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世界一周307日

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2011年3月10日。ひとりの旅行作家が全く新しいシステムによる世界一周の旅をスタートさせた。巡る先はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、オセアニアの世界6大陸。『SUGO… もっと読む
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#旅

note10 : キナバタンガン川(2011.4.10)

【連載小説 10/100】 変化と安定。 開発と保存。 破壊と創造。 世界は常に相反するパワーの駆け引きとバランスによって成り立っている。 旅についても同じ。 航空技術の進化は僕たちに世界中を旅するチャンスを与えてくれたが、短縮された時間の分、目的地に至るプロセスの旅情は相対的に少なくなった。 英語とドルさえあれば、たいていの国で何とか過ごせる利便性は整ったが、グローバルスタンダードはそれぞれの国家が積み重ねてきた歴史や文化の独自性を見えにくいものとしてしまう。 ど

note11 : ダナンバレー(2011.4.14)

【連載小説 11/100】 カタッ、カタ、カタ、カタッ・・・ とMacBookAirのキーボードを打っていると 窓の外、おそらく5mほど先から ザワッ、ザワ、ザワ・・・ と木の葉が擦れ合う音が聞こえる。 様子を伺おうとキーを打つ作業を止めて耳をすませると、相手も動きを止めるのか音は止まる。 再びカタッ、カタ、カタ・・とキーを打ち出すと、ザワッ、ザワ・・と木の葉の音。 先ほどからロッジのライティングデスクに座ってこのテキストを入力している僕は、外の闇にいる“彼”と互い

note12 : セリンガン島(2011.4.19)

【連載小説 12/100】 エコツーリズムにおけるボルネオ島の魅力の第一が広大な熱帯雨林とそこに生息する多種多様な生命であることは間違いないが、島である以上それを取り巻く海があり、こちらでも美しい自然や希少な生命と出会うことができる。 17日の朝にダナンバレーを離れた僕は、ウミガメで有名なセリンガン島で2日間を過ごし、さきほどコタキナバルへ戻ってきた。 セリンガン島が世界有数のウミガメの産卵地で、WWF(世界自然保護基金)が世界一と認める貴重なエコツアーの地であることを

note13 : シンガポール(2011.4.22)

【連載小説 13/100】 人類が築いてきた文明の成果を最も分かりやすいかたちで表現してくれるのは摩天楼、すなわち超高層建築物群だろう。 地上200メートル。 シンガポールマリーナベイに登場した「マリーナベイ・サンズ・ホテル」の最上階にある「サンズ・スカイパーク」から眺める夜景は、インドシナ半島の南端、赤道直下に位置する面積700平方kmという極めて小さな国家の中心部を宝石箱のふたを開いて見せるショーのごときだ。 シンガポールへ移動して3日目の夜となるが、僕は毎日ここへ

note14 : シンガポール(2011.4.26)

【連載小説 14/100】 その昔、激しく荒れる海に阻まれ誰も上陸できない島を目指したスリウィジャヤという王国の王子がいた。 嵐に遭遇し航海は困難を極めたが、勇敢な王子がかぶっていた王冠を海に投げ入れたところ、海が静まり未知なる島へと上陸できた。 そこに現れたのが一頭の大きなライオン。 「この島を治めるがよい」との許しを与えて立ち去った。 島に新しい国を築くことになった王子は、そのシンボルとして海の神と陸のライオンを合体させた“マーライオン”をつくり、守り神として祀る

note15 : シンガポール(2011.4.27)

【連載小説 15/100】 動物園にまつわる子どもの頃の記憶。 ライオン、トラ、ゾウ、サイ、カバ、キリン、シマウマ等々、大好きな野生動物の姿を生で見ることのできる動物園にワクワクしながらも、せまい檻の中に閉じ込められたり、限られたスペース内を右から左・左から右と行ったり来たりするだけの彼らの姿に、ある種の失望を感じる。 その中でも特に期待はずれだったのが、オオカミやトラ、ヒョウといった夜行性の動物たち。お金を払って見に来た僕らの前でサービス精神のかけらもなく彼らはひたす

note17 : ホーチミン(2011.5.2)

【連載小説 17/100】 6年ぶりにホーチミンを訪れて驚いた。 前回泊まって気に入ったサイゴン川沿いのマジェスティックホテル・サイゴンを目指して空港からタクシーに乗って来ると、リバーサイドから見てその後方に超高層ビルが建っていたのである。 マジェスティックホテルは1925年創業のクラシックなコロニアル様式の建物で、作家の開高健が朝日新聞社の特派員として1964年から翌年にかけて100日間滞在したことを知り、前回の訪問では氏にならって少し長めにこのホテルに滞在して仕事を

note18 : ホーチミン(2011.5.4)

【連載小説 18/100】 旅が進むにつれ、このfacebookを使った連載ブログ形式の「note」が僕の紀行録になってきているような気がするが、PASSPOT社が提供する「SUGO6」という旅行企画のシステムを読者に紹介するミッションが僕にはある。 ちょうど昨夜が「Dice Roll」デーだったので、ホーチミンに続く僕の次なる訪問地と、まだ紹介していなかった「SUGO6」の旅でツーリストに与えられるユニークなシステムについて解説しておこう。 まずは次なるデスティネーシ

note19 : ホーチミン(2011.5.5)

【連載小説 19/100】 昨日「SUGO6」の旅程決定に関するレポートをアップした後、10ヶ月にわたる僕の旅の全ルートをこの「note」でまだ紹介していないことに気付いた。 「Travel Map」というfacebookアプリ上のルート図へのリンクをウォールで紹介してはいたが、この「note」でもテキストにして残しておこう。6大陸を巡る僕の「世界一周」は以下のように設定されている。 【アジア(26都市)】 東京(日本)→ソウル(韓国)→北京→上海(中国)→台北(台湾)

note20 : ホーチミン(2011.5.6)

【連載小説 20/100】 人の集合体である以上、国家もまた“生き物”である。 若ければ元気よく、老いると随所の具合が悪くなる。 ホーチミン滞在でしみじみ感じたのは、ベトナムという国家の“若さ”と相対的な日本の“老い”。 少子高齢化が叫ばれ出したのはいつの頃からだろう? 口では「まだまだ大丈夫」と強がりながら、身体の方はどんどん言う事を聞かなくなる老人に似て、日本という国家は年々着実に元気をなくしているような気がする。 古くは後進国から発展途上国、後発国、新興国…と、ベ

note21 : プノンペン(2011.5.10)

【連載小説 21/100】 現在、カンボジアには年間15万人強の日本人ツーリストが訪れているそうだが、僕が海外へ頻繁に出かけ出した1990年代初頭のことを考えると隔世の感がある。 国民を大虐殺したポル・ポト政権で有名な長き戦乱後のカンボジアで、国連監視のもと停戦・武装解除の監視及び民主化選挙が行われたのが1992年。 その際に日本の自衛隊を平和維持活動(PKO)に派遣するか否かを巡っておおいにもめたのを覚えているが、当時カンボジアはそれほどに危険な地で、民間人が観光に訪れ

note22 : プノンペン(2011.5.13)

【連載小説 22/100】 一攫千金を目指してアンコール遺跡の盗掘を狙う若きフランス人考古学者のクロードと正体不明のドイツ人ペルケン。 かつてインドシナの地に繁栄を誇ったクメール王朝の“王道”をたどる旅は、サイゴン(現ホーチミン)からメコン川を船で遡行し、プノンペンを経てシェムリアップへと続く。 密林の奥深く眠る未知なる遺跡を探索するふたりを待ち受けるのは過酷な熱帯の自然環境と猛暑、原住民の襲撃。 そして“女神の像”を手に入れた彼らが最後に見たものは… フランス人作

note23 : プノンペン(2011.5.14)

【連載小説 23/100】 パソコンを持たずに5日間の旅に出るから、カンボジア後のスケジュールについて出発前に手短に報告しておく。 「SUGO6」の旅の中で2回だけダイスの目を自ら決定できる「Dice Free」のシステムについて「note18」(5/4)で説明し、次の「Dice Roll」デーに権利を行使するつもりであることを表明していたが、無事手続きが完了した。 前回はホーチミンから「3」の目でプノンペンに進み、ミッションで次の都市シェムリアップまで移動することにな

note24 : メコン川(2011.5.19)

【連載小説 24/100】 プノンペンから5日間かけてシェムリアップに着いた。 メコン川とトンレサップ川を遡上する一本道(川)の旅だったから、本来なら「A地点からB地点」への旅なのだが、僕には「A地点からA地点」に戻る循環の旅だった感がある。 どこかに辿り着いたのではなく、元いた場所に帰還したという感覚が強いのは、物理的な移動よりもタイムスリップのような歴史を遡る時間を過ごしたからだろう。 現代文明からしばし遠ざかり、1世紀前のインドシナへの時間旅行を体験して再び現代文