがこれ。
 あとスマホを買い替えた時はとりあえずググると該当スレがヒットするからそれを参考に分からないことは解決したりする。何だかんだガチ勢が集まっているので情報収集としては優れたツールだと思っている。
 ひろゆき氏については動画にはまったわりに「黄色のパーカーいいなあ」が最終結論(ダサいダサい言われてるらしいけどいいじゃんって思ってたらご本人も「外に着ていくのはさすがにちょっと」とか仰っていてわろた)。
 あと庵野秀明氏同様、彼女というか細君というか家内というか奥さんというか妻の前ではぐだぐだしててほっこりするね。マンガ面白かったです。


 さて、「Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む」の感想。
 
 まず観る前に、
「申し訳ないけどだまされる方にも多少の非はあるのでは?」
 と早くもちょっと眉が下がり気味だった。
 ドキュメンタリーなので事実を改変せずありのままに(編集による切り貼りはあっても)語れば語るほど「でもなあ……」となってしまうのではないかと。

 実際はどうだったか。

 えっと、本当に申し訳ないけどだまされる方にもちょっと全く非がないとは何ていうか言い切れないんじゃないかなあ。

 でもそれは私が詐欺師の男にまったく魅力を感じないからであって、「この人には惹かれる」と本能が動いたら、まあ、お金も出すかなあ……出せる額なら。などとちょっと揺れてから、いやいややっぱり無いわと苦笑した。
 経済的安定は精神的安定に直結していると私は思っている。直結まで行かずとも大きなつながりはあるだろう。
 だからそこを不安定にしてくる人とは関わりたくない。どういう関係性であっても。
 相手が大金持ちで何かすごい職業に就いていて大層なイケメンでも「お金かして」って言った時点で終了です。私の場合は。だってアンソニー・ホプキンスやマッツ・ミケルセンはそんなこと言わないから。恐らく。たぶん。

 しかしながら、そういう個人感情は別として、仮に私が「好きな人(どういう意味でも)ならお金を貸すよ」というタイプの人間だとしても、このドキュメンタリーは充分に楽しめたことだろう。
 だって被害者の一人は恋愛感情なしで友人だって言うんだもん。Tinderで出会ったのに。わけがわからなくて面白い。
 本気で恋してた別の被害者は「二十九歳でTinder歴七年、いわばTinderのエキスパートよ!」とチャーミングな笑顔で話している北欧出身のイギリス在住女性で、何というのか、それってTinderの経営側にとってはあまり外に出してほしくない情報なのではと思ったり。
 そうでもないの?どうなの?
 ひろゆきだったらここで「彼女は現状リアルでもモテてない上に来年から三十代で市場価値はガクッと落ちるわけだけどまあこの映画に出て顔を売ったおかげで要は同情心で寄ってくる男が出るんじゃないかと思いますけど。今度は古傷を利用されるみたいなの無いといいですけど」とか言いそう。
 そんな彼女たちを手玉にとった男ってどんな人かというと、

 中東のダイヤモンド会社の御曹司(CEO)
 ボディーガードつき
 プライベートジェットで世界を駆け回る
 マメ
 サプライズ好き
 ブランド好き
 超多忙
 職業柄、常に何らかの危険が伴う
 なのにしばらくすると常にお金がなくなる
 多分イケメン(客観的に見ようとしても私には良く分からなかった)

「職業柄、常に何らかの危険が伴うからお金で解決しなくてはならない。
 危険を回避する為に偽造パスポートを作ったり正体を明かさないあれこれをしなければならず、お金がかかる。
 クレジットカードもすぐハックされて無効になってしまう。
 すまないが今の取り引きが終わるまで一時的に貸してくれないか。
 すべてが終わったら一緒に穏やかに過ごそう」

 おおむねこんな手口でTinderで出会った女性からお金をまきあげる。
 ちなみにマッチングしたら速攻で待ち合わせに持っていく模様。

 女性「はじめてのメッセね。マッチングありがとう。私はロンドンに住んでるの」
 詐欺師「偶然だね、今ちょうど出張でロンドンに来てるんだ。明日にはブルガリアに移動してしまうから会わない?もうしばらくはロンドンに来れそうにないし」

 そしてそこそこ有名なホテルのティールームを提示。お茶ぐらいなら……と了承する女性。
 絶妙なトークテクニックで女性の心をほぐし、あたたかい時間を過ごし、打ち解け、また必ず会おうと約束を交わし何故かそのままブルガリアまでお持ち帰りしてしまう……みたいな……

 まじで?としか出てこない。どう考えても怪しいのに。

 ティールームで会うまではわかる。Tinderに登録して出会えるなら出会おうってことだから。
 でもブルガリアには行かねーよ!
 っていう……けど私も過去にロンドンでそんなことありましたねえ。ナンパに適当に付き合ってたら「パスポート持ってきてる?パリ行こう」……まあ、ロンドン~パリならユーロトンネルで一時間強ぐらいだし東京で会ってノリで京都に行く程度の感覚なのかなと思いつつもちろん断った。
 だって国境を越えるもん。もう夕方だったから必然的に泊まることになるし。全額おごるって言われたけどお金の問題ではない。
 「ロンドンではこうだから!郷に入っては郷に従えって知らない?」とかしつこかったので「イギリス人もローマ人も日本人も無いわ。まともなイギリス人に謝れ」って返したら「ファッキンジャパニーズのファッキンカトリックはおとなしくファックした後ファッキン懺悔してろ」みたいにみっともなくわめかれたからあの男は詐欺師にもなれないと思う。
 話を戻すと現実そういうこともあるので、ブレグジット後だろうとEU圏内のブルガリアならちょっと遠出みたいなものなのかなあ……と思わなくもない。感覚として(多分そんなことはない)。
 で、ヒースローに行ったらプライベートジェットがあってボディーガードがいて機内から豪遊してホテルも超一流で、となったらいよいよもって怪しくてしょうがないのに、コロッといっちゃう方が多数なのだろうか。どうなんだろうか。
 嫌味ではなくてよく分からない。マッツ・ミケルセンならプライベートジェット、ボディーガード、一流ホテル(ミカンとこたつと猫のぬいぐるみ付き)はあっても機内で豪遊のイメージがないから尚さらピンと来ない。ホプキンスだと豪遊したらコロっといきそうで怖いのよ。

 それ以前に、「私がそこまでしてもらう価値あるかなあ」というのが先に立つっていうのもある。
 でもティールームの段階で「君にはそこまでする価値あるよ」と断言して確信させたんだろうね。この詐欺師。詐欺師だから。
 お金で買える自己肯定感。やっすー。って言いたいけど正直うらやましい。そこだけは全面的に認める。
 いやいや、「存在を認めてもらえる」なら大抵のことはしても良いとすら思うよ。愛より得がたいもの。
 きっとこれはあれだ、認知の歪みとかなんだろうけど、「愛はあるけど存在は適正に認めない」みたいなことは結構あるからその逆はかなり貴重なんじゃないかなあ。私の場合はお金がないからお金は出さないので詐欺に引っかからないのがまたラッキーなところ。
 それにこの時点ではまだ「金かして」も言われてないので、むしろお金をかけてもらっている状態なので、それで更に「僕は君を肯定するよ……愛してる」だったら、わあ……ますますありえない……けど幸福な思い出になるんだろうなと想像はできる。この思い出ひとつでその後の地獄を生き延びようとする感情も否とは言えない気がしてきた。
 そしてこの詐欺師、「金かして」と言い出すまでは非常にマメに愛情表現を続けてもいる。誕生日に薔薇やプレゼントを贈ったり。「来ちゃった☆」をやってみたり。電話やメールも欠かさず。「金かして」の後ももちろん続ける。
 「そのプレゼントを買うお金があったらお金を返して」って私なら言いたくなるけどやっぱり嬉しいものなんだろう。

 
 と、女なのに女心が今ひとつわからずすみませんと節目がちに観ていたのだけど、ところでその巻き上げた大金(正確な数値は忘れたけど当然のように莫大医な額)、いったい何に使うの?
 答え。
 他の女をだますために使う。

「へえー」
 って知らず声に出してから、
「んぇえ」
 と、また変な声が出た。猫がびっくりしてた。

 
 よくよく振り返ると、
「詐欺師が儲けたお金で何をするか」
 これを真面目に考えたことがなかった。
 平和な人生だったんだな、その意味では。


 その詐欺師はTinderで複数のアカウントを駆使し、あちこちで似たようなことをしていたわけで、そのループを維持するには膨大な額のお金が必要。
 もちろんTinderに訴え出た女性もいたのだろうけれど、トラブルは当人間で解決してね、が原則と推測される。
 警察もあまり積極的には介入しない。要は痴話喧嘩みたいなものだから。
 結局、こういうネタにがっつり食いついてくれるのはマスコミだった。というネトフリドキュメンタリーにありがちな展開。

 邦題の「恋愛は大金を生む」は付け足された部分とはいえ、よくできてるなあと感心した。
 このドキュメンタリーにおいては、そしてこの詐欺師のロジックにおいては、恋愛は大金を生み、大金で恋愛を求める。
 まさかだましとったお金を別の恋愛(ごっこ)(多分ごっこ)につぎこんでるとは思わなかったんだよ……。

 詐欺師のドキュメンタリーだから、被害者が語る赤裸々な事実とか、手口の巧妙さとか、最終的にどう片がつくか、そのへんがポイントなんだろうけど、私は「恋愛(ごっこ)のために恋愛詐欺してました」っていうその使い道にガツンとやられた。
 じゃあ何に使うと思ってたの?と聞かれたら答えられない。なんにもかんがえてませんでした。マジで。
 強いて言うなら、虚栄心を満たすため。
 それが「=恋愛(ごっこ)」だった。とは、本気で予想もしてなかった。

 恋愛って楽しいんだな……。

 と、ちょっと開眼した気がしたけど一晩ぐっすり寝たら「いや、やっぱり面倒くさいだろ」に戻っていたので大丈夫です、私はこの手の詐欺に引っかからない。お金ないし。
 でも世間では「何だかんだ面倒くさいこともあるけど何だかんだ幸せ」である恋愛を、それがたとえ「ごっこ」でも、永続的に、しかも豪華にやっていたくて、そのためだけに目の前の女をだましてお金をかすめ取ることもあるんだなと何だかしみじみとしてしまった。


 これを書いていて思い出したことには、私の人生にも詐欺事件がなかったわけではない。
 たとえば私が生まれた直後、父親が詐欺師に結構な額を巻き取られたと聞いている。ただ母親と父親で言い分がかなり異なるので、肝心の詐欺事件そのものより両親の性分に目が行っていて未だに詳細は闇の中。とはいえ、詐欺という事実が無かったわけではないらしい。
 その詐欺をした人は父をだまして得たお金を何に使ったんだろう、と今はじめて考えている。
 引きこもりの兄を騙るオレオレ詐欺もあったし(普通に引っかからなかったというか引っかかりようがなかった)、最近では我が身のことではないし厳密には詐欺ではなかろうが、うっかり大金を間違った口座に振り込んでしまって、受け取った側は大喜びで使い切った事件もあった。
 何度でも言うが私はお金がないからこそそんな大金は怖くて使えない。
 繰り返しもするが経済的な安心は精神的な安心だから、使えないというより使わない。もらって正当なお金なら使う。ちょうど猫さんのカリカリの買い置きがなくなったし。
 そういえばちょっと前に知人と飲みながら「一億円もらっても使い道に困る。百万でもわりと持て余す」とか話してたんだけど、私の感覚ってめちゃくちゃ小市民なのね……。

 だから恋愛をするなら私はコスパの良い女になると思いますよ。
 別にブランド品がほしいと思わないし、誕生日に何もしてくれなかったらそりゃさみしいけど一人での年越しは風情があって良いものですし(誕生日は大晦日。大晦日です。大晦日ですよー)、一人でいる方が好きだから別に当日のみ有効でもない。三が日が終わる頃にコンビニスイーツ一つでも喜びますよ。安い女だから。
 でもたとえプライベートジェットがあってもリッツを予約してくれていても即日ブルガリアには行かない。安く見るなよ。


 「Tinder詐欺師:恋愛は金を生む」、実質Tinderロンダリングみたいな手口が読めなさすぎて本当に面白かった。
 そしてどう控えめに言おうとしても、女心を弄んだ詐欺師は去勢した上で極刑が妥当だと主張するし(何と本国イスラエルで禁固五ヶ月。現在もどういうわけか豪遊中)、だからといってそんな男に惚れた女がバカとは思わないし、何故ならば彼女たちは彼と会ってお金とは無関係医に相当な魅力を感じたんだろうなと想像することだけはできるから。Tinderというツールの使い方としては正しい道を行ったのだから。
 (その後のあれこれは女性側にも少なからずやはり非はあったとはいえ詐欺は罪として認められなかったため彼女たちは被害額を自分で返済している。つまり責任は取っているので責めるべきことは何もない。同時に褒めることも多分ない)
 実際、しっかり録音されていた個人的なボイスメールとかを聞いても何かどこか可愛げあるもの。詐欺師の中東なまりのゆっくりな英語。流暢じゃないところがいかにも拙くて母性本能をくすぐりそう。
 つまり私にもワンチャン……おっと誰か来たようだ(なけなしのにちゃんスキルで強引に幕引き)


ぜんぜん関係ないけど以前どこかで
「ソーシャル・ネットワークってアメリカ版ひろゆきの自伝だろ」
って書き込みを見てあってめちゃくちゃ笑ったことが。
けっこう好きな映画の一つ。



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