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ハラジュク・Kawaii・あまのじゃく1

DUB

高校生になった私。初登校日の朝、校門に立って挨拶をしていた先生が何人かいて、中学の頃から怖いと噂の学年主任は、すぐに分かった。表情ひとつ変えず、ゾロゾロと校門を入る生徒のなかから髪を染めたギャル、スカートが短い子や腰パン、ギャル男のピアスを見つけ、校門を敷居をまたいだ瞬間、横にスライドさせるように集団から引き抜き、次から次へ尻のあたりを蹴り飛ばした。フラミンゴみたいなギャルは衝撃で飛んで行っちゃった。それはまるではねだしの選別みたい。悪いのが多いからか、流れ作業も慣れたもの。無いはずのベルトコンベアが見えるようだった。

男ではないのに、何かが縮みあがる感覚になるほど強烈なものだった。

私の教室は校舎の奥のほう。進学クラスだ。物珍しい校舎の内部にソワソワし、廊下から見える各教室の中を歩み進みながら、知ってる子いないかな?なんて。

あの学年主任の受け持つクラスに目をやると、廊下側の席に座るギャルがマッキーの太い方を両手で持ち直に嗅いでいたのが見えた。腰パンピアスドレット、さすが問題児ばかり集めたとあって強烈なメンツ。「受験に本当の意味で失敗したな」と思って、我ながらうまい!と思った。

そうさ、進学クラスといってもそもそも偏差値が低い高校なのです。親の経済的な理由で煽りをくったため志望校を諦め、この公立に行くしか選択肢がなかった。

同じ進学クラスで知った顔といえば、因縁の【 キャッキャ系女子 】過去の、女が嫌い。エッセイに出てきた、あの裏切り者だ。奴がいる!貴様は私より随分馬鹿ではなかったか?!あー!わかった、わかっちゃった。進学クラスなんて名ばかりなのね、じゅっぱひとからげね!!もう憂鬱。

裏切り者がクラスメイトとわかり私の高校生活は初日で終了だ。担任が来るまで、ディスクマンに入っていたロリータ18号のカバーアルバムのヤリタミンを再生し、コルホーズの玉ねぎ畑を聴きながら突っ伏して寝たふりをした。卒業を飛び越えて、早く大人になりたい。ただただ思った。「私の病気は玉ねぎ畑♪どこまで行っても玉ねぎばかり♪」マサヨのガラガラ声が私に変わって叫んでくれる。

入学してしばらくは、ダルくなるとすぐヘッドホンをつけて逃げた。自分の中に。授業は我慢するけど、休み時間が耐えられない。休み時間のたびに化粧直しをする者、ルーズソックスのソックタッチを塗りたくる者、端っこで男子が固まってわちゃわちゃやってる。学業はおろそかにはしなかったのがこのクラスでの唯一の存在意義。
こうして書いていると、パンクロックを聴きながら眠れたあの変な日々を思い出してきた。思い出は、よく聴いていた曲やハマったバンドとセットになってることが多いなぁ。

PUNK

通いつめていた古着屋で縁があってアルバイトをし始めた。あまりにも暇でうちの店を覗きにきてくれた近くの店で働くお姉さん。古着、得意じゃないけど好きかも。と楽しそうに物色して、挨拶がてらレジ前の小物を買ってくれた。「BGMの感じだと店員さんはパンクとか激しいの好きなの?」と聞かれたのがきっかけに。お互いの好きな音楽の話をしたりしているうちに、ライブハウスに連れていってもらう約束をした。

初めて連れていってもらった日はよく覚えている。冬の寒空の下で開演待ちしていたときに、急にお姉さんがあらたまった口調で「実はナンパしてきた人がこれから観るバンドのドラムをやっていて、ライブに来ないかと誘われたから一緒に行く人を探していたの。」と言ってきた。
可愛げのある言い方というか、なんだか憎めないキャラだったので真意を聞いても嫌じゃなかった。それより夜遊びに胸が高鳴り、何にせよお姉さんサンキュー!な感じだった。

洋楽は小さな頃から馴染みがあって好きだったけど、オルタナはそれまで殆どふれていなかった。オープンすると、どこからともなく人が先程よりも増えてきた。髪がカラフルで女の子はみんなモード学園の人みたいにお洒落で、男の子はとりあえずDickiesをダボつかせて、みんなスタッズやチェッカーフラッグ模様でかざってる。Foo Fightersの新譜がライブハウスじゅうに流れ、いよいよ始まる。お酒を煽って各々が楽しそうにしてるのをジュースを飲みながら見ていた。誘ってくれたお姉さんが、例のドラマーを連れてきて紹介をしてくれた。見るからにJKっぽい私を面白がったドラマーがその仲間たちに数珠繋ぎに紹介してくれて、みんなノリが良くてすぐ打ち解けた。もう立派なパンクスにでもなったかのように得意な気持ちになった。周りがうるさいからかなりの近い距離で話すのだけど、ちゅーしてしまうのではないかとドキドキした。4、5歳年上の男の人とこんな近くで話したことはないもの。

洋楽が好きなのは、私が物心着く前から親がダンスクラシックやテクノ、マイケル・ジャクソンを聴いていた影響が強い。意味をいちいち考えなくていいし単純にメロディを楽しめる。あとは、逃避したいのに言葉が入ってきちゃうと、ね、説教じみたのはごめんだからね。発音の違いというか、英語はなんだかまあるいのが良かった。共通の好きな音楽があるというだけで、こんなに人は繋がれるんだと感激した日だった。

エモーショナル

一方、高校ではギャルか裏原系かオタか、つまらないくくりがうんざりだった。学校に行かない選択肢がなかったのが不思議だ。そのうちに、気づくと話のあう子なら誰でも楽しく話せるポジションを獲得。一匹狼の割に引っ張りだこだ。
八方美人ではないの、引っ張りだこな一匹狼。

あの学年主任は生物の先生だった。The 野球部顧問という感じでごつごつしている。
そして、笑ったところを見たことがない。注意しても言うことを聞かない悪態をつく生徒の耳を引っ張り職員室に連れていくのをみた。ピアスの部分を引っ張るから引きちぎれそうに見えた。血を流していたね間違いなく。授業中に着信音がなろうものなら、なんと生物室の三階の窓から放り投げる。馬鹿な高校に通う馬鹿な生徒は沢山いて、学習しないのよ。しかも着信音がトランスだったりして、さらに電話に出ちゃうからそりゃ大変。先生は真っ赤な顔で怒り心頭。俺の授業で貴様何しとるんじゃ!なめてんのか!と、言い終わる前に携帯電話は飛んでいった。しとるんじゃ〜で、ぽーい!だ。後にも先にも宙を舞う携帯電話をあんなに見た事がなかった。

この先生を怒らせてはいけないと怯えていた私が、ついに目の前で着信音を鳴らしてしまったことがあった。
着信でなく、着信音を設定していた末に鳴っちゃったといううっかり。ただ成績がよく生活態度が真面目だったからか、超至近距離で「持ってこないでくーだーさーいー!!!せめて電源はきってくーだーさーいー!!!!」と唾がかかるほどの勢いで言われただけで(本当にかかった)私の携帯電話は飛ぶことは無かった。生まれて初めてのわかりやすいえこひいきだった。お漏らししちゃうかと思ったぜ…
無茶苦茶怖いけど、いつも筋が通っていたのでなんとなく嫌いじゃなかった。

ある日、生物で100点を取った。
だが採点ミスを見つけてしまった。先生が私が正直者かを試しているのではないか…どうしよう…。いや、後ろめたい気持ちのまま卒業まで耐えらんない!ちゃんと言おう!と決心。
先生に申し出ると「お、ごめんな。でも俺のミスだから、まーいいやこのままで。ただ、正しい答えを覚えとけよ。なっ。言わなきゃいーのに、わはは」と笑った。
緊張して膝から崩れ落ちるかと思った。

インスト

ライブハウスで紹介してもらった人のなかでも、なぜだか妙にウマがあった人がイサくんだ。慣れない場所で落ち着かなかった私に色々レクチャーしてくれた。知らないバンドが次から次へと出てきて、どこのレーベルでどんな経緯でこの曲が生まれただとか、バンド名の由来とかとにかくあらゆるバンドを網羅しているようだった。今までは逃避のために聴いていた激しめの曲も、これを機に変わった。純粋にオルタナをもっと知りたいと思ってどんどん興味をもった。

お目当てじゃないバンドが演奏している時も、ずっと、ずっと話をしてくれた。私も演奏よりイサくんの話が聞きたかった。至近距離で、車の芳香剤をミックスしたいい匂いがした。アジアン雑貨店のような、なんとも言えないいい匂い。このバンドはインディーズの中で1番かっこいいから、泣き泣きのメロコアだから。まじでオススメするよ。と言った。目当てのバンドが始まるとお客さんがステージに押し寄せてきた。芋洗い状態で、あまりの人気に驚いた。メロコアというのか、くくれないくらいかっこいい、楽しい。勢いづいたギターボーカルが自身のアンダーヘアに火をつけた時は逆光で訳が分からなかったけど、イサくんが手を叩いて喜び、オーディエンスもバカウケだった。タンパク質の焦げた匂いが漂う。ベースアンプの前に陣取ったことを後悔したけど、ライブが終わった頃には音の圧に病みつきになりそうな自分がいた。

ライブハウスを出るともう朝になっていた。山積みになったゴミ袋をカラスがつついてる。その傍で酔いつぶれたキッズが寝ている。通りかかった早朝の牛丼屋にもキッズがズラリと並んで座って、こちらに気づいて手を振ってくれた。

あんなに充実した気持ちで眠りについたことはなかった。居場所を見つけた気がした。

それからの高校生活といえば相変らずだけど、ライブに行くのがモチベーションになってからはガラリと変わった気がする。長くなったので一旦、休憩。


次回予告

キャッキャ系のあいつの弟、グレた私、事件、下着が無くなる、イサくんとのその後などなど

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