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18章 車椅子はもう免許皆伝です(1)


イチョウ1人の片付け

人ひとりが逝くと、後始末は膨大なものになる。
話は少し前に戻り、お盆に急逝したイチョウの夫、水田スイデンうんのそのの片付けのお話。
すぐにやるべき公的手続きは、娘・英子が役所を回り大部分を済ませた。その他スイデンに関する全ての事務手続きの範囲は広く、イチョウ1人では到底対応出来ない。ほとんどが電話と郵送、インターネットで出来る事を確かめ、英子は一旦帰京した。その中でイチョウが何とか出来たのが、スイデンの部屋の整理と片付けであった。
出来ると言っても、杖を突きながらの作業で、1時間も続けると草臥くたびれ果てる。1時間おきに自室のベッドにバタンと仰向けに休憩した。しばらくするとムクっとまた起き出して作業に取りかかった。1日幾度となくこれを繰り返した。涙を拭いながら片付けですぐにスイデンを思い出してしまう。その様子を遠くから見ていた片口施設長が
「お手伝いしましょう」
と親切に申し出た。しかしイチョウは
「ゆっくりと時間を掛けて1つひとつのスイデンの品に別れを告げたい」
と丁重に断った。


山のように積まれた物に囲まれ途方に暮れる

スイデンはおしゃれで帽子とベルトを多く持っていた。クローゼットには、スーツが何着もぎっしり詰まっていた。書道台には分厚い辞典類、筆、硯、半切の紙等が残されており、イチョウは、その中で書道辞典を貰い受ける事に決め、そっと脇へよけた。イチョウ1人ののろのろの片付けでは、中々はかどらない。とうとう、次の家賃が発生する時期を超えてしまった。しかたなくイチョウは大括りに仕分けがした所で、プロの業者に頼む決心をした。それは9月半ばを過ぎようとし、もう秋風が吹く頃になっていた。
業者は素早く来館し、慣れた手つきで燃えるゴミ、衣類、書籍と分別し短時間で運び出し、実にに手際が良かった。イチョウは念のため同時に鑑定も依頼したが、宝物は何1つも見つからなかった。スイデンお気に入りの自宅から持参の螺鈿らでん細工の衝立ついたてを捨てるに忍びない思いもあったが生憎と高額買取とならなかった。スイデン本人もわかっていたのか、台に乗せサイドデスクに利用していた品だ。

→(小説)笈の花かご #47
18章 車椅子はもう免許皆伝です(2) へ続く






(小説)笈の花かご #46  18章 車椅子はもう免許皆伝です(1)
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2023年10月21日#1 連載開始
著:田嶋 静  Tajima Shizuka
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