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(4) 発覚、 一長一短の理。 (2023.12改)

「南から始まった「変化」が、いよいよ青森へ到達した」
青森市長が頭を抱えたのは地元の新聞の見出しだった。

青森市役所の農業振興課と青森農協が協力して、プルシアンブルー社のバギーを導入して、田の稲刈りを行ない始めた。栃木県内で7割以上、富山県内で9割以上と成果を上げた稲刈りサービスを青森市内の9割以上の農家が契約し、弘前市の農家も8割近い農家が契約したという。
富山の金森知事と市長候補者が青森入りし、事務所の立ち上げを行い、稲刈りの状況や陸奥湾内の漁港を視察する予定を組んでいるらしい。

鹿児島市、宇都宮市の現職の市長は勝てないと判断。立候補しない方針を打ち出し、県の与党が立候補を渋る市議を宥めて擁立し、社会党新人候補に対抗する姿勢を見せてはいるが、敗戦濃厚な状況にある。

先にプルシアンブルー社が青森市内でデータセンター建設を明言したが、データセンターだけでは済まなかった。青森港の倉庫の改修作業が進み、全国型大手スーパー撤退後の店舗を改装工事中で今月25日にもオープンする。北陸と岡山、栃木、都内の店舗とは異なる初めての大型店舗になると言う。

投票日の来月1日まで3週間を切ろうとしていたが、以降はプルシアンブルー社だけでは済まなくなる。
コロナ感染の拡大が予想される11月前に、東南アジアからの輸送船が那覇、鹿児島、大分、岡山、名古屋、品川、茨城、青森、富山、函館の各港に入港し、プルシアンブルー社の自動倉庫に荷物を運び入れ始めていた。
各都道府県の社会党支部ではPCR検査キット、紙マスク、除菌アルコール等の入手困難な品々を東南アジア製品の現地仕入原価に若干の輸送量を乗せた卸価格での提供が始まろうとしていた。
前出したプルシアンブルー社の各倉庫から大手宅配会社への配送委託となるので、輸送料金が上乗せされる。
「全国一律希望販売価格」なるものを各商品毎に予め設定して HPで公開していたので、全国各商店の店舗での販売価格は希望価格に準じたものとなるはずだ。

社会党の地方行政部門の責任者となった金森 富山県知事は、青森駅の向かいの元コンビニ店跡にオープンしたPB Martの店舗駐車場で「これは社会党からのお知らせとなります」と断ってから、以下の「党員党則の変更」を発表した。

・党員制度の廃止
・ボランティア制度を廃止して、アルバイト・パート従業員として採用し、時間給を支給
・各都道府県支部の職員の昇給
等々の制度改革に加えて、賃貸物件の下落を受けて各拠点の移転と新拠点のIT化を促進すると述べた。
社会党のホームページでは富山市内の社会党新拠点の紹介を行なっていたが、9月末までプルシアンブルー社本社だった、駅前の貸ビルの写真が掲載されていた。プルシアンブルー社は手狭になったのでより大きなビルに移っていた。
また、駅周辺の商店の時間給よりも高い時給としたため、恒常的に党を支援してくれた市民グループやNGOからは喜ばれ、各支部の募集枠は直ぐに埋まってしまった。来春まで社会党各支部へのコロナ感染対策の商品の発注と問合せが増加するのに合わせての採用だった。

メディアが取り上げる話題の大半はコロナ絡みの情報か、社会党・プルシアンブルー社のニュースの2本立てで、新政権の扱いは僅かなものでしかなかった。

ーーー

青森市の選挙事務所の開所式に参加した金森 富山県知事は青森市長の山田長政候補と共に、陸奥湾内の漁協を訪れる。

青森市が面する陸奥湾内には39もの漁港がある。その漁港毎の漁協も同じ数だけ存在する。それだけ魚影が濃いのだが、内湾なので遠洋漁業という発想には至らず、イカ釣り漁船などの近海用の小型漁船が占める。しかし、39の漁港が集まっても遠洋漁業を行っている、青森県最大の水揚げ量を誇る八戸漁港には及ばない。

青森市長候補の山田は国立・弘前大 農学生命科学部の食料資源学の准教授で、金森海洋大「元」教授の教え子に当る。

山田は39の漁協関係者の前で富山湾内の漁協が取った「選択」を説明していた。金森知事が鹿児島、岡山の漁業関係者に対して説明した内容そのものだった。
聴衆の中に宮城の気仙沼漁協と石巻漁協の関係者も居るので、青森市内の大ホールでの説明会となっていた。
気仙沼と石巻の漁業関係者を呼んだのが、演台の右後方の長テーブルに金森知事の隣に座っている2人の女性、翔子と里子の母、由紀子と理美だった。由紀子と理美は知事の1つ上だが、3人並んでも40後半から50前半にしか見えなかった。

「・・富山の漁師は湾内の魚を捕獲していれば、今までは潤いました。富山湾が非常に豊かな海だったからです。アルプスから流れる栄養価の富んだ水が湾内に大量に注ぎ、プランクトンの多い湾で、ホタルイカや白エビ、カニなどの深海生物も多い多様性のある起伏のある湾です。更に漁獲高を増やすためには富山湾の外に出る必要があります。
海水温度の上昇で生態系が変わりつつあるのも一因ですが、富山の漁師は未来のために、もう一歩踏み出したのです。海水温度が上昇するのですから、目指すのは北です。富山から北へ、富山の漁師はオホーツク海を漁場と見定めたのです。
皆さんもご存じのように、日本とロシアの間では漁業協定があって、日本の漁師は海域は制限され、水揚げ量も限られています。これはロシアが自国海域の水産資源を把握しておらず、低く見積もっていたからなのです。実は私達の調査で、ロシアの想定を超える水産資源がウラジオストク湾内とサハリン島南部の湾内で確認されたのです。

そのデータを日本政府にも報告したのですが、日露漁業協定が見直そうという動きにもなりませんでした。我が国の外務省と農水省が動きがナメクジ以下なのは皆さんの方がよくご存知だと思います」

会場内は爆笑となった。因みに、金森鮎は外務省と農水省を「オツムが悪い」と形容した。

「残念ながら日露漁業条約はそのまま残りますが、サハリンスク州とウラジオストク市と富山の3者間で漁業協定を締結したのです。お互いに国家は関与していません。漁業組合レベル、県レベルの協定です。
皆さん、私も青森市出身です。ロシア産の高いサケやマス、イクラ、筋子、タラバガニをもっと安価な値段で食べたいんです!皆さん、イカやホタテもいいですが、炊きたてのご飯に筋子ば乗せてがっつきたくないすか?タラバ蟹ば食い散らかしながら、銘酒・田酒を煽りたぐないすか? オラはもう我慢できねえ、ヨダレ出そうだ。ああ、すんげえ食いてえ!」
山田は津軽弁で壇上で絶叫して、会場内を大笑いさせた。

「協定の内容ですけど、このプルシアンブルー製の魚群探知機を導入すれば、湾内の魚が種別で水揚げ量を判断できるじゃないですか。その何割かを富山県に提供するという協定になってます。最初、富山の漁協は年間漁獲高の2%で始めます。それでも富山県民100万人には過ぎた漁獲高となります。サハリンとウラジオストクの州知事は4割は受け取ってくれと言っています。つまりまだ38%の枠があるのです。実は、この漁獲高だけで日本全国の漁獲高より多いんですよ。つまり日本の漁師さんに収入を倍にする権利を富山県は持っているのです!どうです?陸奥湾、気仙沼、石巻の皆さん、この話に乗りたくない方っているんですかね?」

会場内に拍手が鳴り響く。立ちあがって拍手している者もいる。

「蛇足ですが、ロシア海軍、海上保安庁による拿捕というリスクを考えた方もいらっしゃるでしょう。ご安心下さい。バッチリ対策済です。ロシアの海域に入ると、サハリン、ウラジオストクの漁連の旗を掲げます。船内にはロシア語で書かれた協定書の控えを積んでおきます。サケ、マスなら何トン、カニなら何トンと記載されてますし、船舶毎の水揚げ量は全てIT管理されていて、その日の漁が終わるごとに、ユジノサハリンスクとウラジオストクの漁連にデータが飛びます。つまり、日本の漁師は密漁ができません。ま、船いっぱいに獲れるので密漁する必要もないのですが。
さあどうします、皆さん?青森市で大型漁船を買います。石巻と気仙沼の漁協にはマグロ用の大型漁船がありますよね?富山の皆さんの情けに、青森も宮城も縋っちゃいましょう。みんなでロシアに行きましょう!そんで、荒稼ぎだぁ!」
山田が叫ぶと、全員が拳を上げた。

流石、金森知事とその教え子だと誰もが褒めた。

ーーーー

精を放った後の膣の微振動が終ったのを確認し、ゆっくりと性器を抜き取る。行為に及んでいる2人の隣で構えていた玲子が由真の膣にティッシュを宛てがい、膣から零れ出る精液を受け止めながら、モリの性器を咥える。
玲子の舌の動きで再び活性化し始めるが、次に及ぶ時間も無いので中止を告げ、玲子の口を吸って互いの舌を絡ませる。

空港に向かう前の自由時間で、由真と玲子とそんな事態になったのも、外相からの面談要請が届いたからだ。モリが北米滞在中の不在時に、外相の居る都内に居たくはない。翔子と玲子も狙われかねないと由真が言い出し、部屋に戻ってアヤしている内に行為に及んでいた。

由真が外相の学校の後輩という情報は、博多に見舞いに行った際に知ったが、まさか婚姻前の付き合っていた相手が外相だとは思わなかった。
外相の「何」に由真が怯えているのか良く分からないが、尋常な状態ではなかった。
「あなたの女にして下さい!」としがみつき、泣きじゃくるだけなので言われるがまま応えるしかなかった。

玲子に先にシャワーを浴びるように伝えて、まだ息を整えている由真の頬を撫でていた。

ーーーー

ホテルの宴会場には漁協関係者が集まり立食パーティーを行っていた。金森鮎と山田長久は青森の漁業関係者に囲まれ、志位由紀子と平泉理美は宮城の漁協関係者に囲まれて2時間英雄扱いをされた。

懇親会を終えると、今夜投宿する鮎の部屋に由紀子と理美が居た。
事後報告となった事を侘びてから、一族を迎え入れてくれた謝意を伝えると、平泉理美だけ自室に戻り、由紀子が残った。

「先生のお耳にも入っているかと思います。源家の特殊体質に関して、ご相談したいのです」
鮎は頷いて由紀子の話を促した。

「その前にお詫びしなければなりません。私達はモリ先生を騙しました。妹の次女の真麻に安全日だと言わせて、先生の種を頂戴しました。翌日が狩猟日でしたので致し方なかったのです。ピルを使うなどして事前にテストできれば良かったのでしょうが・・」
鮎は海洋生物学者でもある。由紀子の発言の矛盾点を汲み取っていた。
次女がイノシシ狩猟に立ち会う必要はそもそも必要無かった。由紀子がイノシシ狩猟に加わった時点で、由紀子とモリが行為に及べばそれだけで事足りた話なのだ。これ幸いと次女を抱いてしまった「息子であり、夫」にも問題がある。既に済んだ話なので仕方がないのだが。

「ピルによっては精子を殺傷するものもあると聞いております。懸命な判断だったと思います」と鮎は先ずは頷いてみせた。

「お願いは2つございます。先ず、東南アジアに帯同させて頂いている妹の長女の真央ですが、先生の寵愛を頂いて、感知する能力が備わったようでございます。今朝ほど母親の妹に連絡が届きました」

「そうですか・・そうなると翔子さんと玲子ちゃんにも可能性がありそうですね・・」
鮎は「能力」の活用方法を幾つか考えていた。一つが夏季の水害や地震などの災害時だ。警察犬の嗅覚が及ばない水害時に、生命反応が探知できたならと考えていた。
「探索者」をドローンとペアにして、ドローンが発見したように偽装すればいい。

もう一つはクマの所在地を能力で突き止め、麻酔銃で捕獲。発信器を取り付けて野生のクマの全数管理を行えば、学術研究の発展にも繋がり、里に降りてきた個体を警戒し、殺傷も容易となる・・

「その次女の真麻ですが、申し上げるのも憚るのですが・・やや子を授かる格好となりました。そこでお願いなのですが、源家の子として育てたいのです。金森家、杜家には一切のご迷惑をお掛けしません」

「ちょっと待って下さい。まだ一週間も経ってませんよね・・そんな・・お願いです、どうか頭を上げて下さい」
頭を下げ続けている由紀子を鮎がゆっくりと抱き起こす。由紀子の頬に添えた手の感触に驚く。肌の弾力と、そのきめ細やかさに驚嘆する。自分の一つ上だと聞いていたが・・

「私達には生物反応が分かります。自分の子宮に生命が宿っているのを実感できるのです」
由紀子はまだ頭を下げている。

「翔子さんを身籠った時も同じように感じたのですか?」鮎が背中をさすろうとすると、由紀子はガバッと立ち上がると後方に下がって、床に土下座をした。

「貴方がおっしゃってる意味がよく分かりました。私どもはそれで結構ですので、どうかお立ちになって下さい・・」
鮎が床に膝をつこうとした、その時だった・・

「奥様、本当に申し訳ございません! 私も妊娠致しました!」

土下座した由紀子が発した言葉を即座に理解できなかった。
「えっ?」と呟き、鮎はその場に立ち尽くしていた。

(つづく)


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