見出し画像

(6)「高麗国成立、カナダ三州・南太平洋支援の3本です」 の巻

国民投票の結果は開票と同時に即座に判明する。投票時の本人確認に若干時間が取られるが、投票所に向かう時間を考えれば投票も断然簡単に済む。
選挙管理委員も少数で済み、電子投票の結果を表示するだけで完了してしまう。北朝鮮640万世帯に総督府から配布されているタブレット上の電子投票画面から動画画面で本人認証を行った、18歳以上の有権者数約1100万人の94%近い人々が投票し、総投票者数の98%近くの人々が国家独立を選択した。
20時に開票結果が瞬時に出ると、総督府の執務室で涙を拭わず「国民の皆様」と初めて呼称し、人々に謝意を伝える越山総督の映像が世界に拡散する。泣くのが前提だったのか、越山総督がスッピンのまま出てきて、テロップが表示されて越山の発言を補足してゆく。終始しゃくり上げながらの辿々しい話なので、テロップが無ければ何を話しているのか分からなかっただろう。
投票の結果を待ち構えていたかのように、日本とベネズエラが、国家成立を祝うコメントを首相名と大統領名で発表すると、時刻を共有しているアジア各国の首長が次々と高麗国成立を歓迎するコメントを報じてゆく。
新首都となる平壌を始めとする主要都市で花火が上がり、若者達は夜の街をクラクションを鳴らしながらドライブし、住居の前では爆竹やクラッカーが鳴らされた。
以降は議会設立に向けた国政選挙が10月に行われ、衆参両院で150名づつの議員が選出される。後は日本と同じで首相が選出、組閣され、初代高麗政府が産声を上げる予定だと、アナウンサーが伝える。

日本でニュース番組を見ていたモリも、これまでの北朝鮮を廻る20年間を回想しながら、晩酌の酒と肴で国家成立を祝っていた。泣いている越山の映像を流しているモニターに向かって、御猪口を掲げる。       
「おめでとう、領主様!」蛍が突然抱きついて来て、あまりの勢いに、囲炉裏を前にして右隣りの畳に2人が倒れ込む。「領主?」と答えながら。

炭が種火となって、様々な濃淡のオレンジ色を放っている。高麗国の国旗に描かれた鳳凰を、この炎のグラデーションをCGで再現して、鳳凰を火ノ鳥の様に見せたら、どうだろう?と思いついた。グラフィックデザイナーの肩書も持つ、杏に相談しようと心に留める。

「領主様でしょ?あなたは王様って感じじゃないし」目の前に蛍の顔があって、囲炉裏の火に半分照らされて光っている。そう言えば、この場で艶めかしい妻や娘達の表情を見てきたなと、回想する。ヒトの肌が炎に照らされている様は美しく、極めて隠媚だ。太古の人類の祖先が洞窟内の炎を前にして睦み合い、子孫を繋いで来た。電気が家庭に浸透するつい最近まで、炎はヒトの夜の歴史を目撃し続けてきたのだろう。炎が動き続ける2人の影を、作り上げてゆく・・
「ところで、いつまで抱きついてるんだ?」蛍の目の色が怪しいので開放を要求する。母親達、娘達がそれこそ隠媚に微笑みながら こちらを盗み見ている。このまま理性を失ってはならない。この場で始めようものなら、流石に小さな子供達の耳にも届く。  
やや渋りながらも開放してくれたので、2人でゆっくりと起き上がり、御猪口を取って、蛍に酌を要求する。こういう日だからこそ、五箇山の地酒でなければならない。           

土地の所有権自体は国家に帰属するので、厳密にはモリのモノでは無い。        
ただ、中国とロシアの間の書簡と文書で、所有者名の表記が個人名義で書かれている。旧満州の2州の所有者であり、北朝鮮国土の65%を占める面積を主張する権利を有する。管理形態に関してどう扱うべきなのか悩んでいるのも、やや複雑な背景があるからだ。厄介なのが中国国境部の地下資源の扱いだ。今現在は資源採掘や産油・採ガスを全て停止しているので影響はないのだが、一度産出し始めると、産出規模と市場価格の推移を考慮しながら、その都度国と契約を交わす必要がある。全てを売却するにしても、国家が負担出来ない額になるので現実的ではない。更に厄介なのは、世界でも珍しいケースで公表できる筈もない話なので、内々で判断するしかない。強引に当てはめるなら、中東、東南アジアの王族が首長を務める国家くらいだろうか、産油国の王族が桁違いの収入を得ているイメージに近い・・   

「殿!」「ご当主!」「御舘さま」とそれぞれ違う名称を用いて、娘達が背後からのしかかって来るので、飲んだ酒でむせ返って苦しくなり咳き込む。母親達がそれを見て笑っている。なまじ書式の存在を女性陣が知っているだけに厄介だ。  

「お金を殆ど使わない殿様だけどね」
日本に於ける我が家の主、金森鮎元首相が頷きながら言う。そもそも、鮎と蛍に通帳を全て奪われているので、自分には残高をデータで参照するのが関の山となっている。逆に2人が使い込んでいないか確認している始末だ。 
日常の食料品は妻達、娘達のそれぞれの収入に依存しており、ヒモのように寄生した日常生活なので、旦那の立場は実に弱い。衣服を購入する際でも、出費が必要な場合は蛍に陳情する必要がある。
小さな子供達も曾祖母の鮎がこの家の棟梁だと言うのは理解しており、「パパは家族の中でも最下層の身分に位置している」と思っている筈だ。それ故に、どのような肩書を言われた所で気分が晴れる訳でもなく、冷ややかに呼称の数々を受け止めていた。         

高麗国と名前を変えた北朝鮮が国家となり、アジアに於けるパワーバランスを変革する重要なパーツが全て出揃った。高麗国とフィリピンが東アジアとASEANで台頭する近未来、アジア全体が描いたビジョン通りに変化してゆくのか、日本の政治家達の腕の見せ所となる。

酒は美酒に変化して、臓腑に染み渡ってゆく。
越山、櫻田達と自衛隊員とでパーティーを組んで、社会主義体制下の北朝鮮に食糧医療支援の為に出向いた19年前、令和日本政府の北朝鮮への関与が始まった。パーティーの医療班だった2人が、国の責任者として国作りを手掛ける不思議な縁を思う。援助を踏み出した翌年には、日本に向かう政府専用機の中で拉致被害者の救護に、急遽医師として当たった。Angle社が当時の貴重な映像を公開して、越山総督と櫻田外相が北朝鮮を背負う意義を、さり気なくPRしている。      
同じ政府専用機に搭乗していた精神科医の幸乃が、被害者を甲斐甲斐しくケアしている映像が流れると、囲炉裏の周辺に居る女性陣が急に湿っぽいものに転じる。幸乃と志乃の姉妹が秋の選挙で当選すれば、厚労大臣と総務大臣として高麗政府に入閣する。4人のママさん達がこれから経験を積み重ねながら、高麗国を作り上げてゆく・・この大舞台に国の責任者として登板する喜びやプレッシャーが越山の中で入り交じり、流れた涙なのだろうと理解しながら、映像を見ていた視界が、次第に滲みを帯びたものになっていった。 

Angle社のドキュメンタリー番組は、拉致被害者解放後の北朝鮮社会主義体制の崩壊についても触れている。アメリカ外交文書がまだ数十年経たねば当時の交渉内容に関して公開されないとしながらも、当時の国務長官が「まだ証せないが重要な情報を入手しており、優位に交渉を進めることが出来た」と発言していた。インタビューアーが当時のアメリカの政府専用機に乗り込むモリと、拉致被害者が乗った日本の政府専用機を平壌空港で見送るモリの姿を映した映像を当時の国務長官に見せて、
「モリ氏は何の目的でアメリカの交渉団に加わったのですか?」と一歩踏み込んだ。
「彼を交渉団に加える必要があったからだ。彼なしには話は前には進まなかっただろう」とシャーシャーと言うので、囲炉裏の前でポリポリと鼻を掻いた。その後、統治体制に移行して世界5位に駆け上がった北朝鮮経済の背景にも触れ、新生・高麗国は「この先暫く、安泰」との見方をしながらも懸念点もしっかりと紹介していた。そう、政治に「絶対」や「確実」と言う文言は存在しない。    

北朝鮮企業の大半は日本とベネズエラ資本の企業と、韓国での事業を精算して、北朝鮮企業に転じた企業群で構成されている。その為に日本に近い産業構造、製造業、サービス業主体となっている。1次産業の規模は日本を上回るが、兼業農家、兼業漁師が浸透し、2000万人と、人口の少ない北朝鮮の労働人口を支えている。特に製造業は工業ロボットと人型ロボットによる無人化が進んでおり、人口減少時代を迎える北朝鮮を支えるだろうと纏めていた。敢えて触れなかったのか、時期的に産出していないからなのか、豊富な地下資源については触れなかったのも、Angle社の番組プロデューサーも高麗国が日本連合のパーツに過ぎないと見做している、ということだろう。ここで例えるなら資源を持っていない日本国と高麗国は同じ土俵で勝負が出来る。敢えて資源は調達に依存しながら、製造業の製品力と競争力のお陰で商品価格が多少高くとも輸出して、利益を得る事が出来る。        
資源価格は、火星と月面からの鉱物資源が潤沢に供給されているので抑えられている。宇宙空間からの供給が何らかの理由で停止しない限り、鉱物資源は抑えられるので、北朝鮮もベネズエラも敢えて資源を採掘する必要は無い。製造業だけで国際市場で利益を享受できるからだ。唯一の懸念は石油石炭、ガスなどの現時点では地球で採掘するしかない資源だが、世界一の埋蔵量を誇るベネズエラとメキシコ、グアテマラ、コロンビア、エクアドル、ブラジルの中南米諸国そしてアフリカ連合、北朝鮮といった産油国が同盟国にあるので、中東、オーストラリアの石油石炭ガスに依存する必要がない。
つまり番組中では語られていないが、北朝鮮も日本連合の重要な構成員の一つと見做されており、この前提条件により「安泰」と判断したのだろう。
ーーー                     angle社制作の北朝鮮のドキュメンタリー番組が終わると、22時のニュース番組が日本のPB Enagy社と2033年にベネズエラ企業となったExxon Mobil社が、カナダ・アルバータ州の石油・石炭の採掘支援で業務提携したとトップニュースの扱いで報じる。想定していたのだろう、女性陣がモリに絡み始める。テレビ局が翌朝のニュースに廻さなかったのも、ドバイの原油価格が今年の最安値を更新したからだろう。 OPECに未だに加盟している産油国には、カウンターパンチになった。NYのオイル市況もドバイ市況を受けて大幅安が見込まれているという。                          アルバータ州で採掘されるカナダ産の石油は「タールサンド」の名称で知られている。ベネズエラ、サウジアラビアに続く、第3位の埋蔵量があると試算されているが、「タールサンド」は不純物を多く含んでおり、精製する上でコストが掛かる。           
原油価格が高騰していれば、採掘して精製後に販売しても利益を生み出せるが、石油の代替エネルギーであるアンモニア生産が本格的に始まった今、強力な競合製品の登場に石油・石炭・ガスは総じて安価となっている。この状況下でコスト高のカナダ産石油を販売しても、赤字となる。

アルバータ州を訪問中のエクソン社社長の会見中の説明から、不純物を多く含むカナダ産原油「タールサンド」から不純物を取り除きながら原油を採取する技術を、日本のPB Enagy社と、ベネズエラのエクソン社が持っていると明かされる。社長は長年、石油業界で謎とされてきた情報をこの場で説明を始めた。

石油埋蔵量世界一と言われるベネズエラの石油はカナダ同様に不純物だらけの品質で、原油価格の安い今はカナダ・アルバータ州同様に生産を停止している。しかし、モリがベネズエラに着任した年には、日本のプルシアンブルー社が不純物を取り除く特殊フィルターを開発していた事が判明した。石油業界の関係者が特殊フィルターの存在を知って一様に納得する。Exxon Mobil社が当時暴落したアメリカと中国の、サンドオイル、シェールオイル、シェールガスの販売権を牛耳り、安価なガソリンを提供してみせた際のカラクリが「この特殊フィルターで採取し、吸い上げる」だった。

大量の薬剤を投じて環境を損なう従来のシェールオイル製法は、原油価格が安い時期はコストに見合わずペイしない。アメリカ資本だったエクソン社の経営が傾いたのも、急激な石油価格の低迷が原因だった。アメリカ国内のシェールオイル・ガスの販売権の殆どをエクソン社が持っていたために採算が悪化した。
ベネズエラの石油開発公団がエクソン社の株式を買い上げて子会社化した理由は、この特殊フィルターを持っていたからだ。薬剤を噴出させながら砂礫の中から原油を剥離させて取り出す工程がもはや不要となる。吸引すれば、勝手に石油と不純物に分かれてしまう。   
石油を安価に提供できた理由が、10年近く経って公開されたインパクトは大きかった。世界一精製コストが安く、不純物を含まないサウジアラビアの原油と、世界最悪の不純物を含むベネズエラのオリノコタール、アメリカ・中国のサンドオイル、そしてカナダのタールサンドの精製コストが全く同じと初めて明かされた。4年前のアメリカの石油メジャー2社とエクソン社への経営統合の理由は、この特殊フィルターの開発が発端だったと人々は理解する。また、今回石油価格が下がるのも理解する。世界中の原油採掘方法が代わり、世界中の油田の油質が差を問われる事が無くなってしまったからだ。

ベネズエラ政府の広報担当者は「石油は燃焼すればCO2が発生します。生成過程でもCO2が発生しないエコ・アンモニアの製造と普及に、我が国は全力で取り組んでおりますので、膨大な量の石油埋蔵量があるとは言え、石油の生産を今は考えておりません」と発言する。 
その一方で、ベネズエラ国営企業であるエクソン社を、カナダでの石油採掘と販売事業に従事させて、北米向けのガソリン、プラ原料等の用途目的の供給業者となるのは、些か矛盾しているのではないか?とキャスターが指摘する。すると、
「ベネズエラは中東の原油が枯渇する、未来の石油資源利用を狙っているのではないでしょうか?燃料としてではなく、プラスチックや化繊等の原料などの用途としての利用です」
エネルギー問題を専門としている教授がリモート参加してコメントしていた。

angle社のスタッフの取材は徹底していた。カナダ政府のスポークスマンの会見場にも足を運び、発言を映像に収めていた。カナダ政府は困惑しているようだった。日本の新品種の小麦を採用したサシュチュワン州に続いて、アルバータ州でも日本連合の企業との提携を結び、2州が中南米諸国との結びつきを強化する方針を打ち出していた。 

「カナダから経済的な自立を目指している節が、2州から見受けられる。政府としては到底容認できるものではない」スポークスマンがそう発言したところで、夏の高温に耐えられる、収穫増を目的とする小麦を栽培し、不純物だらけの原油をコストを掛けずに簡単に精製してしまう技術は、2州には不可欠なものだった。カナダ政府が対応できなかった手段が、海外には何故かあったのだから仕方がない・・。            

「これでアメリカは秋にはフラウ達の改良した美味しい小麦と、日本の技術で安いガソリンを手に入れられるようになります。アメリカの自動車メーカーにも追い風になりますね。アンモニアエンジンは作れなくても、ガソリン車の生産と販売は出来るんですから」志乃が言うと、姪の彩乃がフォローする。

「アメリカはCO2排出量のペナルティを払わないといけないけどね。あ、それともカナダの小麦生産のカーボンクレジットを購入するのかな?」 

「何れにせよ、カナダ産の穀物とガソリンが旧態依然としたアメリカ経済の一部分を救う格好ね。一体、どこの誰が考えたのかしら?カナダはカナダで、独立騒ぎになりかねない状況になるけど、アメリカはカナダに関わっている余裕はないでしょうし」       
金森鮎元首相が、彼女の下僕を見ながらニヤついた顔で発言するので、無視してお猪口を口に運ぶ。    
「コラ 魔王、飲み過ぎだぞ」蛍が笑いながらお猪口を奪おうとする。      
「今度は魔王と来たもんだ・・」と答えながら、お猪口を高く掲げると、背後で立ち上がった翔子にお猪口を取り上げられる。
「ごめんなさい。今夜はこの位にしていただけますか?」下から見上げる下僕を、女神のように見下ろす翔子がいた。今度は性奴隷を演じなければならないようだ・・            
ーーーー                      アメリカはカナダの石油や小麦どころの話では無かった。カナダが分離するとかしないとかカナダの学者や評論家が言い合っているのも関心が無かった。アメリカのメディアは朝から大統領が辞任を決断したとの話題で持ち切りで、正副大統領の2度続けての失脚劇を悲痛な趣で受け止めていた。アメリカ史上初、議長が大統領職を担い、次回の大統領選までの任期を継ぐことになった。 共和党への支持率は1桁台まで下がり、次は民主党政権、民主党大統領間違い無しだとして、早々に候補者分析を始めている。今の共和党政権が誕生した際に極めて似通った状況を指摘するメディアも学者も居なかった。政権交代をすれば、状況は改善されると国民は盲目なまでに願望も含めて信じ切っているようだ。

「この停滞感を払拭するプランをアイディアを有する民主党候補者が選ばれるだろう」とキャスターや評論家が口にするが、その為のアイディアには誰も触れず、プランが提示される筈も無かった。「日本やベネズエラからの支援を如何にして取り付ける事ができるか」が肝になるのは誰もが分かっていながら、口にしない。プランでも何でもなく、単なる手段でしかないからだ。  
 アメリカのメディアは敢えて触れずに居るが、カナダ国境を越え、アルバータ州、サシュチュワン州、そしてケベック州に向かう人々が増え始めていた。アルバータ州のガソリンが急に安くなり、サシュチュワン州、ケベック州ともども中南米諸国からの物資が州内に溢れかえっているからだ。中南米諸国から、大型輸送機が乗り込んで物資を提供すると、アルバータ州で石油を積み込んでアジアに運び始めていた。メキシコ国境を中南米諸国が閉じたのも左右したかもしれなかった。サシュチュワン州、ケベック州の農場ではロボットが耕作放棄地や荒れ地を開拓開墾作業を始めており、小麦畑では日本種の小麦や野菜の種が発芽を始めていた。
やはりメキシコ国境を閉じた余波が、カナダに向いていたのかもしれない。季節は暖かい春を迎えており、メキシコに行かずともカナダの移民政策でそれなりの生活を始められると、アメリカの人々がカナダの一部を目指して移動を始めていた。              
中南米諸国がカナダの3州を経済圏に取り込み始め、同時にメキシコ国境を閉ざしてしまう2段構えの攻勢に、カナダ政府が気付いた時には、州政府議会で事が決しており、中南米諸国の企業進出が始まっていた。3州以外のカナダの人々も、3州の豊かな物資、食料、ガソリンを求めて移動を始める。中南米諸国の富裕層がカナダの春の気候と花が咲き誇る大自然を目指して旅行にやってくると3州とそれ以外の州の差が次第に広がってゆく。
中南米諸国はアルバータ州、シュチュワン州、ケベック州の3州だけにしか現れず、物資を投下してゆく。3州の商人達が3州以外のカナダ圏とアメリカ北部に物資の転売を行い、利益を上げてゆく。3州の新興商人が生まれ、起業を始めてゆくようになると石油と農業に依存する経済が、更に厚いものに変わってゆくだろう。   
カナダの首相、外相がベネズエラに訪問の要請をしてきたが、「エクソン社以外はベネズエラの企業では無いので、政府として関与できません。エクソン社も会社のトップ達が決断したのでしょうし、コメントの仕様が有りません」と回答し、事実上首脳会談を突っぱねた。オイルマネーと農業が核となって、カナダの一部である3州が変化を始めていた。アメリカの動向を注視していたカナダ政府が、自分の足元で起きている変化にようやく気付いて慌てる、そんな図式だった。予てから独立を唱えている3州に関与し始めた中南米諸国の企業群が連携したように現れる。中南米諸国の企業同士、同業同士、既存のカナダ企業とバッティングしないように計画を立ててやってくるので、全てが段取り良くスムーズに浸透してゆく。

コンセプト的には北欧圏に進出した際のパターンを踏襲している。北欧とカナダはほぼ同じ緯度にあるので扱う品目が似通ったものとなる。カナダの食料品は北欧ほど高くはないが、アメリカからの物資が滞りがちなので、総じて高くなっている。           
そこへ、アルゼンチン、ウルグアイの肉と穀物、パナマ、ニカラグア、グアテマラのフルーツ、チリとボリビアのワイン、コロンビアとベネズエラの小麦と大豆、ブラジルとメキシコのビールやテキーラ等の酒類、各国産のコーヒーや紅茶が食卓を支えてゆく。     
また、ベネズエラのブランドだが、キューバ、ハイチ、エルサルバドル、プエルトリコ製の家電品や衣料品、製薬が家電品販売店、薬局の倉庫に積み上げられてゆく。日本メーカーのディーラーが進出し、ベネズエラ、コロンビア、ペルー、エクアドル製のエンジン車やバイクの販売が始まる。生活雑貨も含めてアメリカ製・カナダ製を上回り、しかも安い商品の流入で家計は助かり、オイルマネーの収益で州税は安くなる。中南米諸国の製品や品物が潤沢に手に入り、カナダの他州よりも安いと知れ渡ると、3州周辺の人々が買い物にゆくようになり、アメリカからも週末に買い出しに来る人々が出て来る。中南米諸国の産品が他所でも売れると知った3州の業者が、カナダの他州だけでなくアメリカに越境して、商品を販売し始めていた。            
 5年前、チベット独立時にアメリカが大失敗を犯して中南米諸国、日本の主要企業が北米から撤退したのだが、それ以来の両陣営の製品、商品の販売なので、人々が飛びついた。  
しかし、販売契約自体はアルバータ州、サシュチュワン州、ケベック州の企業や業者とだけ契約を取り交わしているので、一部の企業の寡占状態となっていた。カナダ政府が3州以外でも販売してほしいと願っているのは明らかだったが、そこは戦略だった。       
3州の企業だけが儲かる仕組みを優先したかった。

カナダとアメリカ政府がモリの動きを追っていると、 想定外の場所にモリが現れる。南太平洋のサモアとフランス領ポリネシア、そして火山が爆発したトンガの3か国にタニア外相、アン筆頭秘書官を連れて、表敬訪問を行う。サモアには、アメリカ領サモアを上回る規模の支援を約束し、タヒチ島の首脳会談ではフランスからの独立後の支援を約束し、独立の機運を煽った。
今も噴煙を上げるトンガ・フアパイ島を視察し、中南米軍による生活物資輸送の継続を約束した。ハワイ、グアム、サイパン、アメリカ領サモア以外の南太平洋は、日本台湾ASEAN連合と中南米諸国の支援を仰ぐ図式となった。       
昨年から両陣営に属する南太平洋各国の経済状況が急成長しており、南太平洋経済圏の成立もあり得るとの見方も出始めていた。       

記者会見場で、5年後を目処に、南太平洋のど真ん中に海上都市を建設するとモリがぶち上げる。

月面基地を建設中のベネズエラが、南太平洋諸国との共同プロジェクトを立ち上げた。チタンを始めとする月の資源を使って、アジアと南米を繋いでいる太平洋航路の中間地点に中継基地となる海上海洋都市を作る。中継地となるだけでなく、海中に溶け込んだ二酸化炭素を除去する大型プラントを幾つも建設して、集めた二酸化炭素をドライアイス化して、海水を浄水化した水と共に、月面基地に運び入れる。月面ではアンモニア製造工場、火力発電所も建設し、原発と電力源を冗長化する。CO2と浄水が月に潤沢に供給されると、月面基地の酸素・空気だけでなく、将来的には植物プラント、大気プラント、スペースコロニー用の空気として流用可能となるという。
南太平洋をアジアと中南米の経済圏に取り込むだけでなく、海上航路の要衝を作り、地球環境維持の拠点、宇宙圏との繋がりまで包括すると構想を打ち出す。

次のアメリカの大統領が一体誰なのか? カナダ政府と韓国政府が内政で何をドタバタしているのか? 新興宗教がこの先、どうなろうがベネズエラは何も関心を持っていないかのように振舞う。

会見場では記者から「アメリカ新大統領に関して」「カナダ進出に関して」「旧統一教会について」聞かれるが、「南太平洋とはあまり関係のない質問ですねぇ・・」と言って、トンガ首相と顔を見合わせて苦笑いした後で無回答のまま、次の質問者を指名して促していた。
それらの質問にはまるで興味、関心が無いかの様に。    

(つづく)                

ガンを取り除く必要がある!
高度1000kmの宇宙空間でJアラート?津軽海峡を見事にパスしているので、漁船に連絡するのが先だろう・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?