見出し画像

21章 落穂拾い (1) コックスバザールにて(2024.7改)

中国の非道・卑劣な姿勢にビルマが直面するのは、これで2度目となる。
最初に直面したのは、旧ミャンマー内でクーデター自体を全面的に支持・支援していた時だ。
「絶対に信用できない国」と断定し、ビルマの唯一の仮想敵国としての地位を確固なものとした。
更に今回、パキスタン経由でタリバンの支配地域に対して各種弾薬・弾丸、そして携帯兵器の数々が運び込まれているのを、米国の偵察衛星のみならずインド、バングラデシュ(?)の反パキスタン陣営から情報を続々と提供される。

中国がタリバンの背後で暗躍しているのが誰の目にもハッキリする。

兵器の費用を一体誰が負担したのか?と念のために確認したくなる程の物量が、タリバンの勢力圏内に届き始めている。タリバンには到底払えない額面となると誰もが察する物量だった。
可能性があるとすれば、タリバンが政権を担った場合、借款として毎年返済するくらいだろう。中国が意固地になり、”絶対に負けられない戦” と捉えているのがありありと分かる。

アフガニスタンが注目を集めている状況で、兵器類を輸送している状況はメディアでも知られてしまう。それを承知で動いている中国に非難の声が集まろうが、一向に構わないのだろう。しかし、暫定政府軍、米軍にASEAN軍はその報を逆手に取る手法をメディアに申し入れ、受理される。

「不測の事態が発生して、仮に開戦となっても、タリバン側の増強された軍事力を見て、アフガン正規軍が怯んで攻撃を止めるかもしれない。我々はそう考えたに過ぎない」等と、その種の訳の分からぬ論調を中国がするかもしれない。

米軍は、情報を提供してくれた各国、各報道機関に謝意を伝え、中国がタリバンへ兵器を提供している事実を公表しないように要請する。もし、交戦となった場合、タリバンと中国の野心や意気込みといったものをしっかり打ち挫いてから、軍備を大幅に増強したのに、無駄に終わった様だと報道するよう要請する。
「米軍が急に強気になったようだ」スタンスの変化を察したメディアは、米軍の要請を受け入れる。勝利を確信している様に見えた。
それもそのはず、まもなくビルマの視察チームがアフガニスタン入りするからだ。

***

「やや遅れて、モリもダッカに到着したようだ。バングラディシュ政府との会談内容はまだ分からないのか?」

「公表していませんが、バングラ内のキャンプ地からロヒンギャ族を自国内に移動する、帰国プログラムだと推察されます。これでビルマはイスラム教徒の関心を引きます。ビルマ新政府は宗教に寛容な国だと。その状態でアフガニスタン入りするのですから、プラスに作用します。モリが考えそうな話です」
イスラム教徒のロヒンギャ族をビルマ領内で再び受け入れる寛容さをビルマが取れば、難民キャンプの同族を支援してきた、アラブ諸国を始めとするイスラム系の国はビルマを見直す・・かもしれない。アフガニスタンもイスラム教徒が大多数を占めるが、世界中でも珍しい急進的過ぎる思考のタリバンを支援するのは、中国とパキスタンだけだ。国際イスラム世論の形成、効果的な手段と言える。
では、何故イスラム世論を味方に付けようとしているのか?実はビルマは開戦に前向きなのではないか?とする見方も中国政府内に出始めていた。それを唱えているのが、外交部の日本分析官の劉だった。
「軍が公然とタリバン支援を始めたのは愚策だ。米軍に先制攻撃の機会を与えたに等しい。タリバンは壊滅的な被害を受けて、非難の矛先は我々にも及ぶだろう。万が一開戦となっても、早期に和解や撤退をする事で被害を最小限に食い止める役割を中国が実現できれば、非難も小さなものとなる。私は強く提案する。アフガニスタン入りする前に、モリにコンタクトして彼の本意を聞きたい。中国がビルマに歩み寄り、譲歩の姿勢を見せれば戦いの拡大は防げるかもしれない」

劉は上司である外相に直訴し、バングラデイシュ入りを認められる。

***

宿泊中のダッカ市内の外資系ホテルを出て、通りの向かいにあるファストフード店に朝食を食べに行く。世界各国にあるハンバーガーショップで、お国柄を示すカレーのモーニングメニューを頼む。
娘たちと一緒でなければ、ダッカ市民が利用する飲食店に入るのだが、妙な部分でブレーキを踏んでしまう。
また、杏と翼がダッカでの滞在を伸ばそうとするのでは?・・そんな気もしていた。
「60年代とか70年代のインドって、こんな感じだったのかも!」と、到着初日はダッカ市内の各所を撮りまくっていたし、昨日はビルマ国境に隣接する難民キャンプで、プロ顔負けの映像を撮っていた。被写体としてのバングラディシュが2人の肌に合ったのだろう。レフ板を持ち、照明装置をバックパックに背負った彩乃は何処に行っても可愛がられて、「お尻を触られた!」と憤慨している。「先生に消毒して貰えば大丈夫だよ。もの凄く良く効く注射があるんだけど一緒に試して見ない?」と杏と翼は、表向きは初心な娘を装っている彩乃を、揶揄っていたらしい。

アジアビジョン社の取材チームと桜田は、既に市民で賑わう美味しい定食屋さんを見つけて、朝晩と通っている。
ダフィー副大統領に至っては、昨夜は散々英国留学時代の曲を歌い、どこから手に入れたのか、闇ルートの酒を入手し、飲み過ぎて吐いていた・・朝食は無理で、まだ寝ているだろう。

娘達とファストフード店に入るのは教師を辞めてから初めてで、何気に新鮮だったのだが、昔話をする娘の所為で憂鬱なものとなった。

「教師と女子高生って組合せだった頃、姿を晒すのはマズイから、ラブホ内でオーダーできるものを食べてたんだよね。こんな風に誰かさんと堂々と歩ける様になったのは養女になってから。養女って言っても、私は・・翼もだけど、成人してないから書類手続き出来ない“なんちゃって養女”。つまり、単なる隠れ蓑に過ぎないペラっペラなもので、実態は愛人ていう立場なのだよ」
と杏が人をジト目目線で見ながら呟く。その呟きに翼と彩乃が笑いながら、ハンバーガーをパクついているという構図に、暑いダッカで背筋の寒い思いをしていた。
そんな間柄の4人組を日本語を全く理解しない店内のバングラディシュの男どもが盗み見し、養女3人を品定めしている。店内はそんなシュールな場になっていた。

昨夕に、産業大臣と国土交通大臣と、最高顧問補佐の山岸がビルマへ帰って行った。

今日の午後はダフィー副大統領・国防相と桜田元外交官と共に、アフガニスタンのカブールへ向かう。ビルマ国旗の彩色をポイント的に使っているビルマ政府専用機・・と称しているが実はレンタル機のサザンクロス航空のB 747に、アジアビジョン社の取材チームと小此木記者も乗り込む。

杏と翼が撮影する映像をスタッフたちが褒め、アフガニスタン内で撮る映像も番組で利用する要請を、ちゃっかり取り付けているらしい。

ホテルに戻って独りデスクワークに臨み、約束の時間にロビーで集合し、空港へ向かう。

出発までの間、娘たちは桜田達とチャイ屋でダッカの砂糖と油まみれのデザートのあれこれを食べて、熱いチャイを飲んでいたらしい。彩乃も楽しかった様なので、だったらカブールではそうしようと決める。そもそも彼の地にファストフード店など無いだろう。
3000人相当のアメリカ人がカブールに滞在しているので、ひよっとしたらマ○ドナルド位はあるのかもしれないが。 

アフガン滞在中は武器を携帯するつもりで居る。タリバン兵の様にAK47を背負い、拳銃のホルスターを腰に装着して傭兵を気取る。日本人らしからぬ姿に彼の地の人々はどんな反応をするだろう。AK47も銃もレッドスター社が買収したビルマの銃器メーカー製で、ロシア製とイスラエル製の銃を、それぞれの工場でライセンス製造している。購入時に試し打ちしたものを入手しており、チャーター機内に積んでいる。バングラディシュでは使う必要がないので、降ろさずに積んだままでいる。

空港で手続きを済ますと、桜田が娘達と撮影スタッフとダフィーを連れてラウンジに消えてゆく。

朝食を食べていないダフィーは別として、娘達の胃袋にはまだ入るのだろうか?余分な脂肪は豊かな胸に反映するに違いないと娘たちの後姿を見ながら思っていると、娘達をさりげなく追うプロの存在に気付く。おそらく各国の大使館員やエージェントの類だろう。チャーター機には搭乗できないので、空港内での監視に集中しているのかもしれない。ダッカ市内でも監視されていたのだろうか?と思いながらショルダーバッグからAIタブレットを出して、桜田と杏と翼にメールを送る。「グレーのTシャツ眼鏡の褐色肌と、上着を着ていないストライプタイの白シャツ東洋人が付いて行った」と。
杏と翼は合気道を習っており、黒帯に到達している。桜田は養女達に感化されて外交官時代は大田区のボクシングジムに通っていた。ビルマに拠点を移してから鍛錬の場を探している様だが、ビルマにどんなものがあるのか知らずにいる。タイならムエタイが候補になるのだろうが・・ダフィーも居るし、空港内で事件に巻き込まれる事もない。

「モリさん、こんにちは」突然声を掛けられて振り向くと、中国国境で会談した一人、劉さんだった。咄嗟に名前が出てこなかったが、相手から名乗ってくれたので事なきを得る。同時に、やはり中国にマークされていたのだと知る・・

「このタイミングで現れたのは何故です?」
挨拶もそこそこに笑みを浮かべながら核心に切り込む。

「カブール行きの直行便が無いので、我々の到着は遅れます。お会いするなら今しかないと、モリさんが一人になるタイミングを狙っていました。本題ですが、明日、明後日でご都合の良い時間があれば、カブールで是非お会いしたいのです。如何でしょう?」 
劉氏を見ていると日本人だと錯覚する。留学の4年間だけでここまでになれるものだろうか、それとも北京に養成所の様な施設があったりするのだろうか・・

「確実なのは、2日とも夕食後ですかね・・」 娘達には悪いが、どうしても安全保障が優先される。こればかりは仕方が無い。

「ありがとうございます。明日、私は女性を一人伴ってホテルに伺います」         
女性?中国で女性というと、どうしてもトラップ系を連想してしまう。

「我々の宿泊先はご存知ですか?」
現地の中国大使館が把握しているのだろうが、念の為に聞いてみると、劉氏は頷いた後、発言する。
「ビルマはカブールに大使館を置かれるおつもりですか?」             
「その必要性を私は感じていませんが、今後の某国次第でしょうね・・あ、私は副大統領とは別行動をします。日本大使館員と行動を共にしますので」

「米国大使館ではないんですか?」劉氏が驚く。「ええ。日本のNGOを訪問したりしますので・・」郊外で殺害された仲村氏が興した、井戸掘りが得意なNGOだと察したのだろう。劉氏がしたり顔で頷いている。

「アフガニスタンと日本となると、どうしても視察対象が限られます。娘たちの社会勉強と、日本のメディア向けの取材ネタです・・あの、出来ればですが、その組織の訪問時は避けていただきたいのです。献花したり、故人を追悼する予定でおりますので」 
そう煙幕を張ってみる。
NGOはアフガン内に展開しているので、独自の情報を彼らが持っている可能性も捨てきれない。それに、日本の大使館員よりよっぽどタリバンの情報を掴み、アフガニスタンの人々の心象を知っている。モリにとってはその情報の方が重要だった・・
「分かりました。控えるよう徹底いたします」
劉氏はそう言って立ち上がると、一礼して群衆に紛れこんだ。本当に控えてくれるのかな?と、半信半疑だったが。

***

2日間バングラデシュ政府の大臣と会談したダフィー副大統領兼国防相と国土交通省大臣と産業大臣は、ミッションを無事にこなして成果を上げた。先ずは、バングラデイシュ政府への謝意を伝える。これまでロヒンギャ族の難民受け入れを認めてくれた返礼として、ビルマ産石油とガスの提供を申し入れた。
続いて、東南アジア各国で推進しているプルシアンブルー社の農業支援プログラムのバングラディシュの農地での適用を説き、首都での同社支店の設立を要請し承認された。
タイ政府との間で国際列車開通に合意したが、同路線をバングラデイシュにも延線して、国際列車を共同運用しようと持ち掛け、合意される。

昨日の両国会談中にモリと桜田と養女3人、アジアビジョン社の3人のスタッフと共に、ビルマ国境に接する街、コックスバザールを訪れる。

100万人以上のロヒンギャ族が滞在して居ると言われるキャンプ地を視察する。国連をはじめ各国の赤十字と、イスラム国家の赤新月社の支援を受けている秩序あるキャンプだと実感する。

キャンプ内を視察中、養女で大学生の杏と翼、そして中学生の彩乃は絶句する。訪れた学校で掲載されていた生徒が描いた絵の数々が児童が描く内容では無かったからだ。多くの絵が旧ミャンマー兵に虐待、惨殺されるロヒンギャ族を表現していた。自分よりも小さな子がこの光景を当たり前に見ているという現実を、彩乃は受け止められずに、脚がすくんでしまい、モリに背負われる展開となる。

同行していたアジアビジョンの取材クルーは、中学生の彩乃の視点で番組を構成しようと思い立つ。カメラ慣れしていない彩乃の撮影と質問を杏と翼が請け負い、取材クルーは小此木記者のレポートと取材に徹する事となり、行動を2つに分けた。
「求めるモノが同じとは言え、伝える手段と方法は千差万別だよね」
蜂須賀 翼がモリの背中に居る彩乃の頭を撫でながら言う。
「映像自体はアジアビジョンの社員の発想だろうけど、撮影するのは君たち自身だ。どれだけのものが撮れるか、連中の鼻を明かしてやれ」 
背負っている彩乃の尻を撫でながらモリが言う。

「そのイヤラシイ手を私が撮って放映したら、センセは単なるセクハラ親父になっちゃうよ」杏が笑う。

「彩ちゃん、とは風呂に入りあう仲なんだから、いいんだよ」と言いながら尻を揉む。
「だから、その揉み方だってば」と翼が笑う。
彩乃は首にしがみ付いて、入浴時の様に喜んでいる。

難民キャンプという非日常的な空間であり、異質で異常とも言える環境で、下世話な話題を盛り込む。今夜は3人のケアに徹しようと思っていた。

「彩ちゃんも、一線超えても良いタイミングなのかもねぇ・・」杏が言うと背中で何やら動いている。彩乃が抱きついている腕に力を入れ、背に胸を押し付けてくる。
「本人も強く望んでいるようだし、近々開通式を祝うとしようかね。で、彩ちゃんを抱いたら、何人目の処女になるのかな?」
杏が指を折って数え初めている。彩乃の動揺を背中で察すると、彩乃を背負ったまま2人と少々離れて道を進みはじめた。

***

先生は、ビルマの人達、東南アジアの人達の為なら立ち止まろうとしない。
何を考えているのか想像も出来ないけど、直ぐに結果を出すので、皆で「そうだったのか」と納得する。

どうしてダフィーさんたち、ビルマ政府の人達が難民キャンプにやって来ないのか?、それもキャンプにやって来て理解した。ロヒンギャ族の人達から見れば、ミャンマー政府もビルマ政府も、まだ同じ穴のムジナにしか見えないのだ。だから、“クーデターを阻止した人物”が単独でこの地にやって来る必要が有った。

「今度こそ、故郷に帰れるかもしれない」と人々に思って貰いたかったのだろう、先生は難民たちに希望の灯を灯す為に、やって来た・・

ロヒンギャ族の子供達が物凄く明るいので驚いた。レベルこそ、ロヒンギャの人達とは異なるけど、自分も同じような目に有っていたから良く分かった。
彼らにとって、このキャンプ地は“安全圏、セーフティゾーン”なのだ。私の“安全圏”“憩いの場”が杜家であるのと変わらない。誰も子供たちを害さない。だから、嬉しい。
笑って、唄って、叫んで、友達たちと遊べる、そんな日常を享受できる。難民キャンプなので粗末な掘っ立て小屋ではあるけれど、そこには“信頼できる”家族が居る・・。

「・・このキャンプの子供たちの中には、母親や姉をレイプする兵士を見た子もいるはずだ。でもその光景を子供たちは絵として描いていない。ひょっとしたら、彩ちゃんよりもっと歳下の子も被害にあったかもしれない・・。
ロヒンギャの人達はイスラム教徒だから、仏教徒であるビルマ族の子を宿すのは、2重3重の屈辱となる。残念ながら妊娠してしまった女性は、おそらく堕胎していると思うんだ・・」
私が処女ではないのを気遣って、杏ちゃんと翼ちゃんから離れてくれた先生がそう語り出す。

「戦争と同じです。同じ国の人達に攻撃される・・私は家族から・・父に攻撃されましたけど、毎日が戦いの様でした・・・あ、ここで降ろして頂けますか? 」
私がお願いすると、その場に屈んで、ゆっくりと背から下ろしてくれる。
顔の表情を探る様に真剣な顔で私を見て、私の両肩を2度叩いてから、笑った。

本当に心配してくれているのが分かる。それが嬉しかった。丘の上から、キャンプ小屋の明るい色の屋根を2人で見おろしながら、先生は話し出した。
「ここのロヒンギャの人達全員を、アラカン州で受け入れる。女性専用のケア施設もちゃんと用意した上でね。ビルマの国外に逃げたロヒンギャ族が二百万人とも言われている。一部は群馬の伊勢崎に百人ほど居るらしい」

「ケア施設って・・ビルマ社会党の発案ですよね?」
「そうだね・・女性被害者が何万人に及ぶのか、それも今後の話になるんだけど、中には被害を口にしない人たちも居るんだろうと想像してる。家族や恋人には内緒にしていたい、知られたくはないっていう人も結構居るんじゃないかな・・」

「お姉ちゃんみたいに?」
そう言ったら、先生の顔が驚いたような表情になって、そのままゆっくり頷いた。
姉のサチも亡父から性的虐待を受けていた。小学生だった私は最初は触られ続ける日常で、中学入学後に被害を受けたが、姉の場合は約3年、長すぎる・・

「お母さんは妊娠が分かってから、凄く明るくなったんです。セックスは子を産む大事なプロセスだっていうのを私は理解できていなかったんだと思います。虐待されていたからなんでしょうけど・・」
虐待を受けていたのを先生に告げたのは年末だった。姉が処女では無かったのは分かっていたようだが、実の父親がその相手だったとは先生も全く想像していなかった・・

「事実を無かった事に出来るのは創作の世界に限られている。現実の世界では残念ながら無理なんだ」
「先生に抱いてもらって、私は過去を払拭できた、ってお姉ちゃんは良く言います。彩も早い方がいいよ、お願いしなって口癖のように2人で居る時は言います。それをふわりとオブラートに包んだのが、私が先生にあった最初の日のお姉ちゃんの発言でした」
「亡くなったお父さんと入浴してた。一緒に寝てたって話だったね・・」
「はい・・」

「サチは慌てすぎなんだよ、そもそも、彩はそこまで思っていないでしょ?」

「でも、性行為自体は知ってる訳で・・」

「たとえ知っていたとしてもだよ、それはレイプであって性行為では無い。君には、お父さんから避ける術は残念ながら無かった。回を重ねて性の快楽を多少なりとも知ってしまったとしても、そこに男女間の愛は無い。存在したのは、父親の歪んだ欲求だけだ・・」
「そうなんですけど・・」 私は焦っているのかな?顔が熱くなってきた・・

「話をロヒンギャ族の女性達に置き換えるけど、彩ちゃんよりも年下の女の子で、ビルマ族の兵士や男達から被害を受けた子も少なからず居ると思う。でも、殆どの子は黙っているだろうし、仮に親や兄弟が知っていても触れずに居るんだろう。その子の未来を考えたら、"無かった事にしよう"って考えるからだ。
だから、兵士がロヒンギャ族を虐殺している絵は有っても、女性や少女が襲われる絵が何処にも無かった。あれは現実では無かったと割り切ったんじゃないかな。
・・・あのね、君達姉妹の不幸を知っているのは幸いにして僕だけだ。お母さんも志乃さんもひょっとしたら気付いているのかもしれないけど、2人とはそんな話をしたことは僕は無いんだけどね。

だから、誰にも知られないまま君たちは未来を過ごす事が出来る。彩ちゃんは、これから沢山の男性に出会う機会もある。何も慌てる必要はないんだよ」

「私たちには絶対に忘れられない記憶ですよ」 先生に激しく抱かれたい。先生じゃなきゃイヤだ。そう言いたいのに、“何か”が邪魔をする。
自分ではそう言いながらも、心の奥底では“あれ"は無かった事にしているのかもしれない

「あのさ、どうして彩は教えてくれたの?サチは最初は同級生で試したって、笑いながら言ってたけど」
「それは・・お姉ちゃんが細かく説明してくれるからです、先生は凄い上手で、直ぐに頭の中が真っ白になるから、絶対早い方がいいよって・・」

「あのね。男女の間には相性っていうのがあるらしい。お互いが試して見たら、ダメだった、あっちゃー、失敗だったー、ていうケースも少なからずある。そりゃそうだ、地球上にはこれだけ大勢の人が居るんだもの」

「先生にもそういう経験がある?」 
「・・有ったかもしれないねぇ・・」
「そうなんだ・・でもお母さんも志乃ちゃんもお姉ちゃんも、凄い満足してるって3人共言ってますよ」
「その手の話題を君に聞かせるのは、どうなんだろうねぇ・・」              

「私が居る場では勿論しませんよ。私が眠ったと思ってるんでしょう。微睡んでいる時に何回か聞いたんです。先生の話題なので目が覚めて寝たふりしています。私も性行為自体は知ってるんです。だから気になっちゃって・・。
酔っぱらってる3人の間では大概そんな話になります。翔子ママも里子ママも、勿論、蛍ママも鮎先生に養女達もみんな先生との夜に満足していて・・その手の話をアユちゃんも寝たふりしながら同じような話を聞いているんです、私たちが試してみたくなるのは当然です・・」 
そこで実の娘を絡めないで欲しかった。彩乃のケースが歪んでしまう・・

「試してみたいって言われると、凄く違和感を感じるんだけど・・」

「私だって先生の赤ちゃんを産めるんです。30前に第一子が産めればって思ってます。それまでお姉ちゃんと同じ様に接していただけると凄く嬉しいです」
「そういうのをさ、誰から聞くの?まぁ、慌てる必要はないよ、君はまだ中学生なんだから」
「でも、杏・樹里の姉妹の初めては中3と中2です。玲ちゃんは高1でした」

「誤った情報が広まってるようだね・・実際は3人共、その1年後位なんだ。ツマラナイ賭けをした僕が悪いんだけど、それに負けちゃって、已む無く同意させられたんだ、その時の状況を残念ながら全く覚えてないんだけどね・・」

「翔子ママが夜勤の日に、玲ちゃんが風邪ひいて、助けてって先生にSOSして、慌てて先生がやって来たら、杏樹里の姉妹が何故か台所で調理をしていて、元気な3人にビールを沢山飲まされて、明日は祝日だから杏・樹里も泊りだし、アルコールを飲んだ先生ももう運転できないから泊る流れになって、3人の裸を見て興奮しなかったら、先生の勝ちだけど、興奮したら、先生は私達の奴隷だよ・・って感じのゲームが始まりました」

「3人の誰が、教えたんだろうねぇ・・・ あいつら、お仕置きだな・・」
「ママ達も含めて、みんな知ってますよ。 蛍ママもアユちゃんも勿論です。実の娘からの同じような手に注意した方がイイかもしれません・・」

“ミンナシッテマスヨ”・・・いい天気だったが、その言葉に目の前は真っ暗になっていた。・・・酔っていようが何だろうが“行為”が生じたのは事実で、「アウト」だ。当時は教師だったので猶更都合が悪い。

彩乃がにこやかな顔で頷いている・・性を知っている頭でっかちの中学生・・。もし彩乃が“一線”を越えるような事態となると、あゆみと王女、そしてマイにも影響が及びかねない・・それが何よりも引っ掛かっていた。

「高校生4人の純潔も、順当に年末のブルネイで喪失しました・・」
「あー、本当に申し訳ない。実はまったく我慢できない、ただのエロオヤジなのかもしれない」

「いいじゃないですか、お姉さん達はみんな幸せそうですし、何の問題もありません。だから、私もその一人に加えて欲しいんです。皆さんと同じでいいんです、それ以外に私は求めません」
「それ以外って、何?」

「例えばですけど、指輪が欲しいとか、服が欲しいとか・・要は物欲面です。堅実なママ達だから、娘たちも物欲は希薄傾向ですけど・・」
「今回の杏と翼の物欲は凄いよね。ラングーンとダッカの免税店が異様に安いって言って、買わされたし。それに、2人の旺盛過ぎる性欲にも少々困っているんだけどねぇ・・」

「先生はリクエストにはちゃんと応えてくれるって、2人だけじゃなく、みんな言ってますよ」「だから、どうして知ってんの!」もう、笑い返すしかなかった。

「アユちゃんは1年間は富山ですから、暫くは黙っていられます。後はマイをどう誤魔化すかですが、そこはお風呂を活用するのがいいかもしれません」
「お風呂って?それに、マイと彩は中学卒業まで富山でしょ?」

「いいえ。私は高2のお姉さまがたと一緒に沖縄に転校します。多分、マイもシャン族のママ達に付いてくるでしょう。マイにはお風呂の入浴の経験が無いので、いつまでもカラスの行水のままです。だから・・」
彩乃が立ち上がって、抱きついてくる。

「先生じゃなきゃ、駄目なんです・・」
目も合わせずに腕の中で何やら一人で呟いている。
年末の実の娘と同じ物言いが物凄く気になる。原案・オリジナルは、全て玲子で、各人がゲン担ぎでもしているのか、ことごとく同じセリフを使う。

彩乃の頭を撫でていると、状況を全く分かっていない杏と翼が、ニタニタ笑いながらゆっくり近づいてくる。
2人とも、とってもイヤラしい顔をしていた・・

(つづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?