見出し画像

(5) 2040年、西暦終焉となる?

 日本海側に大雪を齎した寒気団は、日本だけでなく世界中の北半球全体に及んでいた。早々にやってきたこの寒気団を、地球温暖化からの脱却が始まったと見る向きと、いやいや、気候変動はまだ暫く続くだろうと見る学者達が居た。「先進国の」政治家から見れば、大気中を覆う二酸化炭素の量は、地球史上の最高値を示しているのは変わりない事実なので、如何に大気から二酸化炭素を取り除くか、引き続き真剣に取り組む必要がある。残念ながら先進国から転げ落ちた国の政治家達は、環境問題どころの騒ぎでは無い。何とかして先進国に戻るための起死回生策を弄する。しかし、天は過酷な試練を与える。最強寒波が北部の都市を直撃し、膨大な積雪と路面凍結に加えて、一部の主力送電線が切れて、他所からの送電申請が特定の発電所に集中し、一極集中で広範囲のブラックアウトが起き、大停電となった。週明けからの電力供給停止となり、混乱が加速する。米軍と電力会社は電力供給の復旧に当たっていたが、作業員も軍人も減っており、迅速な作業が出来ない。「日本連合のように、人型ロボットやモビルスーツがあれば復旧作業も除雪作業もスムーズだろうに」電気も止まり、毛布に包まって暖を取る人々は嘆いていた。
中には、昨年末のクリスマス以降、電気代が払えずに既に電気、ガス、水道の止まった家も少なくなかった。 値上がりする一方の公共料金を払うことを故意に止め、大寒気団がやって来る前に、家族を守るため、己が生きるために、住まいと土地を離れて、南を目指す。カナダやアメリカ北部の州で、虐げられた境遇にある者達に顕著に見られる光景だった。             
いかなる寒波に見舞われても、日本の置き土産の鉄道網だけは、正確な時刻表通りに運行していた。路上は いつまで経っても除雪されず、積雪量が嵩んで路面凍結が進み、車では移動できない。レール上に積もった雪を、除雪列車の走った後を温水散布しながら走る鉄道は、一縷の希望のような存在と人々から目されていた。鉄道は水素と車両回転で充電される積層バッテリーによって駆動し、電力に頼らずに走り続ける。10数年経った車両でも、ベネズエラ企業によって日々メンテされ、無事故記録を更新し続けていた。安全性を向上させるために「新しい車両を購入して欲しい」と要請しても、大幅な黒字事業なのに「出来ません」とアメリカ政府や交通管理局から断られ、部品を新しいものへ交換しながら、安全管理の維持をし続けていた。米国内のあらゆるコストが上昇している中で、プルシアンブルー社が運行管理するようになった鉄道料金だけが、唯一値上がりせず、それどころか何度か値下げしていた。  
その車両を製造した国を目指して、メキシコ国境に向かう人々が大勢いた。当初はヒスパニック系の住民達が「帰っていった」。中南米諸国は支援制度を用意して、カナダ・アメリカ国籍の人々を受け入れてゆく。纏まった額の支給金が毎月のように手に入ると噂が広がると、下層のアフリカ系アメリカ人、白人も国境を越えるようになる。誰がこんな時代の到来を想像しただろう。アメリカを離れた人々の顔が、一様に喜びと希望で満ち溢れていた・・。
ーーーー                      「ティファナと同じか・・」メキシコに流入する人々が仮入居する、シウダードファレス市の収容施設をモリが訪れ、国境を越えてきた人々と会話を続けていた。「給与が下がり、光熱費を含む全ての物価が上がった。借金だらけの国と州政府では住民向けの助成金や融資が行えるとは思えなかった。中南米諸国は難民認定されれば、一定期間助成金が得られると聞き、国を捨てるのを決めた。この子達のためにも」そんな話ばかり聞き、アメリカがここまで凋落したのかと驚き、アメリカ政府の対応を呪った。「これでは無政府状態に等しい、何らかのアクションを起こして政治を動かせ」と。       

施設に一時的に入れた人は「問題のない人々」だ。順次、要望を伺い、近々ベネズエラの介護施設の新設棟に仮入居してもらう。
メキシコ政府がクレームを上げ続けているのが、犯罪歴のある者達が難民に多く含まれている点だ。AIによる本人解析と米国カナダの本人確認の照会結果がアンマッチとなった人々は再チェックの後で中南米入国管理局から追い出され、米国サンディエゴ市に米国籍20万人を強制的に返却された。第二陣でまた数十万人が強制退去となる。故意にアメリカが犯罪者を人選して、個人データに修正か改竄を加えて、メキシコへ送リ込んでいる可能性が高いと、何処から入手したのか、犯罪履歴を一人一人添えて送還した。メキシコ政府は、国連に事実関係の調査を要請する。各州の犯罪歴のある者を、一時収容している施設がロスアンゼルス郊外にあって、入国審査時の回避方法などのレクチャーを受けているようだと。その施設の交信履歴と音声と、実際に話した人物の情報も添付されている。サンディエゴでは間もなくメキシコが壁を作るというデマが流れ、国境を越える人々の群れは増えている、と言う。この種の狡猾な発想には安易に加担し、一気呵成に国内問題を解消しようとする。昔の日本政府と一緒だなと、怒りさえ湧いてくる。もし、更に経済制裁をすれば、難民の数が増えるだろう。         
サンディエゴに隣接するメキシコ側のティファナ市とメヒカリ市、ニューメキシコ州に隣接するシウダードファレス市のアメリカ国籍所有者の数はこのままの人数で推移すれば3月には1000万人に近づく規模となると言う。深刻な規模となる。ウクライナ侵攻時に周辺のNATO加盟国に逃れたウクライナの人々の数を超えてしまう。あちらは軍事侵攻で、こちらは国が低所得者層を棄民している。背景も内容が異なれど、「生きるため」に逃げてきた目的は同じだった。        
スペイン語、ポルトガル語をAIロボットから学ぶ学校や、就職斡旋業者、職業訓練校、中南米軍の紹介所、留学カウンセラーと、ありとあらゆるニーズを満たす施設が、中南米連合の費用で用意されている。20年前、人の流れは逆だった。アメリカ国境に壁を作り、中南米からの越境者を食い止めようとした。経済的な逆転現象が始まると、メキシコを目指す人達が増えていった。老人も審査に合格すれば、年金取得者として迎えられるが、基本的に中南米経済に貢献せずに金だけせしめようと考える有象無象は当然ながら却下される。年金が得られるのは越境を求める老人全体の1割程度となっている。日系人はほぼ10割に達するが、唯一引っかかるのは北米での犯罪歴だ。高齢者と日系人はベネズエラへ、若者はそれ以外の中南米の国へも向かう。コロンビア、メキシコ、ウルグアイ、アルゼンチン、ブラジルが主要な行き先となっている。
1次産業従事者は、手掛けたい作物や漁場、畜産で振り分けられる。ありとあらゆる産業が揃っているだけに、難民の受け入れコストもかなりなものとなる。
当然ながらカナダとアメリカのボランティアをするつもりはない。費用を払えと言うと、「中南米が手厚い対応をするからだ。我々は関知しない」と支払いを拒否してきたので、高速鉄道と鉄道の収益を、アメリカとカナダの交通局へ収めるのを止め、ガソリン燃費向上剤「エコフューエル」の供給を止めた。カナダとアメリカが知らぬ存ぜぬの立場を取るなら、本格的な経済制裁も辞さない構えを見せる。アメリカ与党の共和党議員は壁を作って、メキシコに渡れないようにしようと言い出している。壁の建設資金の為の予算申請を米国議会が始めるので、その費用があるのなら、此方へ払えと言いたいところだが、何よりも自由を謳うアメリカが、自由を束縛してもいいのか?という話も持ちあがってくる。         
ーーー                     メキシコ・ティファナ市内にモリとコロンビアのマルコス大統領が訪れて、記者会見に臨んだ。「アメリカ・カナダ難民支援」と、モリが「難民」呼ばわりを始めたので、米国大統領は頭を抱える。モリはメキシコの会見場でマスコミを前にして、怒り混じりに話し始める。      
「国連はだらしない組織に変わり果てた!」と、現職の国連事務総長とのやり取りを暴露した。「誰が見ても難民ですよね、彼らは。それで難民高等弁務官事務所からの支援を求めたのですが、アメリカから越境して来た方々は難民ではなく、中南米諸国への移住希望者だと言うんです。難民だと認めないんですよ、あの連中は。間も無く1000万人に到達します、人口差があるので何とも言えませんが2022年のロシアによるウクライナ侵攻時に、海外に避難した方々既に越えた人数です。戦争で一時的に避難している方々は保護するが、祖国を泣く泣く諦めて捨ててきた人は保護の対象としないと、国連の報道官が言うのです。なんでしょうね、この欧米人特有の言い訳めいた二枚舌のような物言いは?  確かに私の祖国日本も、年でたったの数人しか難民認定しないとか、「難民を受入れれば、日本のアイデンティティが失われる」と真顔で言うようなメチャクチャな国でした。今は幾らか変わりましたが、それでも北朝鮮と日本列島の人々を未だにシェイク出来ずに居るのは、こういう差別的な人間性が日本人にはある為なのです。日本人と同じような差別的な感覚で、国連の事務総長とスポークスマンが居るのです。彼らは職を退くべきです。      
1000万人以上の難民が中南米にやって来るのが、確実視されています。自国に絶望して住み慣れた国を泣く泣く去って、越境をしなければ生活が成り立たないと国境を越える事を最後の希望と捉えている方々が殆どです。嘗ては中南米の人々がアメリカを目指しました。忘れもしませんが、前の共和党政権はアメリカファーストと言って、壁を作って人々の受け入れを拒否しました。僅か20年前の話です。不思議ですよね、アメリカもクリスチャンが多いハズですが、受け入れは拒み、出てゆく人々は黙認するどころか、州政府が犯罪者を紛れ込ませて送り出しているのです・・。私はね、ゴミ箱を蹴り壊してしまいましたよ。遂に「堪忍袋の尾が切れ」ました。日本語で我慢に我慢を重ねて、己の感情の限界を超えた時に使う表現です。        
中南米諸国は総じてキリスト教の博愛思想を信奉しているので、困っている方々は温かく迎え入れます。メキシコ政府も中南米諸国から応援で来たスタッフもロボットも総動員して、対応を続けています。しかし、なのです。この先を考えると、やはり不安です。この体制を何時まで維持し続ければいいのですか?ってね。我々にも限界はあります。四次元ポケットやブラックホールのように無尽蔵な訳には行きません。北米に課した制裁内容だけでは赤字なんです。百歩譲って、彼らが移住希望者だとしましょう。でもね、言葉遊びで人の人生を軽んじてはならないのです。彼らは已む無く祖国を捨てざるを得なかった・・。
パトリシア事務総長!国連が、そんな彼らの敵にまわってどうする!自由意志で国境を超えているから難民ではないので黙認する、国連は支援しない。これで、将来子供達が国連という組織をどう捉えるか、よくよく考えろ!国連のOBとして、とても恥ずかしく思う。国連に居た10年間を、そこで成し遂げた実績の数々に、同僚だったお前らからドロを塗り込まれてしまった・・。何故、我々がアメリカとカナダの失政の面倒を見なければならない?中南米諸国の皆さんに到底説明が出来ない。国連が移住希望者だから受け入れざるを得ませんと、誰が言える!誰が納得すると思うのか! 何れ、鉄板を並べて国境を封鎖せざるを得なくなる。アメリカの総人口は2億人、明るい話は全く聞こえてこない。来年はまた政権交代の可能性が高く、国内は人々が国に嫌気がさすようなニュースばかりなので、海外ニュースの比重を高めていると聞く。国が悪政を続ける限り、アメリカを見限る人々は止むことはないだろう・・。
ミーガン大統領、オルバニー大統領、いつまで失政を続け、棄民政策を推進し続ける気だ?国連も何もせずに愚かな態度を取り、現状を容認し続けるのならば、こちらにも考えがある。私の怒りが沸点に達するのは最早時間の問題だ。早急に対策を講じたまえ。私の怒りはベネズエラにやって来た2032年、いや事務総長時代から蓄積されている。誰も私の怒りを理解していないようだ。不条理を重ねても、謝りもせず、特に常任理事国のアメリカに至っては、怒りの増幅をされっぱなしだ。宜しいか、私は聖人君子でもなく、一方的に耐え続けるでくの坊では無い。普通に怒り悲しむ、小さな一人の男に過ぎない。我慢の限界はとうに超えてしまったので、私は大統領権限であなた方政府と組織に対して、刃を向けます..。
今もね、誘惑と格闘しています。難民の方々も私の判断には喝采してくれると確信していますが、仮にミサイルを放てば、国連も議事堂も古いビルなので一撃で木っ端微塵でしょう。迎撃できるものなら、撃ち落としてみるがいい。それでも、議事堂と国連本部のど真ん中に当たるのだろうが。

国連安保理で拒否権を発動することなく、今週中にアメリカとカナダの難民認定を認めたまえ。あなた方2カ国は残念ながら落ちるところまで落ちた。難民を排出するとして国際認定された事実を認め、国連に、世界に助けを乞うがいい。我々は発展途上国になりました。どうか、お助けくださいと・・。私からは以上です」       
ーーー                      モリの半ば恫喝めいた警告は反響を呼んだ。厳しい口調以上に、アメリカとカナダを棄てる人々が居るという事実に世界中が驚いた。一千万人にも達する人々がカナダとアメリカを脱していながら、これまで知られなかったのもは、アメリカ政府の情報操作で伏せられていたからだ。メキシコ国境一帯を軍が封鎖しており、メディアの取材が一切出来なかった。情報隠蔽体質と、犯罪者を越境者に紛れ込ませる悪質さに耐えかねたのだろう。メキシコ、そして資金融資国であり、受入国のベネズエラは、到底許容できなかったので、動いた事で、世界に実態が伝わった。    
 アメリカ国内のメディアは昨年末から、台湾独立、中国人民解放軍と中南米軍の衝突を喧々諤々と語ってきた。国境を超えるのは、ヒスパニック系住民の祖国回帰程度に留めて、規模はおろか、全く実態を把握していなかった。そこへ年初の寒波報道で一色になると、行政が寒波に対応できない状況が晒される。一体、何が起きているのか?と。アメリカ議会もメディアも、そして国民も、自国の低所得者層を視野に入れていないかが図らずも露呈した。所得に応じたコミュニティを作り、分断した社会を容認し、成功者が自分だけの利益を追求する。要はフィリピンとアメリカは全く同じなのだ。一部の上流階級だけが恩恵を受け、その他大勢を顧みない政治が蔓延する。自分たちで勝手に壁を作って、壁の外で何が起きているのか理解しようともしない。台湾独立どころで騒いでいる場合ではない。よくよく考えれば政府や州政府の対応の遅れの理由にも納得する。末端の人材が居らずに行政が機能していないのだと。「あのアメリカが、難民を生み出している・・」もはや先進国である筈がなかった。     
また、国連が主導して世界を牽引する体制が何ら機能していない実態を人々は今更ながらに知る。アフリカを支援しているのは、中南米諸国だ。南太平洋にも手を差し伸べている。商業五輪は崩壊し、本来の五輪になりつつあるのも、中南米諸国によるものだ。経済も軍事もだ。ISは崩壊し、アルカイダをゆっくりと時間を掛けて掃討しているのは中南米軍だ。台湾独立にも関与している・・さて、昨今国連が取り組んで居るのは何があるのか?ベネズエラであり、日本ではないか、実際に手掛けているのは。国連はただ各国から資金を集めているだけで、運営するだけの組織に、果たしてなっているのだろうか?と。     
ーーーー            
 アメリカが1千万人もの難民を生み出し、襲来した通常規模の寒波に対応出来ないでいる。この2つのニュースだけで、2040年は一体どうなってしまうのかと、市場が反応する。投資会社はアメリカとカナダの格付けを落とし、投資不適格国にまで落ちた。           
アメリカFRBは「穏やかに景気は上昇している」とFRB議長が声明したばかりだったが、政府がいずれ露呈するのが分かっている棄民政策を実施していたと市場は判断し、後にアメリカの一人負けで終わる「漆黒の1月」と呼ばれる株価暴落が始まった。NY市場に引きずられるようにロンドン、EUブリュッセル・アムステルダム市場も暴落、上海・香港まで下がった。    
G7、EU各国は情報を操作隠蔽していたアメリカ政府、FRBを糾弾し、アメリカとの関係を断ち切って、欧州への影響が及ぶのを特に警戒した。結果的にだが、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、イタリア、スペイン、そしてドイツの新日本寄りの国々の市場が踏み止まり、ユーロはドルや元のように下落することはなかった。ドルは大幅に且つ一方的に後退する。多額のドル資産を抱えていた英仏、そして中国は、ドル所有で手痛い打撃を受けた。2040年は1ドル、50円代の時代の幕明けとなった。         
それでも各国の中央銀行の協調介入は、恐慌が世界に及ぶのを阻止する。 日本、中国以外のアジア市場、中南米とアフリカの両市場はビクともしなかった。幸いにして恐慌までには至らなかったが、アメリカと中国の信用は完全に無くなっていた。                   
ーーー                      市場が荒れていた頃、殆ど影響を受けていない南太平洋諸国を、日本の杜 里子外相とベネズエラのタニヤ・ボクシッチ外相兼国防相が、独立を決めたニューカレドニア、中国との安保協定を廃止したソロモン諸島と、フィジー、トンガの4か国を歴訪していた。日本と北朝鮮の大学が来月から春休みに入るので、若者達が大挙して訪れるので宜しくお願いしますと里子が頭を下げ、ニューカレドニアとソロモンには、アンモニア製造工場と海水浄水処理場を建設しようと持ちかけた。フィジーとトンガには、緊急経済支援プログラムと銘打ち、ニューカレドニアとソロモンで始めた無償住宅制度の説明と、パシフィック銀行の進出、パン・パシフィックホテルの建設を提案し、ベネズエラが港湾インフラ整備費用として、1000億ペソ=1500億ドルの無償融資を行った。     「日本連合は、海水浄水とアンモニア製造で国の基盤を固めて、無償住宅とペソ無償借款で仲間を増やそうという作戦か」と、見たままの指摘を各国がするようになる。次の狙いはフィジーとトンガの「英国連邦からの離脱」だ。
里子とタニヤが4か国を1週間掛けて廻っていると、某国滞在中にサイパン島を保有する北マリアナと、グアムのチャモロ族の代表と、ネイティブハワイアンの代表と、密談の場が設けられた。日本連合に、独立の支援をして欲しいのだと。グアムとハワイには米軍基地があるので、時間が掛かるのも理解されており、「それでは日本は持ち帰って、政府内で検討します」と里子が言うと、タニヤは、独立支援金として金塊の入ったアタッシュケースをその場で代表者に渡し、テロ活動はベネズエラ政府は大反対だが、殺傷なき軍施設破壊活動であれば、ゴム弾、催涙弾等の対人兵器の提供と、作戦立案部隊の提供支援も吝かではない、といきなり踏み込んだ発言をする。ベネズエラは議会承認のプロセスの必要が無いのと、タニアには大統領から裁量権が与えられていた。里子は、「そうなのよね、ベネズエラの外相の方が全然良かったなぁ」とイキイキとした顔をしているタニアの横顔を見ていた。
ーーーー                     阪本首相とベネズエラのドラガン・ボクシッチ新首相が、チベットを訪問していた。昨年末まで、エジプトで行われていたプレ五輪で使われていた、ホバークラフト25隻、モビルスーツ50体、フライングユニット25機を、チベットに進呈したいと言い出した。所有管理はチベット駐留の中南米軍なので、チベット側に迷惑は掛けないと。  
「来年の本大会はどうするのですか?」   
「これまでに兵器は全て、金額回収済です。元は取れたのです。来年はまた新たな兵器を提供して、金額回収を目指します」とドラガンが笑う。

「まぁ、最初から誰かさんが計画していた・・違いますかな?」チベットの首相も笑う。  
「おっしゃる通りです。私も、まさかサハラ砂漠で使うとは思いませんでしたが、ボスはタクラマカン砂漠、ラサ周辺の砂丘地帯での活用を視野に入れていたのです。誠に恐縮なのですが、これがホバークラフト経由地と運行計画書の案でございます・・」
阪本がボクシッチ首相の発言に啞然とする。その阪本の表情を見て、チベットの首相が吹き出す。

「中国が、大枚はたいて用意した高速鉄道を、我が国はホバークラフトの滑空で手にする。しかも、レール工事は不要です。それこそ、バスの停留場レベルの物を作ればいいんですからね。いや、参りました。流石、モリさんだ。で、阪本さん、台湾企業の受け入れに同意すれば宜しいのでしょう?95年前の中華民国の頃のように」   

「ちょっとお待ち下さい。どうしてお分かりになるの?・・」
「いや、お二人がお見えになると伺って驚いたのは我々の方です。エジプト・プレ大会の輸送機や兵器の受け入れで私達は勿論歓迎しますが、お隣の国は困るでしょうね。前回、大師の葬儀の後で、自衛隊から中南米軍に駐留軍が変わる際に、両者で相対して演習を行いましたが、中南米軍が自衛隊を圧倒してしまって、その様を人民解放軍が見て、ショックを受けたようです。何しろ、自衛隊にも敵わないような軍隊なのですから。そこにまた最新の兵器が揃えば、どんな反応をするのか、容易に想像がつきます。更に台湾資本となれば、共産党の侵略前の図式の再現となります。火に油を注ぐようなものでしょう。それだけでは終わらない。モンゴルにも声を掛けて、ゴビ砂漠でホバークラフトを周遊させて、護衛にモビルスーツを飛ばす。   
何れ、大型輸送機が首都の空港に着陸して、中国国内よりも安価な食料品が流通するようになると、周辺の方が食糧事情がいいじゃないか、と共産党の失政を追及されるようになる。そこに、選挙で選ばれた中華民国の与党政党が居るのです。「それなら、吉林省や黒竜江省に引っ越しましょう。共産党はもう沢山」と考えるようになるでしょう。この波が続くと、台湾の国民党も含めて、中国本土で選挙制度が確立されるかもしれませんね・・」
チベット首相のしたり顔を見て、阪本はゾッとした。             
ーーー                      七草粥を食べた翌日、フィリピン・マニラ、台湾・台北と横浜のプルシアンブルー本社を回線で繋いで、新銀行設立の記者会見が催された。台湾の第二第三の規模を誇る合作金庫銀行と兆豊国際商業銀行と、日本のプルシアンブルー銀行、ベネズエラのレッドスター銀行が、25%づつ出資しあって、パシフィック銀行,PacificBankという、今までよく使われずに残っていたなといわんばかりの名前を冠した銀行が誕生した。ニューカレドニア、ソロモン諸島、バヌアツ共和国、ハワイ、北マリアナ、グアムで支店を展開しているプルシアンブルー銀行の支店、北朝鮮、旧満州、ASEAN各国で展開しているレッドスター銀行の支店を、両銀行の取引や口座はそのまま継続して、パシフィック銀行に業態転換する。 
今迄のロボット担当窓口とIT無人化店舗を改めて、窓口はロボットのままだが、融資担当や信託担当、貯蓄相談担当といった業務に台湾人や北朝鮮国籍所有者等の行員を当てて、店舗に配置する。個人向け金融サービスを拡充して、総合銀行に生まれ変わる、と言う。観光需要で急成長中の南太平洋と、東アジア、ASEANでの中小企業への支援も加えて、経済全体を支える銀行にしたいと、レッドスター銀行副社長から、新銀行社長に就任する、レイコ・イグレシアスが、先週、新車発表会場だったマニラのホテルの会見場から、見ごたえのあるプレゼンを行い、3箇所に集まった記者達を唸らせた。玲子は自信に満ちた笑顔と共に質疑応答に対応し、その日の役割を終えた。 

前々から用意していたのだろうか。1月10日にはプルシアンブルー、レッドスターだった各店舗の看板とレイアウトが「Pacific Bank」のロゴと、パシフィック・ブルーで店内が統一された。人が手掛けると言っても、人材はいきなり用意できない。RedStarBankの踏襲で、ロボットのアンナが各セクションのマネージャーとなり、それぞれの部門を束ねて、社員一人一人にアンナが配置されて社員を育成し、社員は日々学びながら業務を習得してゆく。Gray Equipment社のITエンジニア育成プログラムと似ていた。特に専門的な知識や優れた能力が無くともAIロボットの指導を受けながら、まるで有能なベテラン社員のように業務を遂行してゆく。新人研修や都度研修のために集まるなどの時間を費やす必要がない。それぞれのお客様への提案の際も、AIが方向性を決めて、社員を指導しながら提案資料を作成してゆく。訪問前に何度もプレゼンの練習をして、ボロが出る可能性を防ぐ。マンツーマンの指導体制で各ロボットが社員を評価し、その個々のレポートを部門長のAIが纏めて、全体の対策を図ってゆく。極めて公平で、効率的なシステムとして、台湾の人々に感心される。何故に、プルシアンブルーとレッドスターの社員の評価が高いのか、個々の社員を支えるAIがあり、グループ企業である製造部門が日本、北朝鮮、ベネズエラ経済を牽引しており、各グループ企業と関連性のある金融商品を揃えている。単なる銀行、金融会社ではなく、グループ企業と単なる看板に留まらないコングリマット的な事業を展開している。噂では耳にしていたが、内情を知って、台湾の人々は強さの理由を理解する。これが本当のコンツェルンなのだろうと。 
台湾、北朝鮮の大学を卒業した学生を中心に雇用し、短期間でベテラン社員並みの戦力にしてしまう。個々の社員が立ち上がるまでの銀行の収益は、今までのIT無人店舗収益が継続されるので、それだけでも銀行としての経営はかなりなものとなる。何せ、プルシアンブルーとレッドスターの2大バンクだ。南太平洋諸国、ASEANでは「無償住宅融資制度」でボロ儲け中出し、北朝鮮では工場進出、低金利融資で莫大な収益を上げていた。「2大バンクがいよいよ合併するのか?」と、どちらも、ベネズエラ大統領の作った銀行なので、噂にはなっていた。そこに「何故、台湾の銀行が加わるのか?」首を傾げる向きも多かったようだ。敢えて、台湾最大手の台湾銀行と手を組まずに、2番手、3番手の行と組んだのも、台湾の金融業界のレベルアップを狙っているからだ。パシフィック銀行で培ったノウハウが、銀行本体で活用されれば、自ずと台湾経済のレベルアップに繋がってゆく。南太平洋ASEANなどの経済的には格下のエリアを相手にしながら、ノウハウが揃って、組織が強化されてから、例えば、既に各金融会社が進出している、中国本土や欧米市場へ切り込んでゆく。AIロボットを多用する銀行として。

旧満州経済特区・長春市の工業団地へ建設を進めていたネブラスカ社の工場が、台湾自動車メーカーとの合弁会社設立により、建築申請の手続きが名義変更されて、リパブリック ドットシー社に変わった。この工場へ部品を納品する台湾企業が12社、向上進出の申請手続きを始めた。この12社の進出資金を融資したのはパシフィック銀行だ。 

北朝鮮の新浦市に、リパブリックドットシー社の組み立て出荷工場が進出することになり、この融資もパシフィック銀行が行う。恐らく、台湾の数多くの部品メーカーもパシフィック銀行の融資を受けて、新浦に進出してくるだろう。「北朝鮮、旧満州」と聞いて反応するのが台湾人だ。多くのメーカー進出の報を聞いて、台湾料理のチェーン店が北朝鮮、旧満州への進出を検討し始める。パシフィック銀行の融資担当者に相談すると、「既存の中華料理店は油の使い方に難があります。火の使い方がなっていないのか、油の温度が低いまま、揚げたり、炒めているようです。その点御社なら簡単に攻略できるでしょう。全額融資しましょう」と話が早い。それもそのはず、融資担当者が店に出向いた訳ではないが、AIが「舌」認定した店舗巡りをブログや動画投稿している人物達の評価から、「平均以上」という「予測」評価をしており、融資担当者がAIの判断を元に話している。           
ヒトの融資担当者なら、実際に店舗に足を運んで具に自分の目と舌で調査するのだろうが、その様な手間は極力避ける方が良い。台湾料理と言っても中華料理には代わりはない。体に優しい品々ばかり食べていればいいのだろうが、店のウリは高カロリーな一品だ。そんなモノを食べ続けて体を壊してはならない。           
ーーー                      日本国内企業、取り分けプルシアンブルー社では珍しく幹部会議が重なっていた。OBの山下智恵経産大臣も大臣ではなく、旧経営者として意見に加わ理、喧々諤々と意見を競いあう。完全に大臣目線でなく、幹部の一人になり切っていた。  
「旧満州に台湾資本を流入させ、ゆくゆくは吉林省、黒竜江省を事実上統治して貰おうと考えています」昨日の閣議の場で首相の第一声を聞いた時に、内閣の誰もが驚いた。阪本首相の発言を受けて、モリ・ホタル官房長官・・内閣は全員、元首相の金森鮎だと知っている・・が、首相の後を引き継いだ。夫人の一人である杜 里子外相だけはプランは聞いていたのだが、旧満州と北朝鮮の旧中国領の所有者がモリだと聞いて、椅子から転げ落ちそうになった。大臣の全員が卒倒しそうな勢いだった。旧中国領は、その後日本の資源探査で開発され、レアアースを始めとする鉱物、石油・ガスのエネルギー源を産出している。つまり、モリの資産と資源を日本がタダで使っていると大臣達は理解した。何故に、広大な面積の土地を所有するに至ったかは、中国政府との協定により明かせないが、モリが、日本が自由に使える土地だと認識してほしいと官房長官が真顔で言って、口外しないという誓約書に各大臣がサインを求められた。この話を知っているのは、柳井幹事長だけで、北朝鮮の越山総督も櫻田首相も、柳井治郎副総督もまだ知らないと言う。  
長春市、ハルビン市等の主要都市の副市長ポストに、台湾国籍の人材を当てて、いずれ市長を任せる。来月の春節に合わせて、旧満州への旅客キャンペーンを台湾内でPRを始める。パシフィック銀行とリパブリックドットシー社を設立したのは、旧満州と北朝鮮に台湾企業を展開するのが目的で、経済的に今の半分近くを台湾資本にシフトしていきたいのだという。特にプルシアンブルー社は、建設、住宅、スーパー、コンビニ、サービス事業等で旧満州、北朝鮮では台湾企業との合弁会社に業態転換して、事業の寡占化を目指して貰いたいと、山下経産大臣の顔を見ながら言う。創業者のモリの地所なら、モリの考えだろうし、「やらざるを得ない」と智恵は理解して、阪本の目を見て頷いた。              
阪本も、金森も、閣議の場で「台湾独立」は名言を避けた。公文書に残される刺激的な言葉は相応しく無い。しかし、台湾資本を強力にバックアップして中国共産党に揺さぶりを掛ける意図はよく分かった。うまく行けば「一つの中国」を共産党が想定する一党独裁から、台湾の民進党、国民党の2政党を組込み、複数政党で、国政選挙を行う。そんな民主国家へ転じたなら・・と山下智恵経産相が考えていると、閣議後、モリ幹事長が、里子外相を連れて山下の席へやってきた。  
「民進党の中国本土での統治政策を立案して、日本政府として支援したいの。14億の中国国民を養うプランよ・・気が遠くなる分量になるけど、やるしかない」幹事長が青ざめた顔の外相の肩を擦る。里子にすれば、自分の夫が、世界一の土地と資源所有者だったと知ったばかりだ。呆然となるのも仕方がないと智恵も理解する。「幹事長、合弁会社は了解しました。各分野でパートナーとなる台湾企業の選考に入ります。しかし・・」 

「ええ、智恵さんが心配されるのもよく分かります。資金は日本は一切出しません。今回はベネズエラの資源を使います。それも、多分宇宙資源なんでしょう。だから、このタイミングまで引っ張ったのよ。南太平洋諸国の独立支援共々にね」
この金森鮎の発言で、里子が泣き出す。智恵も涙腺が緩む。

彼は・・その次の一手で何を企んでいるのだろうか・・。

(つづく)                 

戦犯 ・・似てない。特に、アジア人のようなムッソリーニ・・
戦犯 写真版
地で行く、神4コマ
A級戦犯、 T&K。 Tは死刑、Kは売国奴として生き延び、余計な遺伝子を後世に残す。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?