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記事一覧
正しき食の使者 #AKBDC2024
「赤い……虎?」
バーに入ってきた男を一瞥したマスターは、我知らずそうつぶやく。自分が発した言葉に驚き、マスターは慌てて男の顔を見直す。見知らぬ顔であったが、それは確かに人であった。真紅のスーツに身を包み、ゆっくりとした足取りでこちらへと近づいてくる。ただそれだけで店の空気が張り詰めたものへと変わる。喧騒が静まる。客の誰もが、入ってきた男にそれとなく視線を向ける。
空気。そう、彼が身にまとう空
師匠と弟子、そして世界の卵
「で! これはいったい! 何なんですか!?」
「君ねえ、追われている真っ最中にそんなこと聞くもんじゃあないよ?」
「追われている最中だから、せめてその原因が何なのか知りたいんです!」
四脚蟹の魔導モーターが唸り、さらに言いつのろうとする弟子の言葉をかき消した。横向きの蟹がはじかれたように駆け出した瞬間、周囲に茫洋とした魔法陣が浮かび上がる。
「召喚陣!?」
「だねえ」
青白い光から赤い塊が飛び
『お肉仮面』 #第三回お肉仮面文芸祭
◇
そいつに出会ったのは、部活帰りの夜道のことだった。
部活帰り、コンビニで晩飯前の栄養補給をすませ帰りのバスを待っているときのことだ。何かに見られている妙な感覚を覚えて、俺は後ろを振り返った。
夜道を照らす街頭の下、そいつは静かに立っていた。背格好や服装はいたって普通だった。だけどそいつの顔は鼻も口もなかった。生肉を貼り付けたかのような模様の顔面に、真っ黒い穴が二つ空いていた。
「こ
駆け抜けろ 性の六時間 #パルプアドベントカレンダー2023
コンビニエンスストアー、ファッキンマート佐賀致死ヶ崎駅前店の時計が8時を示したのと、同店のバイトである八ツ裂キふわりが襲撃してきたメカヒュドラの首をもぎ取り、煮えたぎるおつゆで満たされた業務用おでん鍋に叩き込んだのは、ほぼ同時の出来事だった。
もがれてなおうごめくメカヒュドラの口から、致死性の化学物質が漏れ出した。おでんつゆが、名状しがたい色に染められていく。
「オ、オノレ! コンビニバイト風
戦争の最果て #逆噴射小説大賞2023
「貴様らは死ぬ。だが正しき時と場所にて死なねばならぬ。祝福はそこにこそあると知れ」
教主様の御言葉を拠り所として、俺たちは赤い泥濘の中に腰まで浸かりながら歩く。灼けた泥と鼻をつく悪臭が、容赦なく俺たちを削り取っていく。魔導機兵に乗っている連中が羨ましくなる。空調の効いた棺桶の中は、死ぬのに相応しい場所かどうか怪しいというのに。
閃光。
二機の魔導機兵が爆散した。続いて隣にいたジェドが音もなく
神饌を供す #逆噴射小説大賞2023
尾頭さちと尾頭さえの姉妹は巫女装束に身を包み、深々と平伏して待っていた。部屋の寒さに、吐く息が白く染まる。遠くで鳴り続ける鈴の音が、耳に届く唯一の音であった。
彼女らの前には一本の包丁が置かれ、さらにその前には純白の布地が広げられている。布の上には、一糸まとわぬ姿の女性が寝かされていた。
少女というのがふさわしい女性の、それは死体であった。
鈴の音が消えた。姉妹の体がわずかにこわばる。
大決戦! アクズメさんVS深海潜神教団! #AKBDC2023
「ウナーギッギッギッギ!(笑い声) 恐れ入ったか、下等な人類どもめウナ。我等、深海潜神教団Ku-EELーulhuの神域を汚した罪、万死に値するウナ! そもそも、あのような醜悪きわまる鋼鉄の塊に頼らねば海を渡れぬその脆弱さ、正視に耐えぬおぞましさウナ!」
「「「「ウナーギッギッギッギ!(笑い声)」」」」
「うわっ?! いきなりなんなんだお前ら! あっやべ、ちょっと汁こぼしちまった。洗って落ちるかな
老人と犬、ところにより廃墟 #むつぎ大賞2023
35年と118日。
「ここにしようか。おいで五郎丸」
その日、老人が指さしたのは、かつて地下鉄と呼ばれた交通機関、しかし今となっては日の光届かぬ深い地の底――地下迷宮物件と成り果てた場所の入り口であった。
五郎丸は応えるように一声吠え、階段を軽やかに降りていく。数段降りたところで老人を振り返り、追い付くのを待ち構える。五郎丸は尾を左右に振りながら、進んでは待つことを繰り返す。
対して老人は
【習作短編】雪と月と桜の夜に、僕は君を殺めよう
如月の夜。粉雪舞い散る山道を、一人の少年が駆けている。
彫りの深い顔つき、均整の取れた肉体。それらが秘める若さ、瑞々しさ、そして荒々しさを、詰襟の学生服で無理やり抑え込んでいる……そういった風情の少年は、名を雪代氷衛といった。
氷衛は荒く息を吐きながら山路を駆け上がる。癖のある黒髪が揺れる。舞う粉雪が、氷衛の息に当てられて姿をなくしていく。
風が舞う。粉雪が風に煽られ、不規則に舞い踊る。氷
cybernetic heart "MOTHER"
高層ビル骸の隙間から覗く漆黒の空の下、制服姿のアイミはひたすらに歩き続けていた。彼女が歩を進めるたびに赤黒い泥が跳ね、白すぎる足とスカートが穢されていく。彼女はそれを意に介した様子もなく、淡々と歩を進めていた。
アイミは前方に視線を向け、幾度目かの簡易スキャンを試みる。対象は、ビル骸の中にそびえ立つ無骨なシルエット。
アイミの眼が、微かな電子音とともに明滅する。
網膜ディスプレイに現れたデ