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戦略プロフェッショナル②:全体俯瞰から戦略方向性を決める。三枝さん視点での「プロダクト・ライフサイクル」と事業成長の「栄光のルート」

読書ノート(167日目)
本日も前回に続いて、三枝匡さんの四部作の一冊目
「戦略プロフェッショナル」の紹介です。

本書は三枝匡さんが実際に事業再生をされた実話に基づいた物語で、主人公の名前は「黒岩莞太」となっており、三枝さんが32歳に経験された話です。

より詳しいことや手掛けている事業の概要はこちらのnoteもお読み頂けると理解がスムーズだと思いますので、もしお時間があればこちらからどうぞ。


それでは今回のテーマ「全体俯瞰の詳細」「プロダクト・ライフサイクル」についてです。



・プロテック事業の全体俯瞰(詳細)

「プロテック事業の全体俯瞰」
・着任二年目、黒岩はプロテック事業部の改革に着手
・まずはオーソドックスに「全体俯瞰」から実施
・全体俯瞰の順序は
 業績 → 市場の規模・成長率 → 競合 → 当社の強み・弱み
・後にプロテック事業部のキーマンとなる
 営業企画課長 東郷(30歳)に、この順序で説明をさせる

・幼稚な手法で現状分析まがいなことをやれば、
 あとに続く戦略、行動計画のすべてがまがいものになる

【業績】
・プロテック事業部の製品は大きくA~Eまで5種の製品群に分かれている
・プロテック事業部全体の売上の伸びは年間11%だが、
 製品群CとDの売上高が相当落ち込んでいる
・これらの製品群は技術的に古くなっており、
 今後もさらに売上減少は免れない見込みで「負け商品」
・一方で、製品群A・B・Eの3つの分野は売上はよく伸びている
・特にいちばん有力な製品群Aは、対前年比29%の伸び
・米国プロテック社の技術陣が心血を注いで開発した
 新商品「ジュピター」が今年度に投入された貢献が大きい
・ただし製品群Aの売上29%伸長の内訳を見てみると、
 ジュピターが好調な半面、旧タイプ製品の売上伸長は7%どまり
・これはつまり、製品群Aだけでなくプロテック事業部の将来が、
 すべてジュピターに頼り切る図式
になっていると分析

【市場の規模・成長率】
・市場の成長率の変化からプロダクト・ライフサイクルに当てはめる

・今後の市場規模の予測について複数の調査機関を確認
 したところ内容がバラついており信用できないと判断
・調査機関の数値を鵜呑みにせず、自分たちで大まかにでも予測する

「市場の成長率」の変化から「勢い」を確認し、
 プロダクト・ライフサイクルのどの時期にいるかを推測する
※現在地によって、今後とるべき戦略の方向性が変わってくる

・ジュピターが関わる市場は成長率が毎年上がっており、
 今後も平均30%の伸びが予測されている
・これはつまり、プロダクト・ライフサイクルの
 「成長期のど真ん中」にいると判断

【競合】
「負け商品」の製品群C・D以外
 製品群A・B・Eについて競合分析を実施
マーケットシェアから競合との位置関係を確認

・結果として、ダントツ1位の製品群はなく
 将来の経営を打開してく事業にはなりそうもないと判断

・特に注目している製品群Aは、外資系企業のドイツ化学が
 シェア60%を占めており圧倒的な強者

・自社はシェア20%で二番手の位置づけ
・朗報としては、ドイツ化学はまだジュピターのような製品はなく、
 旧タイプの商品のみで戦っている

【当社の強み・弱み】
・戦略商品の技術優位性・顧客メリットの整理
・新製品ジュピターの技術優位性を知るため、旧タイプとの商品特徴を比較
・どちらも患者の血液検査薬で、G検査と呼ばれる
 リンパ性白血病や肝硬変の疑いを検査するもの
・旧タイプは人が行うため、検査の正確さ、再現性、処理スピードが課題
新製品ジュピターは、機械化することで
 高い作業効率と検査結果の正確性の両方を実現
・旧タイプより正確なデータがわずか2時間で出てくるという点で
 ジュピターの有利性は明確

・ただし、新製品ジュピターは機械の導入に450万円、
 自動化オプション等をつけると1250万円の初期投資が必要
 (旧タイプは人が検査をするため機械導入などの初期投資は不要)
・病院側ではG物質という一つの検査項目だけのために、
 この金額の投資判断は容易ではない
・さらに、病院側での検査を自動化したい意欲も必ずしも高くなく、
 現状の人手の検査で十分だと考えている病院も多い状況
・医者にとってG検査は「興味のある検査だが結果が出るまでに
 約2日かかるため、ついでにしかやらない、おまけの検査」という印象

・結果として、昨年1年間では7台のジュピターを販売したことを
 営業部は誇らしげに話している様子


・黒岩莞太の視点と戦略方向性

以上の全体俯瞰を基に、黒岩莞太は自社が今後とるべき戦略方向性を整理していきます。当時の感想も交えながら、以下に黒岩莞太の心情や考え方を整理してみました。

黒岩莞太の視点と戦略方向性
たったの7台?ドイツ化学の壁を突き破るにはほど遠い状況」
「最大のライバルであるドイツ化学はジュピターと同じような商品を、
 いつ投入してくるだろうか」
「ジュピターは医者の今までの固定概念を打破できる性能を持っている」
「メリットの理解と価格面の『経済性』が引き上えば、
 旧タイプからジュピターへの切り替えが一気に進んでもおかしくない
「新製品ジュピターはプロテック事業部の市場ポジションを
 飛躍的に向上できる救世主の可能性がある」
「しかし今のところ、その”千載一遇のチャンス”は社内では
 見過ごされそうになっている状況」
「ドイツ化学や日本の競争メーカーが類似品を発売した時点で、
 このチャンスの窓は閉じられてしまう。残された時間は僅かの短期決戦

黒岩莞太の全体把握の流れを改めて整理すると、
業績 → 市場の規模・成長率 → 競合 → 当社の強み・弱み
の順番で分析し、今後とるべき戦略を考えるというもの。

それぞれポイントとなる視点は…
【業績】
売上高の伸長から「注目すべき製品群」と「負け商品」を特定
・形勢逆転を期待できる粗利益率が高い「特に注目すべき製品」を特定

【競合】
マーケットシェアから自社の位置づけを確認
ダントツ1位が自社、競合とも存在しているかの確認が重要

・トップ企業の王道の「勝ちパターン」であり「栄光ルート」
市場の成長期のうちにダントツ1位のポジションを確保できれば、
 市場成長率が落ち着いた時点で収益が安定し「金のなる木」が完成
・この資金源を活用して第二のヒット商品づくりに再投資する
・このサイクルが回る組織風土を作り上げた企業こそが
 エクセレント・カンパニーと呼ばれる

黒岩寛太はプロテック事業部の全体把握から「新製品ジュピターに千載一遇のチャンスを見い出しつつ、でもそれは圧倒的1位の競合企業ドイツ化学が類似品を発売するまでの、残り時間が限られる短期決戦が勝負の分かれ道」という戦略の方向性を導き出しました。

この後の展開も非常に面白いので、ぜひ本書も読んで頂きたいです✨
(この面白さがこのnoteで少しでも伝わっていると良いのですが…😂)



・三枝さん視点でのプロダクト・ライフサイクルについて

プロダクト・ライフサイクルの理論については、多くのビジネス書でも紹介がされていますが、三枝さんは「この理論を決して馬鹿にしてはいけない」
「経験がある人も基本に戻って、『完璧に』理解することをおすすめする」

と本書でも語っているほど、競争戦略の根幹となる重要な考え方です。

本書では以下の図で紹介されています。

プロテック事業部の製品群Aは市場成長率が増していて、今後も年平均30%伸長の見込みから
成長期にあるはずだと黒岩寛太は判断しています

ここでの重要な学びは、導入期・成長期・成熟期で競合に勝つための要素が変化していくというもの。

【導入期・成長期の初期段階】
 製品内容による優位性がカギ、外部からの参入もしやすい

【成長期】
 どの企業も似たようなものを発売し始めるため、
 営業体制やアフターサービス網など、製品内容に加えてサービスを含む
 「面展開」
での蓄積が勝負の決め手

【成熟期・衰退期】
 価格差による戦いが始まり、コスト競争に突入
 販売量を増やせるだけの資金量の戦いでもある

ライフサイクルの最終段階では「複合的優位性」が支配し、
新しい優位性を打ち出す余裕は少なくなり、互いに攻め所を欠いた
「いったい何が要因なのかはっきりしないのに、とにかく差がついたまま」
という状態。結果としてこの段階でマーケットシェアはほぼ固定化する
→この段階でシェアトップの企業は「勝ちパターン」となる

「戦略プロフェッショナル」 P160-161

このシェアトップの王道の勝ちパターンとなる栄光のルートを記したのが、以下の図です。(合わせて、ドンジリのルートも紹介されています)

A:導入期、B:成長期(初期)、C:成長期(中期)、D:成長期(後期)、E:成熟期以降
となっており、プロダクト・ライフサイクルの時間軸が縦軸で、上から下に時間が進んでいます。
横軸は競争ポジション、つまりマーケットシェアです。
これはまさに、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)ですね。



・より深く理解をしたい方向けに、三枝匡さんのWEB記事

プロダクト・ライフサイクルと事業成長の栄光ルート・ドンジリルートについては、三枝匡さんご自身が書かれたWEB記事がありますので、より理解を深めたい方は、ぜひこちらもご覧ください。


ということで、今日はこの辺で!
それではまたー!😉✨

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